( 130351 )  2024/01/19 14:16:43  
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 筆者は一貫して早期に金融政策の正常化に向かうべきだと考えているが、年末以降、次々に噴出した抑制要因に懸念を持っている。 

 

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 日銀は昨年12月18・19日の金融政策決定会合で、金融政策を据え置いた。前編『日銀・植田総裁が「思考停止」に…!? アメリカ当局に翻弄される「金融正常化」、その日和見主義にみる「金融敗北」の無残な中身』で説明したとおり、植田和男日銀総裁が政策変更に「チャレンジング」という非常に積極的な発言をしておきながら、それを覆した。 

 

 事前に行われた米国のFOMC(米連邦公開市場委員会)で利下げ政策への転換を打ち出したことから、これを見て日銀は日和見に走ったのではないかという印象を筆者は持った。 

 

 加えて、政治の混乱と能登半島地震が日銀の金融政策変更を難しくする可能性がある。日銀の金融政策判断は、迷宮に入り込んでしまわないだろうか。 

 

筆者作成 

 

 13年3月に黒田東彦総裁就任以降に開始され、10年以上経った現在も継続している金融緩和策だが、結局、金融政策では日銀が目標に掲げる「2%の物価安定」は達成できなかった。 

 

 ところが、21年半ばから新型コロナで停滞した経済が再活動を始動するにあたって、資源・エネルギー価格が上昇したことや円安進行により物価上昇が始まった。 

 

 特に、米国のインフレ率上昇は日本の比ではなく、米国では22年3月に金融緩和策から金融引き締め策に転換し、23年7月までに11回も利上げを行った。 

 

 この米国の利上げにより、日米の市場金利差が拡大し続けたことで、21年初めに1ドル=104円台だった為替相場は、23年10月には1ドル=150円台という50円近い大幅な円安が進行した。 

 

 この大幅な円安がエネルギー・資源から食料に至るまで、ありとあらゆるものを輸入に頼る日本の輸入物価を上昇させたことが、現在の物価高の大きな要因になっている。 

 

 これは、為替円安の動きと消費者物価(生鮮食品を除く総合指数)の前年同月比の動きは見事にリンクしていることでも明らかだ。 

 

 つまり、今後始まる米国の利下げは、これまで物価上昇を支えてきた円安が円高に転換することで、物価も下落へと向かう可能性があるということだ。 

 

 

植田総裁は、「八方ふさがり」になりはしないか…Photo/gettyimage 

 

 物価上昇で生活が厳しくなり批判を浴びている日銀にとって、物価上昇が止まることは歓迎できても、円高が進めば、「2%の物価目標」が達成できなくなるジレンマを抱える。ましてや、日銀が金融政策を変更し、ゼロ金利政策の終了や、金利上昇をある程度容認すれば、米国の利下げと相まって、急速な円高が起こるリスクも高めることになりかねない。 

 

 となれば、為替相場は、円安の進行した50円分の3分の1戻し水準である1ドル=130円台、場合によっては、半値戻し水準の1ドル=120円台まで円高が進行する可能性を秘めている。 

 

 それでは、日銀が掲げる2%の物価目標が達成できる為替水準よりも円高が進行し、目標達成ができなくなってしまう。 

 

 これが、日銀が金融政策の修正をためらい、米国の金融政策の行方に左右されかねない要因だ。だが、為替相場の動向が物価に与える影響を見ながら、金融政策の変更を見極めようとすれば、金融政策は迷宮に入り、“金縛り状態”におちいってしまう。 

 

筆者作成 

 

 確かに為替相場の動向と消費者物価の動きはリンクしているが、そこにはタイムラグがある。 

 

 企業物価指数(旧卸売物価指数)の輸入物価指数と消費者物価の前年同月比の動きを見ると、輸入物価指数が上昇して、それが消費者物価の上昇に反映されるまでには、3~6ヵ月のタイムラグがあることがわかる。 

 

 つまり、為替相場の動きが卸売物価に反映されるタイムラグに加え、卸売物価が消費者物価に反映されるタイムラグがあり、為替相場の動向が消費者物価に与える影響を見ながら、金融政策を決めていくことは“至難の業”なのだ。 

 

 その上、輸入物価指数はすでに23年4月から前年同月比で下落に転じており、11月まで8ヵ月連続で下落している。消費者物価指数も23年1月の前年同月比4.2%の上昇から低下傾向を続けており、11月には同2.5%まで低下している。 

 

 従って、植田総裁が言うように、米国の金融政策(利下げ)の影響が為替相場の変動を通して、物価へどのような影響を与えるかを見極めるためには、極論をすれば、米国の利下げ政策が終了し、為替水準が安定して、物価への影響が明らかになるまで、日銀は金融政策を変更できないということになる。 

 

 そして、いま政治とカネの問題や能登半島の震災を引き合いに、金融政策への影響が高まるという見方が広がっている。 

 

 しかし、米国の金融政策の行方や政治の混乱に影響されるような金融政策のあり方が、「独立して遂行された金融政策」と言えるだろうか。 

 

 

 市場では、1月22日・23日に行われる金融政策決定会合で、日銀が新たなファワード・ガイダンスを行うとの観測もある。日銀は次の金融政策決定会合で、金融政策の正常化に向けた状況が混沌としているからこそ、正々堂々とファワード・ガイダンスを行い、粛々と中央銀行としての考え方、金融政策の方向性を示すべきだ。 

 

 さらに、「2%の物価目標」を見直し、その呪縛を解くことが、日銀の金融政策の選択を大きく広げることになるだろう。 

 

 さらに連載記事『その時、現場は凍り付いた…! 植田日銀総裁に「経済学の大天才」が噛みついた! その「空気よまない直言」のヤバすぎる中身』では、金融政策の在り方についての議論を紹介しているので、こちらも参考としてほしい。 

 

鷲尾 香一(ジャーナリスト) 

 

 

 
 

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