( 131158 )  2024/01/21 23:08:15  
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「かつてはこの冷蔵庫に入り切らないほどだったんだけど」。漬物の減少を嘆く大畑駅長(左)と藤井さん 

 

 道の駅や産直市で販売されている地元農家の手作り漬物が、存続の危機に直面している。昔ながらの味を受け継ぐ自慢の漬物。食品衛生に関する法律が変わり、作り手たちは製造が続けられるかどうかの岐路に立たされている。改正法の完全実施まで4カ月余り。郷土の漬物文化を守ろうと自治体も後押しする。 

 

【一覧】漬物製造業の許可取得に必要な設備の例 

 

 漬物作りが盛んな広島県北広島町。農業藤井志都子さん(80)は20年間、たくあん漬けを作り続けている。同じ地区に住んでいた漬物作りの「先輩」から教わった極意を守りながら、ダイコンの状態に合わせて塩加減を調整するなど試行錯誤を重ね、おいしさを追求してきた。 

 

 材料の大根はすべて自家栽培。藤井さんが「収穫から漬け込みまでの作業は結構な重労働です」と言うたくあんは、バリッと歯応えがよく、まろやかな塩気が味わい深い。 

 

 自宅の納屋で1シーズン約500キロのたくあんを漬け、12月から春先までに週10~20袋(1袋300グラム入りで300円)を北広島町の道の駅「舞ロードIC千代田」で販売する。「藤井さん家のたくあん」と名付けた商品は人気で「朝並べて夕方には売り切れる日もあって面白いの」と藤井さん。携帯電話にメールで届く売上数を確認するのが楽しみになっている。 

 

 それが、食品衛生法の改正により、これまで小さな農家でも自宅で作ることができていた漬物が、保健所の許可を得た加工施設がなければ作ることができなくなった。法の移行期間は5月末に迫っている。加工施設を整備するとなると多額の費用がかかる。さらに食品衛生責任者の設置も必要となる。 

 

 藤井さんは「あと20歳若かったらお金をかけてでもやるんじゃけどね。寂しいけど、そろそろやめようかねえ」と声を落とす。 

 

 舞ロードには地元農家が手作りしたきゅうり漬けや梅干し、福神漬け、らっきょう漬けなど10種類が並ぶ。大畑和憲駅長(72)によると、3年前は25人ほどいたが現在は約10人に減った。法の完全実施の6月以降は2、3人になるのではと心配する。「食品衛生のルールが厳しくなるのは仕方ないが、高齢者の張り合いがなくなる。お気に入りの生産者の商品を予約して買いに来るファンもいるのに」と話し、漬物製造の許可を得るよう呼びかけを続けている。 

 

 

新設した流し台の前で須山推進官(右)に説明する板持さん夫妻。手洗い場とは別々にした 

 

 地域に伝わる漬物の味を途絶えさせないため、支援に乗り出した自治体もある。島根県雲南市もその一つだ。 

 

 市内には少量多品種で野菜を栽培する農家が多い。産直市も9カ所に上り、島根県特産の津田カブを使った塩漬けやぬか漬け、ユズの砂糖漬けなど、地域独自の味が楽しめる。そのため2023年度から、漬物製造のために設備投資をした個人やグループに経費の一部を補助している。 

 

 同市木次町の板持康忠さん(81)、洋子さん(81)夫妻は、自宅敷地内の納屋を漬物製造用に改修。流し台や換気扇の新設にかかった費用53万円のうち、17万円を市からの補助金で賄った。昨年6月に営業許可を取り、25年前から取り組む漬物販売を続けることにした。 

 

 洋子さんは「漬物づくりをやめた友人もいるけれど、元気なうちは続けたい」と張り切り、康忠さんも「買ってくれる人から待っているよと声がかかるんです」と話す。スーパー2店舗の産直コーナーで月3回程度、たくあんを並べている。 

 

 法改正にあたり、市農業畜産課はたびたび研修会や相談会を開催。23年末までに3人と1グループに補助が決まった。同課の須山一・産直振興推進官は「期限の5月末までもう少しある。一人でも多く申請してほしい」として24年度も補助事業を続ける予定という。 

 

中国新聞社 

 

 

 
 

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