( 123938 )  2023/12/20 21:08:56  
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森友遺族・夫の死を巡る法廷闘争記】

 この裁判、勝てっこない。原告の赤木雅子さん(52)にとって、それは織り込み済みのことだった。相手の土俵で相撲を取っても勝てない。裁判の流れから、そのことはわかっていた。法廷で黒野功久裁判長が「本件控訴を棄却する」と言い渡した時は、さすがに心がざわついたけど、表情は変わらなかった。

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 被告は、財務省の元理財局長で、最後は国税庁長官になった佐川宣寿氏。森友学園との国有地取引を巡る公文書改ざんで「方向性を決定付けた」と、財務省の調査報告書で指摘されている。しかし、この事件で改ざんを強要され死に追い込まれた近畿財務局の職員、赤木俊夫さん(享年54)のことについて、妻の雅子さんに謝罪や説明をしていない。

 これについて黒野裁判長は、「改ざんを指示したと評価されてもやむを得ないものといえる」と指摘した。さらに「道義的責任に基づき、あるいは一人の人間として、誠意を尽くした説明及び謝罪をすることがあってしかるべき」とまで指弾した。まさにその通り! ところが「法的には責任がない」と結論付けた。そんな理屈、世の中で通用する? もちろん、するわけない。満杯の傍聴席から抗議の声が上がった。

「なんでやねん」

「人が亡くなってるんやぞ」

「恥を知れ!」

 普通なら制止されるところだが、裁判長はヤジがないかのように淡々と理由を読み続けた。制止するのがためらわれたのだろう。

 それより、相手の佐川氏。ついに一度も法廷に姿を見せなかった。それどころか、判決の法廷には代理人の弁護士の姿もなく、被告席はからっぽだった。

■改ざんのいきさつを説明してほしかった

 雅子さんは、亡き夫を死に追い詰めた公文書改ざんについて、「方向性を決定付けた」と指摘された佐川氏に、いきさつを説明してほしかった。ただ、それだけだ。

 だから、実は先月初め、弁護士を通し佐川氏に和解を申し入れる手紙を送っていた。佐川氏が俊夫さんの墓前か自宅の祭壇の前で手を合わせ、いきさつを話してくれたら、すぐに裁判をやめる。賠償金はいらない、と。

 でも、答えはなかった。「和解に応じない」という返事すら来なかった。スルーされた。国会の証人喚問でも証言を“差し控えた”佐川氏は、今も“だんまり”を決め込んだままだ。

 佐川氏は、1審に続き控訴審でも勝った。国にかばってもらった、ように見える。でも、実は逆なんじゃないか? 雅子さんは判決後、報道各社の取材に語った。

「佐川さんは国に守られたようでいて、実はまた捨てられたんだと思います。役所を辞めても、組織のために本当のことをしゃべらないんでしょうけれど、しゃべらない限り、つらい毎日が続くはずです。話す場所を奪われ、闇に葬られて、一番気の毒なのは佐川さんなのかもしれません」

 最後に、今の心境を歌に例えた。

「『負けないで』ですね」

 ZARDの30年前のヒット曲。ボーカルの坂井泉水は歌った。

「負けないで もう少し

 最後まで 走り抜けて

 どんなに 離れてても

 心は そばにいるわ

 追いかけて 遥かな夢を」

 雅子さんも夢を追い続けるのだろう。真実がわかるその日まで。

(相澤冬樹/ジャーナリスト・元NHK記者)

 
 

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