( 128440 )  2024/01/14 13:06:16  
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石川県輪島市の大川浜に各種機材を揚陸する海上自衛隊のLCAC(画像:海上自衛隊)。 

 

 最も起きて欲しくない地域での地震でした。石川県の能登半島は、紀元前500年ごろに中国で書かれた兵法書『孫子』でいうところの「隘」「険」の地形です。こういった場所は一度に通れる人数が少ないため、戦時なら少数の兵力で大兵力の敵を効率的に迎え撃つことができると『孫子』では解説されています。 

  

 被災地では、もともと少なくて狭い陸路が寸断され、十分な救援が送り込めない事態となっています。陸路が使えなければ海路からということで、能登半島北部では海上自衛隊の輸送艦「おおすみ」が搭載するエアクッション艇(LCAC)が、海から物資を輸送しています。 

 

「おおすみ」艦内から見たホバークラフトの離艦 すごい迫力! 

 

 いわゆるホバークラフト(ホーバークラフト)であるLCACは、浮上航行できる特性を生かして港湾施設がなくても陸に乗り上げ、重機やトラック、支援物資を被災地に直接送り込めます。海上自衛隊が装備しているのはアメリカ製で、アメリカ海兵隊が使用しているものと同型です。1993(平成5)年から調達が開始され、2024年現在はおおすみ型輸送艦3隻に2艇ずつ、計6艇を保有しています。 

 

 LCACの本来の任務は島嶼防衛ですが、東日本大震災をはじめ、いくつもの災害派遣でも活躍しています。ただ、これさえあれば今回のような状況を一気に打開できるというものでもありません。能力を発揮するには前後の手順があります。 

 

 例えば、上陸する場所の選定です。LCACを砂浜に乗り上げさえすればよいというものでもなく、砂浜の砂も上陸作戦の大敵になります。 

 

海岸に待機する揚陸支援用の道路マット敷設車と重レッカ。この時は重レッカがスタックしてしまっていた。静岡県の沼津海浜訓練場に上陸する様子で、能登半島への支援とは無関係(月刊PANZER編集部撮影)。 

 

 実際に砂浜を自分の足で走ってみると分かりますが、足元が沈みかなり体力を消耗します。ビーチバレーは見た目以上にハードな競技です。上陸作戦では、舟艇から歩兵が降りて徒歩で海岸に展開しますが、携行した装備の重さで砂地に足を取られ、転びやすく動きは緩慢にならざるを得ません。 

 

 そうした時、砂浜を乗り越えて運んでくれる水陸両用車のありがたみが分かります。自動車は4WDでも、油断すればタイヤはすぐに砂に潜り込んでスタックしてしまいます。 

 

 LCAC自体はある程度の海面浮遊物も乗り越えて砂浜に到達できますが、ようやく運んできた車両は、降ろされた瞬間からスタックする危険性があるのです。実際に上陸訓練でも車両がスタックするシーンを見かけます。 

 

 またLCACを海岸に付けるには様々なノウハウが必要です。LCACは全長約28m、全幅約14m、基準排水量85tという大きさで、強烈な風圧も巻き起こすためどこの海岸でも入り込めるというわけではありません。天候も含め海岸の状況を事前偵察し、誘導員を配置し車両を降ろせる適切な場所を選定する必要があります。 

 

 大型トラックが下手なところでスタックすれば障害物にすらなってしまいます。車両の選定や運ぶ順番も見極めなければなりません。ブルドーザーやレッカー車、道路マット敷設車など上陸支援機材も必須です。 

 

 

 
 

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