( 124161 )  2023/12/23 11:39:14  
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 2023年最後の日銀金融政策決定会合では、マイナス金利の解除はなく、現状維持で決まった。

 もっとも、2024年という時間軸で見た場合、マイナス金利の解除は既定路線。あとは「いつやるか」というくらいしか論点は残っていない。

 政治日程を考えると実は簡単ではないが、5月の多角的レビューを踏まえた6月か7月が有力なのではないか。

 (唐鎌 大輔:みずほ銀行チーフマーケット・エコノミスト)

【写真】3会合連続で金利を据え置いた米FRB。2024年早期に利下げに転じるという見方が広がっている

■ 残る論点は「いつやるか」だけ

 注目された2023年最後となる日銀金融政策決定会合だが、結局は現状維持で決定した。会合前に注目された「チャレンジング発言」について、日銀の植田総裁は今後の取り組み姿勢を問われたので「一段と気を引き締めて」という意味で発言したと述べた。案の定の結末である。

 総裁会見においても、賃金・物価の好循環(いわゆる第二の力)に関しては「なお見極めていく必要がある」と発言。今後についても「焦って政策変更は不適切」と述べるなど、明確なゼロ回答を提示した格好である。この答弁を見る限り、1月のマイナス金利解除も視野からは消えたと考えてよいだろう。

 もっとも、12月6日の講演で、日銀の氷見野副総裁が「全部青信号がともることは実際の経済ではない。いろいろなシグナルが混じる中で判断する」と言っていたように、経済・金融情勢に多少の疑義が残ってもマイナス金利解除に踏み込む可能性はある。

 2024年という時間軸で見た場合、マイナス金利解除は既定路線であり、あとは「いつやるか」というくらいしか論点は残っていないのも事実である。

 では、改めてマイナス金利解除時期をどう考えるべきか。

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■ マイナス金利解除は最速で6月か

 引き続き筆者は2024年春闘の仕上がりや多角的レビュー(5月に第二回開催予定)の結論を踏まえ、最速で6月、もしく7月の展望レポート公表時を想定している。

 今回の見送りでこの想定は現実味を増したと言える。

 植田総裁の会見から察する通り、1月も見送りだとすれば、実務上の準備を要すると言われるマイナス金利解除を期末(3月)に差し込むのも難渋するであろうから、最短で4月の展望レポート公表時が選択肢になる。

 元より「春闘を見極めて最短4月」は市場予想のコンセンサスであったが、筆者はやはり時間と労力をかけた多角的レビューの結論はマイナス金利解除時に引用したいのではないかと考えている。それゆえ、従前通り、6月ないし7月の解除予想を維持する。

 もっとも、自民党総裁選(2024年9月)前に解散総選挙があるという政治日程を前提とすれば、6月や7月も決して難易度が低い時期とは言えないことも留意はしたい。結局、12月解除を避けたことで、隘路にはまった感はある。

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 最大の問題は解除時期が4~7月のいずれであれ、海外金融情勢がそこまで待ってくれるのかという点だ。

■ 日銀にできるのはマイナス金利解除のための1回限りの利上げ

 周知の通り、12月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で米連邦準備理事会(FRB)の姿勢は急変した。今のところ、その兆候は見られないが、FRBに倣って欧州中央銀行(ECB)も同じような情報発信へ切り替えてきた場合、「世界で唯一、正常化を志向する中銀」として日銀の政策環境は相当窮屈になる。

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 「そうなる前に日銀は正常化すべき」というロジックに関して、植田総裁は「不適切」と断じているが、元より他国中銀や為替の動向を前提として総裁が発言するわけにはいかないだろう。本音はある程度、別のところにあっても不思議ではない。

 しょせん日銀の目指すところは「+10bp引き上げによるマイナス金利解除ワンショット」であり、連続的な利上げではない。そうであれば、年明け以降、どのタイミングでも「やろうと思えばできる」という考え方もある。

 全くもって好ましいやり方ではないが、現状では可能性が著しく低下したと見られる1月会合に関しても、事前報道を通じて織り込ませにかかるという線がないわけではない。

 もっとも、連続的な利上げが事実上不可能だとすれば、マイナス金利解除は「日銀発の円高材料出尽くし」を意味する。建前はどうあれ、仮に日銀の本音が円安抑止にフォーカスされたものだと考えた場合、正常化に向かって二の矢、三の矢を放つことができないのであれば、マイナス金利解除は「円安の芽が摘まれた」と判断できるタイミングでしか難しいのではないか。

 ドル/円相場はピークアウトしたとはいえ依然140円台であり、足許(144円)から少しでも円安が進めばすぐに150円の声が聞こえてくるだろう。現時点で「万策尽きた」という空気を出すわけにはいかない。

■ 実は円安材料になりかねないマイナス金利解除

 政治ひいては世論に配慮してマイナス金利解除を控えるという雰囲気は、もはやそれほど大きいものではない。これは「マイナス金利が円安の元凶」と考える人々が多く、その円安を忌み嫌う人々が増えているからだ。マイナス金利解除が円安抑止に必要と考えられるならば、世論がそれに反対する理由はない。

 しかし、万が一マイナス金利解除をしても円安が解消されないとなると、「円安は残るし、金利も上がる」という政治的には最悪の組み合わせが残ってしまう。

 特に、マイナス金利解除は住宅ローン変動金利との連動性が取りざたされやすいのでより不安を掻き立てる。そこまで負担を強いられて円安も解消されないという状況を世論は許容しない。そもそも為替は日銀の政策運営次第でコントロールできるものではないのだが、そこに理解を示すほど世論は冷静ではない。

 政府・与党の現状を踏まえれば、金融政策をトリガーとして世論の反感を買うわけには絶対にいかず、ブルームバーグ事前報道にあったように「12月に急ぐ必要はない」というのはまさに政府・日銀からすれば強い本音だったと推測される。

 いずれにせよ、2024年についてマイナス金利解除ありきでストーリーを作ることに異論はないが、それだけで円高基調が到来することはあるまい。

 ※寄稿はあくまで個人的見解であり、所属組織とは無関係です。また、2023年12月20日時点の分析です。

 唐鎌大輔(からかま・だいすけ)

みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト

2004年慶応義塾大学卒業後、日本貿易振興機構(JETRO)入構。日本経済研究センターを経て欧州委員会経済金融総局(ベルギー)に出向し、「EU経済見通し」の作成やユーロ導入10周年記念論文の執筆などに携わった。2008年10月から、みずほコーポレート銀行(現・みずほ銀行)で為替市場を中心とする経済・金融分析を担当。著書に『欧州リスク―日本化・円化・日銀化』(2014年、東洋経済新報社)、『ECB 欧州中央銀行:組織、戦略から銀行監督まで』(2017年、東洋経済新報社)、『「強い円」はどこへ行ったのか』(2022年、日経BP 日本経済新聞出版)。

唐鎌 大輔

 
 

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