( 131036 ) 2024/01/21 14:55:49 0 00 認証試験不正問題で斉藤鉄夫国土交通相に謝罪するダイハツ工業の奥平総一郎社長(1月16日。時事通信フォト)
2023年末、日本のモノづくりの根幹を揺るがす結果となったダイハツ工業(以下、ダイハツ)の認証申請に関する不正問題。年が明けた1月16日、国土交通省は大量生産に必要となる「型式指定」の認証申請で不正をしていた問題で、もっとも悪質な3つの車種、ダイハツ・グランマックスと、ダイハツがOEM製産して供給していたトヨタ・タウンエース、マツダ・ボンゴの型式指定を取り消す方針を固めた。自動車ライターの佐藤篤司氏が、今回の異例の措置について解説する。
【写真】国土交通省によるテストの様子
* * * 「まさか、そこまでやるのか!」──それほどの衝撃を受けたのが、今回の国土交通省による「型式指定」の取り消しです。
国土交通省は取り消しの発表の前日(1月15日)に、滋賀県竜王町にあるダイハツの工場で行われた「安全性の基準に適合しているかを確認する衝突試験」を公開していました。こうした各種の試験は1月9日から行われていて、現在販売されている27車種の、すべてに対して進められていたのです。
15日の試験では、運転席と助手席にセンサーが付いた人形を乗せ、実際に試験車両を壁に衝突させ、正しくエアバッグが作動して、乗員に対してどのような負傷を与えるかなど、本来の形でデータ収集を行いました。さらに燃料漏れの有無など、安全性能が基準を満たしているかを確認しました。
公開された衝突試験について、ダイハツの品質管理を担当すると言われる星加宏昌副社長は「立ち会い試験を行い、顧客に安心してもらえるように全項目をしっかり確認していくことになる。国土交通省と調整して、できる限り早く確認してもらえるようにしたい」という内容の発言をしています。不正発覚以来、多くのダイハツ車ユーザーが抱いている最大の懸念事項にひとつの“回答”を示せるのでは、という思いがあったのでしょう。さらに言えば、その先には、わずかながらでも製造再開への第一歩が示せるのではないか、という期待があったのかもしれません。
それに対し、国土交通省は、すべての車種の基準適合が確認できるまでには数ヶ月以上かかるとし、今後は試験を終えた車種ごとに結果を公表して、出荷停止の指示を解除するかどうかを判断するとした。一部には基準適合ならば、今月中にも生産再開を認める可能性も、という観測もあったのです。
それが一転、とくに悪質な不正としてダイハツ・グランマックスと、ダイハツが製造して提供していたトヨタ・タウンエース、マツダ・ボンゴの3車種の「型式指定」を取り消すと、明らかにしたのです。命に直結する装置であるエアバッグの認証試験での不正ですから、特に悪質と判断されたのでしょう。とにかく車開発に関わるすべての人たちは、この大量生産に必須の「型式指定」を取得するために日夜積み重ねてきた努力が水泡に帰すわけです。
そしてあらかじめ国の認証テストが正しく行われ、同一型式の製品のすべてが所定の基準に適合していて問題なし、ということになって初めて、国土交通省も型式指定を出すわけです。当然ですが、これにより個々の製品に対する審査が簡略化され、大量生産が効率的に行えることになります。
ユーザーは製造されてくる車の品質を信じて購入するわけです。表現が正しいかどうか分かりませんが、すべての流れが“性善説”に支えられて成立しているようなものです。ところが、そのどこかに「不正」があれば、この流れは阻害され、維持できなくなります。極端かもしれませんが、型式指定が取り消されれば、製造したすべての車を一台一台検査しなければならなくなり、当然ながら大量生産など不可能になるわけです。
失ったのは社会的信用だけでなく、メーカーとしての立場も大きく棄損しました。事の起こりは昨年(2023年)4 月のドアトリム不正、続いて5 月のポール側面衝突試験の不正が発覚したことでした。事の重大性から不正問題の全容解明と要因の分析、さらに再発防止策の実施に向けて、ダイハツとは利害関係のない外部の専門家(法律面ならび技術面)から構成される「第三者委員会」を設置。この時点で正常化に向けて進むかと思われました。しかし、より詳細に調べてみると、新たに25 の試験項目において、174 個の不正行為があったことが昨年12月20日に判明したのです。
この時、不正行為が確認された車種は、すでに生産を終了したものも含め、64 車種・3 エンジン(生産・開発中および生産終了車種の合計)。この中にはダイハツブランドの車種に加え、トヨタ、マツダ、スバルへOEM供給をしている車種も含まれていました。そして不正は一番古いもので1989年、全体では2014年以降の期間に、類似の不正行為件数が増加する傾向にあったのです。
そして2024年1月16日、さらに14件の不正が見つかったというのですから、「型式指定」の取り消しはもはや避けることはできなかったのかもしれません。改めて同型車の型式指定を再取得しようとしても、その審査は通常以上に厳しくなり、時間もかかることになるでしょう。
まずは国土交通省がダイハツに対し、抜本的な改革を求めるとして、道路運送車両法に基づいて出された是正命令を真摯に受け止めてほしいと思います。斉藤鉄夫国土交通大臣は16日夕方、国土交通省を訪れたダイハツ工業の奥平総一郎社長に対して「会社の体制や体質を抜本的に改革しなければ、失墜した信頼を取り戻すことができないことを肝に銘じ、二度とこのような不正を行うことがないよう再発防止に真剣に取り組んでください」と述べて、是正命令書を手渡しています。そして今後、1ヶ月以内に再発防止策を報告するよう求めています。
これに対し、ダイハツの奥平社長は「是正命令については、大変重く受け止め、組織のあり方などについて検討し、1ヶ月以内に報告、公表する」と回答。不正の原因については、「経営の問題だと受け止めている。身の丈をこえる仕事を詰め込みすぎたことや硬直的なスケジュールを変えられなかったこと、また、そうせざるをえなかった現場の環境などを含め、経営がつくってきたものだ」と猛省の姿勢を示しています。
さらに親会社のトヨタ自動車の佐藤恒治社長も、このダイハツが是正命令を受けたことを受け、「大変重く受け止めている。信頼していただいているお客さまにご迷惑をおかけしていることを改めて深くおわび申し上げます」と述べ、陳謝。さらに今後、ダイハツは軽自動車に注力する可能性もあるといった内容のコメントを残しています。
一方で19日には、今回の不正問題で出荷停止になっていたダイハツ「グランマックス(バンタイプ」など5車種について「安全性などの基準を満たすことが確認できた」として、ダイハツへの出荷停止指示を解除。これで5車種は生産が可能になるわけです。
もはやダイハツに、二度目は許されません。ここで大鉈を振るい、膿を出し切ることを願うのみです。そしてもう一点、日本の製造業の信頼性がこれ以上揺らがないためにも、今回の不正問題のようなことが、他のメーカー、他業種にはないことを祈ります。
【プロフィール】 佐藤篤司(さとう・あつし)/男性週刊誌、ライフスタイル誌、夕刊紙など一般誌を中心に、2輪から4輪まで“いかに乗り物のある生活を楽しむか”をテーマに、多くの情報を発信・提案を行う自動車ライター。著書「クルマ界歴史の証人」(講談社刊)。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。
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