( 130859 )  2024/01/20 23:45:33  
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植田和男日銀総裁の一手が注目される 

 

【森永康平の経済闘論】 

 

昨年の日本経済を振り返ってみれば、1つのテーマにインフレが挙げられるだろう。これまで長くデフレ経済に苦しみ、日銀もデフレ脱却を掲げて異次元の金融緩和を継続していたことを考えれば、いよいよ日本経済も大きな転換点を迎えたかのように感じられる。 

 

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しかし、経済にそれほど興味や関心がない方からは、デフレ脱却を目指していたのに、いざインフレになったら生活が苦しくなったため、『これなら物価が下がるデフレの方がよかったではないか』という意見も散見された。 

 

私はここ数年、インフレには大きく分けて2つの種類があると主張し続けてきた。1つは需要が物価を押し上げる「ディマンドプル型」で、もう1つはコストが物価を押し上げる「コストプッシュ型」だ。言うまでもなく、昨年日本で生じたのは後者のインフレで、これを「悪いインフレ」と表現することもある。 

 

厚労省の毎月勤労統計調査によれば、実質賃金は20カ月連続でマイナスとなっており、総務省の家計調査によると実質消費支出は9カ月連続でマイナスだ。賃金上昇の速度を物価上昇の速度が上回っていることから家計は節約を始めており、国内総生産(GDP)の半分以上が消費で構成されているわが国において、消費が冷えるということは景気が後退していくことを意味する。景気後退下での物価上昇はスタグフレーションとも呼ばれる。 

 

2022年4月に『スタグフレーションの時代』(宝島社新書)を出版したこともあり、「森永さん、予想が当たりましたね」と声をかけられることもあるが、実際は多くの批判を浴び続けている。なぜなら、私は同書で「日本はスタグフレーションを経験した後に、政策次第では再びデフレ経済に回帰する」と予想していたからだ。 

 

昨年も事あるごとにデフレ回帰への懸念を唱え、日本も含めて世界がインフレに苦しむ中で、いまだにデフレの危機を煽(あお)るのは専門家としていかがなものか、という批判を受け続けた。 

 

それでは、反省して意見を変えるのかといえば、自説を曲げる気はない。既に家計が節約に走っていることが明確ななかで、企業が今後も値上げをし続けることは難しいだろう。現在、原油をはじめとするエネルギーや素原材料の価格は落ち着き始め、最大の貿易相手国である中国では既にデフレの影がちらついている。また、今年は日本が金融緩和を解除し、米国が金融緩和をする可能性がある。その場合、日米金利差が縮小し、円高方向に為替が動くだろう。これもまたデフレ要因となる。 

 

 

多くの専門家が継続的なインフレを主張するなかで、一人ぐらいはデフレを主張する専門家がいてもいいだろう。 

 

■森永康平(もりなが こうへい) 経済アナリスト。1985年生まれ、運用会社や証券会社で日本の中小型株のアナリストや新興国市場のストラテジストを担当。金融教育ベンチャーのマネネを創業し、CEOを務める。アマチュアで格闘技の試合にも出場している。著書に父、森永卓郎氏との共著『親子ゼニ問答』(角川新書)など。 

 

 

 
 

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