( 130401 )  2024/01/19 15:04:56  
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ソフトバンクから西武に移籍する甲斐野央 ©時事通信社 

 

 山川穂高内野手(32)のFA移籍に伴う人的補償で西武に移籍した、ソフトバンクの甲斐野央投手(27)。西武は当初は和田毅投手を指名しようとしたが、和田が現役引退の意思を示して移籍を拒否したため、急きょ甲斐野が選ばれたという。 

 

【画像】実は西武に移籍できて嬉しかった? 

 

 甲斐野は昨年リリーフの主力として活躍し、28人のプロテクト名簿に入っていたとみられている。その彼が“超法規的措置”で移籍を余儀なくされたことも漏れ伝わってきて、「ソフトバンクと和田のとばっちりではないか」という同情論が噴出した。 

 

 しかし、あるパ・リーグ球団の編成担当は「今回の移籍は甲斐野にとって“渡りに船”と言えるラッキー」と語る。 

 

「甲斐野は以前から、ソフトバンクが外様の選手や外国人選手を厚遇して生え抜き選手を軽く扱いがちなことに疑問を持っていましたから。トレードでの移籍を希望していた、という話も出ています」 

 

 2023年シーズンのソフトバンク選手の推定年俸を見ると、6億5000万円のロベルト・オスナ投手がトップで、6億2000万円の柳田悠岐外野手、5億円の有原航平投手が続く。トップ10の中で生え抜き選手は柳田のほか、森唯斗投手(23年限りで戦力外、DeNA入り)、今宮健太内野手、甲斐拓也捕手の4人だけだ。 

 

 ソフトバンクは2022年オフにオスナ、有原、近藤健介(推定年俸2億5500万円)らの獲得で「80億円補強」を敢行し、総年俸は12球団で断トツだ。特に近年は豊富な資金力に物を言わせたチーム強化を進めているが、3年連続で優勝を逃すなどコストパフォーマンスは極めて悪いと言わざるを得ない。 

 

「カネにものを言わせて選手を買い漁る手法はひと昔前の巨人のようです。巨大戦力を持て余している点もよく似ています。ただ巨人は生え抜きを大事にする球団で、ソフトバンクはそこが違います。長年、リリーフで貢献してきた森も簡単に切られましたし、甲斐野のようなドライチ(ドラフト1位入団)でも年俸がそこまで上がらない。チーム内には不満が燻っています」(同編成担当) 

 

 甲斐野は65試合に登板した1年目の19年に年俸が1500万円から5000万円にアップ。しかし、20年は右肘の故障で1軍登板がなく3800万円に減り、2023年は46試合で防御率2.53と好成績を残したものの、400万円増の4000万円にとどまっている。 

 

 

 一方でソフトバンクフロントは、ロッテから引き抜いたオスナに6億5000万円という大枚をはたいた。さらにメジャーとの争奪戦の末、4年40億円規模のオファーで慰留している。1年当たりに換算すれば、田中将大投手(楽天)が21、22年に記録した9億円を超えるNPB史上最高額の10億円となる。 

 

「オスナの契約に驚いたのは甲斐野だけではありません。争奪戦で条件がつり上がったとはいえ、これだけの格差を知れば、生え抜きの士気が上がるはずはありません」 

 

 こう語るのは、あるソフトバンクのチーム関係者だ。甲斐野の4000万円という待遇も「あまりに安い」と同情を隠さない。 

 

「西武は平良海馬投手の先発転向に加えて増田達至投手も35歳になり、甲斐野がクローザーを任される可能性は十分にあります。リリーフに問題を抱える西武にとっては42歳の和田以上の戦力でしょう。しかしソフトバンクにとって和田は『チームの顔』。その和田が移籍に難色を示した時には王貞治会長も『大変なことになった』と言うほどで、追い込まれたフロントは甲斐野を差し出さざるを得なかったんです」 

 

 最速160キロとフォークボールを武器とする甲斐野に対し、西武の松井稼頭央監督は「終盤を任せられる投手という意味では三振の取れる投手なので、非常に大きな戦力になってくれると思う」と大きな期待を寄せる。 

 

 甲斐野自身も人的補償に付きまとう暗い影を感じさせず、むしろ西武に必要とされたことを意気に感じ「守護神を狙いたい」と既に気持ちは切り替えたようだ。 

 

 さらにまだ27歳の甲斐野にとって西武移籍にはもう1つ、利点がある。ポスティングシステムによるMLB挑戦だ。 

 

 実はソフトバンクは、12球団で唯一ポスティング移籍を容認していない。今オフに三笠杉彦GMが容認への方針転換に含みを持たせたものの、いまだハードルは高いと言っていいだろう。 

 

 甲斐野は最短で27年オフに国内FA、29年に海外FAの権利を取得するが、それを待っていると33歳で渡米することになる。 

 

 しかしポスティング移籍に寛容な西武なら、30歳頃にはポスティングでのメジャー挑戦が認められる可能性はある。 

 

 米大手マネジメント会社の代理人は「甲斐野の速球とフォークはメジャーでも通用するとみられています。気になるのは故障歴がある肘で、トミー・ジョン手術を受けていないことが問題視されるかもしれませんが、西武でリリーフとして実績を積んでいけば松井裕樹投手(パドレス)クラスのオファーは狙えるでしょう」と指摘する。 

 

 昨季は近藤の人的補償として、ソフトバンクから日本ハムに移籍した同じドライチの田中正義投手がクローザーに定着するなど飛躍を遂げた。きっかけはともあれ、甲斐野の展望も大きく開けてくるかもしれない。 

 

木嶋 昇 

 

 

 
 

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