( 130987 )  2024/01/21 14:10:24  
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宅配の軽バンイメージ(画像:写真AC) 

 

 先日、筆者(坂田良平、物流ジャーナリスト)の自宅の玄関にアマゾンからの見知らぬ荷物が“置き配”されていた。よく見ると、その荷物の宛先は筆者の自宅とは別の住所だった。 

 

【画像】えっ…! これがトラック運転手の「年収」です(計15枚) 

 

 この誤配された荷物を返品すべく、アマゾンのコールセンターに問い合わせると、担当者は申し訳なさそうに筆者にこう告げた。「申し訳ございません。 

 

「お手数ですが、その荷物は廃棄していただけますか」 

 

 聞くと、中身は数百円の文房具だという。最初は、商品が安かったからなのかと思ったが、荷物の値段でアマゾンの判断が変わることはないようだ。筆者の知人には、“おいへの誕生日プレゼント”としてふたつの商品が届いた。それぞれ1万円を超えるものだったようで、筆者と同様に処分するよう指示されたそうだ。 

 

 補足しておくと、日本郵便を使って着払いで返送する方法もあるらしい。ただし、コールセンターの担当者によると、「集荷には対面で対応していただく必要があるため」、こうしたケースでは、まず誤配された荷物の処分を依頼するとのことだ。 

 

「誤配した配送担当者に回収させればよいのではないか」 

 

という筆者に、担当者はさらに驚く内容を告げた。 

 

「今回配送を担当したのは、アマゾンが業務委託契約を結ぶ個人事業主の軽貨物自動車運送事業者であり、契約外の連絡はできないことになっています」 

 

つまり、誤配をした当人には、自らやらかした誤配を正す機会も与えられなければ、誤配した事実を伝えることすら「契約外の連絡」に該当するため、できないのだという。 

 

 アマゾンの立場からすれば、返品にかかるコストなど経済合理性に基づいた判断なのだろうが、あまりにもドライな判断であることに驚きと疑問を感じる。 

 

 そして、日本の物流業界で大きな存在感を持つアマゾンのこのような非倫理的な判断(とあえていい切ろう)は、日本のBtoC物流ビジネス、特に 

 

「軽貨物自動車を用いた運送ビジネス」 

 

に歪みをもたらすのではないかと危惧する。 

 

 

置き配のイメージ(画像:写真AC) 

 

「宅配ボックスが空のまま施錠されて困っています」 

 

というNHKの報道があった。 

 

・マンションの宅配ボックスが空のまま施錠されている。 

・理由は、個人事業主の軽貨物自動車運送事業者が結託し、宅配ボックスをキープしているから。 

・軽貨物自動車運送事業者の立場では、宅配ボックスに空きがないことで再配達になることが嫌なのはわからないでもない。その結果として、マンションへの配達を担当する軽貨物自動車運送事業者らが結託して、宅配ボックスの暗証番号を共有、「空の宅配ボックスを不正な方法でキープする」というモラルハザード(倫理観の欠如)が発生している。 

 

 筆者が一部のフリーランスの軽貨物自動車運送事業者のこのようなふらちな行為に気づいたのは、半年ほど前のことである。しかし、NHKの報道によれば、このような不正行為が確認されたのは2021年の秋ごろだという。 

 

 アマゾンには主に三つの配送方法がある。 

 

●アマゾンフレックス 

 個人事業主(フリーランス)の軽貨物自動車運送事業者と業務委託契約を結び、配達を担う。 

 

●デリバリープロバイダ 

 デリバリープロバイダと呼ばれる運送会社に配達を委託。デリバリープロバイダの社員ドライバーが配達を行うケースもあるが、デリバリープロバイダが業務委託契約を結ぶ個人事業主の軽貨物自動車運送事業者による配送が大半を占めていると考えられる。 

 

●宅配事業者による配送 

 宅配事業者に配達を委託。現在は、日本郵便がその大半を請け負う。 

 

 宅配ボックスを不正占拠しているのは、アマゾンフレックスとデリバリープロバイダの下で働く個人事業主の軽貨物自動車運送事業者(軽バン配達員)だと考えられる。なぜ、一部の軽バン配達員は、このようなふらちな行為に手を染めるのか。 

 

 アマゾンの配達を担う軽バン配達員は、2~3分に1個の荷物を配達しているといわれている。筆者が東京で出会ったある配達員は、1日13時間働き、平均300個の荷物を配達しているといっていた(さすがにこれはイレギュラーだと思うが)。そんな一分一秒を惜しむ働き方をしている軽バン配達員たちは、できるだけ多くの配達をするために、宅配ロッカーを不法に占拠していると考えられている。 

 

 他にも、駐車禁止場所(例えば交差点内、駐停車禁止場所など)に駐車して配達を行う軽バン配達員や、他人の駐車場や私有地に駐車する軽バン配達員などを目にすることがある。このようなモラルハザードが、あちこちで見受けられるようになった。 

 

 

軽バン配達員のイメージ(画像:写真AC) 

 

 宅配は物流全体の数%にすぎない。詳しくは、筆者が当媒体に書いた記事「個人が宅配を始めても「ドライバー不足」は全然解消しない! そもそも「運送 = 宅配」は完全な間違いだった」(2022年10月16日配信)を参照してほしい。 

 

 2022年度、宅配便の取り扱い個数は50億個の大台を超えたが、宅配便の95%は、 

 

・ヤマト運輸 

・佐川急便 

・日本郵便 

 

の3社が占めており、以下、福山通運、西濃運輸と続く。 

 

 日本の宅配品質、特にヤマト運輸と佐川急便の配送品質は極めて高い。先日、エックス(旧ツイッター)で、とある投稿が話題になった。 

 

 あるとき、佐川急便のドライバーがまだ幼い(と思われる)子どもに荷物を渡そうとせず、「お母さんを呼んで」とかたくなに主張したという。荷物の中身はクリスマスプレゼントだった。配達員は、子どもがいつも品名を確認しているのを知っていたので、クリスマスプレゼントが届いたことを子どもに知らせないように配慮したのだった――。 

 

 これが日本が誇る宅配品質だ。もちろん、すべての宅配ドライバーがここまでの心遣いができるわけではない。しかし、こうした心遣いが日本の宅配サービスの根底にあることは間違いない。日本が誇るべきこの高い宅配品質が、アマゾンの配達を担う一部のふらちな軽バン配達員によって汚されようとしている。 

 

「そうはいっても、たかがアマゾン1社の問題でしょう」 

 

とあなどることはできない。実は先に挙げた宅配便の取り扱い個数に、アマゾンフレックスとデリバリープロバイダなどのアマゾンによる自前物流の取り扱い個数は含まれていないのだ。 

 

 例えば米国では、アマゾンの自前物流が大手宅配業者の取り扱い個数を上回ったとの報道が話題になった。アマゾンの自前物流は約59億個で、UPSは約53億個、フェデックスは約33億個である。アマゾンの日本での配送個数は公表されていないが、いずれヤマト運輸や佐川急便を上回る可能性はある。 

 

 あえて厳しいいい方をすれば、問題になっているモラルハザードを是正しないまま、アマゾンの自前物流が取り扱い個数を拡大すれば、「日本が誇るべき高い宅配品質」は過去のものになりかねない。 

 

 

宅配の軽バンイメージ(画像:写真AC) 

 

 アマゾンは日本の通販業界に参入し、瞬く間に業界を席巻した。筆者自身はアマゾンを頻繁に利用しており、これ自体は望ましい変化だったと思う。しかし、「日本が誇るべき高い宅配品質」を悪い意味で変質させるのであれば、それは勘弁してほしい。 

 

 冒頭で、筆者自身が経験した誤配のエピソードとして、 

 

「誤配をした当人には、自らやらかした誤配を正す機会も与えられなければ、誤配した事実を伝えることすら『契約外の連絡』に該当するためできない」 

 

と書いたが、これは、軽バン配達員自身が成長する(できる)機会も奪ってしまう。 

 

 一方、消費者としては、アマゾンの自前物流の軽バン配達員に「日本が誇るべき高い宅配品質」を求め、期待するのは当然である。アマゾンはこのことをどう考えているのだろうか。 

 

 ふらちな行為に走る軽バン配達員を擁護するつもりはない。しかし一方で、軽バン配達員のモラルハザードは、過酷な労働環境に置かれ、健全な育成も行わず使い捨てにする元請け事業者による社会問題でもある。 

 

「物流の2024年問題」などでコンプライアンスが厳しくなっている運送業界では、法の抜け穴としてフリーランス(個人事業主)の軽貨物自動車運送事業者が“使い捨てのコマ”として酷使されており、これがモラルハザードの原因のひとつになっている。これはアマゾンだけの問題ではない。この問題については別稿で取り上げる。 

 

坂田良平(物流ジャーナリスト) 

 

 

 
 

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