( 131041 )  2024/01/21 15:00:52  
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「餃子の王将」が20カ月連続売り上げ更新の理由 「個店の味からチェーンの味へ」変貌を遂げた 

 

 今は何かを食べれば、とりあえずSNSに投稿する時代だ。おいしそうな写真は人目を惹きつけるし、味や店の対応などについての感想も併せて書き込むから、店にとっては客の反響がプラスもマイナスも口コミで広がってしまう、ありがたくも怖いツールであろう。 

 

【画像】「餃子の王将」の看板商品、焼き餃子(319円)。鮮度にこだわり、毎日工場からチルド配送されている 

 

■餃子の王将の口コミが多い理由 

 

 SNSではないが、店舗ごとの口コミを調べたデータがある。飲食店経営のための情報を提供する、リサーチ会社のmovが餃子が看板商品のチェーン5社を対象に調べたものだ。「餃子の王将」「大阪王将」「ぎょうざの満洲」「肉汁餃子のダンダダン」「紅虎餃子房」から全1162店舗を抽出し、Googleマップに公開された各店舗に寄せられた12万3118件の口コミを分析した。 

 

 1店舗あたりの口コミ数がもっとも多かったのが餃子の王将で、150以上。2位のぎょうざの満洲は100強なので、5社の中では圧倒的に口コミが多い。なお、大阪王将は70弱と苦戦している。 

 

 餃子の王将の口コミが多い理由として、個店の個性が強いことも一つあるのではないだろうか。公式メニューのほかに地域や店ごとのオリジナルメニューがあり、店ごとの得意客が生まれやすい。さらに公式メニューの味も店舗によって少々異なるため、「おいしい」「おいしくない」という、相反する口コミが投稿されやすいのだ。 

 

 ただ、その意味では大阪王将も同じ特徴を持っているので、餃子の王将の口コミが多いのには、また別の理由があるのだろう。 

 

 同じ企業による過去の調査を見ると、餃子の王将の口コミが増え始めたのは2018年頃からのようだ。 

 

 餃子の王将に何が起こっているのだろうか。王将フードサービスに取材した。 

 

 餃子の王将は全国に729店舗(2024年1月時点)と、中華料理のチェーンとしては最大規模。うち直営店が543店舗と、直営店の多いチェーンである。ちなみに直営店の数は、冒頭に挙げたチェーンでは、大阪王将(直営43/FC298(2024年1月時点))、餃子の満洲(直営102(2023年11月時点)、肉汁餃子のダンダダン(直営99/FC34(2023年12月時点))、紅虎餃子房(直営61/FC6)などとなっている。 

 

 

■日に約200万個売れる餃子 

 

 「当社の餃子は2019年より確実においしくなっている」とは、王将フードサービス代表取締役社長渡邊直人氏の言。 

 

 餃子は同社メニューの中でももっとも売り上げが大きい看板商品で、日に約200万個が売れるという。なお、同社の一番のこだわりが鮮度。冷凍はせず、毎日、その日に作った餃子が各店舗にチルド配送されている。 

 

 同社の餃子の大きな特徴は、にんにくたっぷりで、ガツンとした味わい。皮はどちらかと言えばもちもち系で、食べ応えがある。にんにくは名産地の青森産とのことで、ひときわ香りが豊かに感じられるのはそのためかもしれない。 

 

 渡邊氏の肝煎りで、焼き餃子に並ぶ、新たな看板商品も開発したという。 

「忘れられない中華そば」(748円)だ。 

 

 あっさりとした魚介スープながら、コクがある。チャーシュー、メンマ、なるとが添えられた昔ながらのシンプルなラーメンなのだが、よく見るとチャーシューが炭火焼きで贅沢さを感じさせる。 

 

 「ここしばらく、豚骨スープの濃厚なラーメンのトレンドが続いていた。当社の定番も豚骨スープだ。しかし1955年生まれの私にとって、青春時代と切り離せない『ラーメン』と言えばしょうゆ出汁のシンプルなラーメンだ。40~60代であればそう感じる人は多いだろう。なおかつ、『ネオ昭和』流行の時代、若い人にもおいしく感じられる味を目指した」(渡邊氏) 

 

 この「昔懐かしさ」でミドル世代、若者両者に訴求を狙ったラーメン、2023年4月1日から全国で販売スタートし、11月末時点で累計300万杯を売り上げた。 

 

 業績としては、2024年3月期第2四半期の売上高が497億4400万円。第2四半期として2年連続で過去最高売り上げであるほか、同月比過去最高売り上げを20カ月連続で更新している。 

 

■人が企業の価値を作るという理念 

 

 「ここまでには10年かかった」と渡邊氏。2013年、射殺された前社長の大東隆行氏を引き継いで社長に就任した。当時(2014年3月期)の売上高は762億円であったが、当期(2024年3月期)の売上高は1000億円を超える見込みであるという。 

 

 

 「人が企業の価値を作る」という考えのもと、「王将大学」と名づけたスキルアップ研修や調理技術を学ぶ「王将調理道場」などの人材育成、設備投資による労働環境の整備に取り組んできたという。店舗で手包みしていた餃子を、工場で生産するようになったのも、渡邊氏による改革だ。2016年には東松山工場を竣工。これにより、品質管理の徹底と生産性の向上を同時に行えるようになった。 

 

 とくに、調理の基礎から改めて研修し直し、調理法もマニュアル化したことによって、個店ごとの味わいの違いをある程度統一した。 

 

 実は全店での調理技術の向上に取り組めたのは、コロナ禍も大きく関係している。緊急事態宣言中や時短要請の時期、空き時間を調理講習のライブ配信などによる人材教育にあてた。3年で4万5000人への研修を行い、「包丁の研ぎ方から勉強し直していた」そうだ。また設備投資も進め、2022年に全店での餃子焼成機等の入れ替えを終えたという。 

 

 「コロナ禍では、日常食の店として、熱々でおいしいものを提供する義務があるから協力してくれるよう、全従業員に伝えた。コロナはいつか終わる。そのときに、ロケットダッシュをするための準備をしようと。その結果、クレームは減り、販売数量は増えていった」 

 

 このようにコロナ禍を経ることで、冒頭の渡邊氏の言葉通り「餃子が2019年より確実においしくなった」わけだ。 

 

 そもそも、同チェーンではなぜ個店の個性が強かったのか。 

 

 「大きな理由として、地域によって味の好みが違うことがあった。しかしむしろ、店主の好みも大きかった。『自分はこの味が好きなんだ』と。しかし調理はサイエンス。基本的な知識と技術を身につけて、そのうえでそれぞれの経験と工夫を生かしてもらえればと考えている」 

 

 確かに、同じ材料、同じ手順で調理しても、料理人の勘や経験、センスによって出来上がりは微妙に異なってくる。現在の、ある程度の統一化が浸透した餃子の王将においても、その違いを見てとれるようだ。 

 

■「量が多い」「量が少ない」問題 

 

 例えば、餃子の王将の場合SNSで「量が多い」「量が少ない」という相反する内容の投稿が見られることがある。写真でも確かに違うように見える。しかし、食材の量は統一されているはずだ。この謎について現場で鍋を振るベテランのスタッフに質問したところ、調理者の技術の違いも関係しているのではとのことだ。 

 

 

 一例として、炒飯が挙げられる。炒飯はご飯をふっくらと仕上げることが肝要だ。米本来の甘みが引き出され、周囲にまぶしつけられた調味料と混じり合って絶妙な味となる。ふんわりと盛り付ければ、専用の皿にちょうどよいバランスで収まる。ところが炒め方の違いで、ご飯がふんわりとしないことがある。これにより、量が違うように見えてしまうことがあるそうだ。 

 

 だとすれば、SNSなどで「量が少ない」と書かれたことがある店舗では、炒め方を研究したほうがよいということになる。客、とくに長年通っているファンは少しの違いにも敏感なのだ。 

 

 飲食店が苦戦したコロナ禍の3年間。テイクアウトや宅配が一般的になるなど、食事のあり方が変わるとともに、もうひとつ、大きな意味があった。「外食の存在意義」を改めて問い直したことだ。 

 

 同社においては「日常食を提供する義務がある」と、全店における品質の見直しを行ったことがこれにあたる。 

 

 もっとも同社の業績好調の要因はほかにもいくつかある。まず、メイン商品の餃子がテイクアウトや宅配に向いたアイテムだったことが挙げられる。 

 

■価値とは値段だけのものではない 

 

 また、たまたまであるが、同社では2018年からテイクアウトやデリバリーの市場を試験的に模索しており、持ち帰り容器の改良を行っていた。さらに軽減税率対策として、キャッシュレスや事前決済への対応も始めていた。そのためいち早く2021年6月に、テイクアウト専門の新業態「ジョイ・ナーホ」の第1号店を立ち上げることができている。 

 

 これらが功を奏し、コロナ禍でも業績を大きく落とすことなく、設備、人材投資を行うことができたわけだ。 

 

 今回述べてきたように、フランチャイズ店を含めた教育制度も確立できた。これを受け、同社は今後フランチャイズ店の募集を強化し、店舗拡大を図っていくという。さらに現在台湾の2件の店舗に加え、2025年をめどにもう1店出店の見込み。そのほかアジア圏を中心に、海外への出店も増やしていきたいという。 

 

 人口が減少し、国内の外食市場は先細りとも言われている。その中で消費者に選ばれる店であり続けるために、各社、知恵を絞っていく必要がある。とくに我が国では、「安くておいしい」はすでにスタンダード。コスト面で有利な大手チェーンが創り上げてきたスタンダードと言えるだろう。同社においてもこの10年をかけた取り組みが今、結実してきたということになる。 

 

 私見だが、①食べ物への愛情、②食べ物を通じて人を幸せにしたいという気持ち、③おもてなしの心、この3つは、飲食店において欠かせない要素だ。 

 

 客にとって、価値とは値段だけのものではない。食事という機会が幸せな時間になるかどうかは、飲食店にかかっている。 

 

 このような理念の浸透は規模が大きくなるほど難易度が高いだろう。大手チェーンにとって次なる課題は、このあたりではないだろうか。 

 

 ※価格はすべて東日本エリアイートイン時の税込み価格 

 

圓岡 志麻 :フリーライター 

 

 

 
 

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