( 131311 )  2024/01/22 13:59:54  
00

ヘビースモーカーはどうしたらいいの? 鉄道から喫煙室が消えている 

 

 近畿日本鉄道(以下、近鉄)は、3月1日から特急列車内のすべての喫煙室を廃止すると発表した。同月16日に行うダイヤ改正に先立っての廃止となる。 

 

【画像】喫煙室が消えた車両、残っている車両(全9枚) 

 

 近鉄の特急は私鉄有料特急では唯一、車内での喫煙が可能だった。今回の決定により、喫煙可能な私鉄有料特急は全廃となる。 

 

 JRでも、喫煙可能な新幹線や特急は減少傾向にある。東海道・山陽・九州新幹線では基本的に喫煙ルームがあるものの、一部にその設備がない車両を使用している。北海道・東北・秋田・山形・上越・北陸・西九州新幹線は全車禁煙だ。 

 

 東海道・山陽・九州新幹線の喫煙ルームについては、2024年春をもって廃止が決定している。おそらく、3月16日のダイヤ改正に合わせるのだろう。喫煙ルームだった場所には、非常用の飲料水を搭載するという。 

 

 これで24年春以降に車内で喫煙できる列車は、「サンライズ瀬戸・出雲」だけとなった。 

 

 以前はどの路線にも見られた特急の喫煙車。列車内にはもくもくと煙が立ち、駅のあちこちでタバコが吸えるようになっていた。それが、ホームに空気清浄機付きの喫煙所ができ、そこで吸わなければならないようになった。現在では都市部の多くの駅で、喫煙する場所さえなくなってしまった。 

 

 なぜ、鉄道から喫煙車・喫煙室がなくなり、駅からも喫煙所が撤廃されていったのだろうか。 

 

 厚生労働省が発表している「国民健康・栄養調査」によると、成人男性の喫煙率は19年(令和元年)時点で27.1%、成人女性は7.6%、男女合わせて16.7%。喫煙者は圧倒的に少数になっている。1989年(平成元年)には男性で5割を超えていた喫煙者が、大幅に減ってしまった。女性の喫煙者は1割未満(同年)、それがさらに少なくなっている。 

 

 そんな中で新幹線や特急の指定席は禁煙車から売れていくようになり、鉄道各社は禁煙車を増加させた。喫煙者でもない限り、喫煙可能な車両に乗ろうという人は減っていた。いや、タバコを吸う人の中にも「喫煙車両は空気が悪いので、自分は乗らない」といった人もいたほどだ。 

 

 禁煙車ばかりに利用者が集中するようになり、全席禁煙にする鉄道会社も現れた。特に熱心だったのはJR九州で、次いでJR東日本も全席禁煙を増やしている。 

 

 2003年5月1日には「健康増進法」が施行され、受動喫煙防止の努力規定が盛り込まれた。さらに20年4月1日には「改正健康増進法」が全面施行。屋内が全面禁煙となった。東京都や千葉県では「受動喫煙防止条例」を制定し、厳しい規制を設けている。 

 

 こうした状況と前後して、鉄道車内や駅構内の喫煙設備は縮小。喫煙に対する法的規制が厳しくなった影響があったのかどうかは分からないが、喫煙者が減っていった。 

 

 列車内でタバコが吸えなくなったのは、こうした状況もあるのだろう。しかし鉄道の営業面でも、喫煙者に対応するのはコストがかかるのである。 

 

 

 喫煙車には灰皿が備えられており、ひんぱんに掃除をする必要がある。国鉄時代に特急は2席に1つ、急行は4人1ボックスに1つというケースが多かったが、車両をリニューアルしたり新車を導入したりする際には、ひじ掛け内に灰皿を備えるケースが多くなっていった。灰皿は個々に備えられるようになったが、その分こまめに清掃しなければならない状態になった。 

 

 特急列車では、折り返しの際に車内清掃を行う。車内清掃の際に、小さな灰皿にいちいち対応するのが、大きな手間となっていった。特に東北・上越方面の新幹線は、車内清掃の時間が短いため、灰皿清掃の時間が問題となる。東海道・山陽・九州新幹線のように喫煙ルームに集約しても同様の問題は残る。 

 

 また列車に喫煙車があることで、喫煙しない乗務員や車内販売員が車内を行き来する際の受動喫煙の問題も出てくる。煙は上に向かうため、乗務員や車内販売員の顔のあたりはもくもくとした状態になっているのだ。こういった人たちの労働環境を守る必要もある。 

 

 清掃関連の手間、そこから発生するコストも無視できないようになり、乗務員や車内販売員、清掃員の労働環境の向上も重視されるようになった。清掃員も車内販売員も人手不足であり、車内販売に至っては大幅に縮小されるようになってしまった。 

 

 こういった現状に対して、鉄道会社は対応する必要がある。その結果が、全車禁煙、喫煙ルームの廃止である。 

 

 新幹線にせよ近鉄特急にせよ、いままで喫煙者のために設備を残してきたことが“時代遅れ”とも受け取れる。たとえ喫煙ルームで「隔離」したとしても、空気を清浄するための設備などは必要である。 

 

 タバコの不始末による火災はたびたび発生している。列車内でライターの持ち込みは禁止されていないものの、火器類では持ち込み禁止となっているものもある。タバコの火を何か紙類に近づけてしまい、火がついてしまったら、という可能性も考えられるのだ。 

 

 その場合、列車を止めて対応する必要があり、そのぶん遅延してしまう。いまのように高密度のダイヤだと、少しの遅延が大きな影響を及ぼすことになる。リスク管理の観点からも、列車内でなるべく火器を使用しないでほしい、というのが鉄道を運行する側の考えだといえる。 

 

 安全性の観点からも、鉄道車両内で火を扱うことへの問題意識が高まっている。車内火災を防ぐために、火そのものを使用できなくする、というのも喫煙車や喫煙ルーム廃止の理由だと考えられるのだ。 

 

 喫煙者が大幅に減って、列車内や駅構内での喫煙者対応はより手間とお金がかかるようになってきた。法律でも喫煙の自由度がどんどん狭められている。特に改正健康増進法の存在は大きい。 

 

 こうした状況がある中、安全面も考えると、喫煙車や喫煙ルームを廃止していくことは、仕方がないのではないだろうか。 

 

(小林拓矢) 

 

ITmedia ビジネスオンライン 

 

 

 
 

IMAGE