( 130053 )  2024/01/18 22:28:28  
00

Photo:Jun Sato/gettyimages 

 

 「政治資金パーティー」を巡る事件によって、自民党の信頼性が大きく低下している。野党にとっては政権交代を狙う好機だといえるが、各野党にも覇気がない。もはや野党は自民党の「対抗勢力」ではなく「補完勢力」に成り下がっている。その状況下で、自民党の対抗馬になり得る“第三勢力”が台頭の兆しを見せている。一体どのような集団なのか――。政治学者が独自の見立てを展開する。実業家・堀江貴文氏が昨年述べていた、政権交代についての興味深い「新説」も合わせて解説する。(立命館大学政策科学部教授 上久保誠人) 

 

● 自民党への不信感が高まるも 野党への期待感は薄いまま 

 

 自民党派閥の「政治資金パーティー」を巡る事件が意外な展開を迎えている。 

 

 まず東京地検特捜部(以下、特捜)は1月7日、元文部科学副大臣の池田佳隆衆議院議員を政治資金規正法違反の疑いで逮捕した(自民党内では除名処分となった)。続いて、安倍派・二階派の会計責任者を在宅起訴する方向で検討中だと報じられた。 

 

 だが「会計責任者との共謀」の立証が困難であるため、安倍派幹部議員の立件は断念される見込みだという(1月13日付、毎日新聞より)。「不正に手を染めた大物議員が一網打尽にされるのでは」と期待した国民がいたかもしれないが、そうならない可能性が高そうだ。 

 

 もともと政治資金規正法は、悪質性の低い「形式犯」とされてきた。特捜が動いたにもかかわらず、今回も根本的な解決には至らないかもしれない――。その現実を、われわれは冷静に受け止める必要があるだろう。 

 

 ただし、安倍派幹部議員が立件されなくても、政治家に対する国民の信頼が地に落ちたことは確かだ。岸田文雄首相は難局打開を狙い、自民党内に「政治刷新本部」を設置したが、国民からの不信感を払拭する効果は得られていない。 

 

 というのも、同本部の初会合では「派閥解消」を巡る激しい党内対立があったという。この期に及んで「派閥」にこだわる自民党議員に対し、あきれている国民も少なからずいるはずだ。 

 

 自民党批判が高まる潮流に乗り、岸田内閣を追い込む好機だと意気込んでいるのが野党だ。例えば泉健太・立憲民主党代表は年頭の記者会見で、「今こそ野党が立ち上がるべきだ」と熱弁。「政治改革」「教育無償化」などを掲げ、野党の力を結集して政権交代を目指すと語った。 

 

 各党の議席数は少なくても、野党の「連立体制」を組むことで自民党を打倒しようというのだ。しかし、各野党の支持率は相変わらず伸びておらず、政権交代への期待感も高いとはいえない。それはなぜか。 

 

 

● 野党の存在感が薄れ 自民党の「補完勢力」に 

 

 その理由は、肝心の「政策面」で、自民党への明確な対立軸を打ち出せていないからだろう。 

 

 というのも、自民党は英国の「保守党」と「労働党」を合わせたような「包括政党(キャッチ・オール・パーティー)」という特徴を持つ。 

 

 いわば、自民党は日本国民のニーズに幅広く対応できる、政策的にはなんでもありの政党だ。野党との違いを明確にするのではなく「野党と似た政策に予算を付けて実行し、野党の存在を消す」のが自民党の戦い方である。 

 

 実際に、これまでの自民党は野党が考え出した政策を取り込み、野党の支持者を奪って長期政権を築いてきた。その具体的な政策は、直近であれば「全世代への社会保障」「子育て支援」「女性の社会進出の支援」などがある。 

 

 これらは、本来であれば「左派野党」が取り組むような社会民主主義的な政策だといえる。そうした経緯もあり、現在の立憲民主党、社民党、日本共産党などは、自民党の「補完勢力」に成り下がっている状況だ。 

 

 その状況下において、立憲民主党の泉代表は昨年末、有識者からの「立民は何も政策提言していない」という批判にSNS「X」(旧Twitter)で反論。「物価高騰で厳しい状況にある家計・事業者等への支援」「物価を上回る賃金上昇の実現に向けた支援」などの政策を打ち出していると述べた。 

 

 だが、「低所得世帯への給付」などは自民党も進めている。立憲民主党が家計の支援を打ち出したところで、与党である自民党が予算を付けて実行すれば、自民党の手柄になってしまう。有効な差別化戦略を打ち出せているとは言い難い。 

 

 また立憲民主党は、直近2回の国政選挙で掲げた「消費減税」を、次期衆院選公約に明記しなかった。政権交代を目指す「責任政党」の姿勢を強調するためだという。昨今の政局に鑑みると、自民党との差別化を図るなら「減税」を打ち出すのが有効な手だてのように思えるが、それを捨てては、ますます存在感が薄れてしまう。 

 

 このように「自民党の左傾化」「野党の補完勢力化」が進む現在の日本政治は、もはや「保守VSリベラル(革新)」という従来の枠組みでは説明できなくなっている。 

 

 

● 「保守VSリベラル」ではない 日本社会の「新しい対立軸」とは? 

 

 先ほども述べたが、現在はあらゆる政党が「弱者救済」を志向しており、似通っている政策が多い。その一方で、今は自民党・野党を問わず、さまざまなイデオロギーを持つ政治家が増えている。 

 

 もともとは保守系だが、マイノリティーの権利保護に熱心な政治家。本来はリベラル系だが、安全保障政策の拡大を主張する政治家――。 

 

 所属政党に関係なく、一人一人の政治家が多様な考え方を持ち合わせる時代になっているのだ。この入り組んだ状況を、「保守VSリベラル(革新)」という単純な対立項で論じるべきではないだろう。 

 

 にもかかわらず、政治学の世界では現在、「ネオ55年体制」という言葉が流行している。 

 

 自民党が優位である構図と、与野党のイデオロギー的な分極化が、かつての「55年体制」と似通っているというのだ。言うまでもなく、筆者はこの考え方に違和感がある。 

 

 現在の政局が「55年体制」と同じに見えるのは、政界の極めて細かい部分に着目しているからだろう。確かに憲法や安全保障政策の細部を巡っては、与野党は相変わらず論争を繰り広げている。だが視野を広げれば、「弱者救済」という根本は同じである。 

 

 また少数派を除けば、多くの政党は「台湾有事」「北朝鮮のミサイル開発」といった脅威について、対話などを通して現実的に対処するしかないと考えている。東西冷戦期と比べれば、集団的自衛権の解釈や武力行使を巡る「大きな分極」は存在しない。 

 

 では、今の日本社会に存在する「新しい対立軸」が何かというと、政治の「内側」対「外側」だ(第294回)。政治家と一部の有権者の間で分断が起きており、今後さらに加速する可能性が高いとみている。 

 

 どういうことか説明しよう。筆者の見立てでは、今の政治の内側には「社会安定党」と呼ぶべきグループがある。その対抗勢力として、政治の外側に「デジタル・イノベーショングループ」と呼ぶべき集団が出てきている。 

 

 

● 「弱者救済」ではなく「勝ち組」を目指す 「デジタル・イノベーショングループ」とは? 

 

 「社会安定党」は、デジタル化などについていけない「負け組」「弱者」を守るためにある。現在でいえば、自民党・公明党の連立与党と、両党を補完する立憲民主党・社民党・日本共産党・れいわ新選組などで構成される。 

 

 与野党が混在する同グループの政策は、(1)弱者・高齢者・マイノリティー・女性の権利向上、(2)同一労働同一賃金・男女の賃金格差解消、(3)外国人労働者の拡大・斜陽産業の利益を守る公共事業の推進、(4)社会保障や福祉の拡充・教育無償化――などだ。 

 

 いわば、社会の急速な進化と、それに伴って生じる格差から「負け組」を守るシェルターを作ることが「社会安定党」の役割である。 

 

 一方、政治の外側にいる「デジタル・イノベーショングループ」には、SNSで活動する個人(インフルエンサー)、起業家、スタートアップ企業・IT企業のメンバーなどが含まれる。 

 

 彼・彼女らは「勝ち組」を目指す「強者」である。第一の関心事は、自分の利益でありキャリアアップだ。加えて、日本のデジタル化やスーパーグローバリゼーションなど、社会の発展にも関心がある(第249回・p2)。 

 

 そのため、「社会安定党」と「デジタル・イノベーショングループ」の思想・信条は大きく異なっている。 

 

 もし「デジタル・イノベーショングループ」が野党のいずれかを支持すれば、その政党は「社会安定党」を抜け出し、自民党の対抗馬になるだろう。だが今のところ、彼・彼女らの支持に値する政党は出現していない。 

 

 本連載ではかつて「デジタル・イノベーショングループ」から支持される可能性を秘めた政党として、日本維新の会(以下、維新)に期待していた(第329回)。 

 

 だが結局のところ、維新の改革の中身は、地方分権・行政改革・規制緩和など「90年代の自民党」に似た「古さ」を感じさせるものにとどまっている。「インターネット投票の実現」「中央デジタル通貨の研究開発」といった政策提言を行ってはいるものの、与党でないこともあり、実現可能性は乏しい(参考資料)。 

 

 維新の馬場伸幸代表が「維新は第二自民党」と発言するなど、「自民党を支持する保守層を取り込む」という発想から脱却できていない点も気掛かりだ。このままでは、維新は「社会安定党」を構成する勢力に成り下がってしまうだろう。 

 

 かといって、「デジタル・イノベーショングループ」が自民党を支持することもない。確かに自民党は「デジタル庁」を立ち上げて、マイナンバー関連をはじめとするデジタル政策を推進してきたが、日本のデジタル化は他の先進国よりも相当に遅れている。その水準は、彼・彼女らが到底満足できるものではないからだ(第312回)。 

 

 

 
 

IMAGE