( 131331 )  2024/01/22 14:18:51  
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 1000億円契約を結び話題を呼んだ大谷翔平だが、現在、2つの大きな問題をかかえている。「トミー・ジョン手術」と「税金」の問題だ。元プレジデント編集長で作家の小倉健一氏が解説するーー。 

 

 いま、ドジャースに入団した大谷翔平選手を巡って、二つの大きな話題が取り沙汰されている。 

 

 一つは、大谷選手が受けたとされる「トミー・ジョン手術」、そして、大谷選手が所属するチームの所在地であるカリフォルニア州の会計監査官が告発した「大谷選手が税金をまともに収めない」という問題だ。 

 

 まず、一つ目、大谷選手が受けたとされる「トミー・ジョン手術」だ。大谷選手は、NHKにの取材(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20231227/k10014300621000.html)に対して、以下のように語っている。 

 

 「どこまでにどれくらいのリハビリをして、どういうふうに回復していけば開幕も間に合うのかというのも、お医者さんとうちのエージェント(代理人)と逆算して決めていった時に、シーズン終了後(の手術)でも間に合うだろうという判断だっで。最後までもちろん、エンジェルスで出て、本当に(ポストシーズンの)チャンスが無くなった時に、じゃあ(出るのを)やめてある程度スケジュールに余裕を持たせて手術しますという感じでしたね」 

 

 (記者「術後に左手首にテープを貼っていた部分は、切ったんですか?」) 

 

 「(今回は)左から(けんを)取ってます」 

 

 《※2018年のトミー・ジョン手術では、右手首からけんをとって移植した》 

 

 (記者「ブレース(補強材)も入れて?」) 

 

 「はい、たぶん。ブレースと生体組織みたいな。よく分かんないです、僕も」 

 

 (記者『大谷選手の主治医と同じく、トミー・ジョン手術の権威と呼ばれるマイスター医師にも今回取材して「スイーパーという球種自体がひじにとってはすごく負担がある」という話も聞きました』) 

 

 

 このやりとり、私が以前にみんかぶに寄稿させた通りの展開になったようだ。それは既存の医者が心配をしていたこと、例えば、読売新聞(9月13日)では複数の医師が実名で「2回目の手術の場合、同じレベルで復帰できる割合は50%くらい」としている、ではなく、トミージョン手術のハイブリッド方式とも呼ばれる手術法であろう。人工のブレースを用いることで、強度が増し、復帰する確率が高まると言うものだ。一部では「ドーピングではないのか」という指摘もあるぐらいの手術方式であり、大谷選手が批判を受けることがあっても、プレーできなくなる確率を心配するようなものではないだろう。 

 

では、次の問題だ。 

 

 ドジャースと大谷選手は2023年12月に、プロスポーツ史上最高額となる10年総額7億ドルの大型契約を結んだが、この契約金の約97%が契約終了後に支払われるという異例の形式で注目された。これは、プロスポーツにおける契約形態としては珍しいケースである。 

 

この異例の支払い方式について、カリフォルニア州の会計監査官がお怒りのご様子だ。この契約では、大谷選手に支払うべき契約金の大部分が契約終了後に支払われることになっている。 

 

 1996年の米国連邦法に基づき、大谷選手が10年後にカリフォルニア州に住まなくなった場合、大谷選手の繰延報酬に対するカリフォルニア州の(最高)所得税率が免除されることになる。ドジャースでプレーするために年俸200万ドルを10年間受け取った後、大谷は2034年から2043年まで年俸6800万ドルを受け取り始める。 所得税が大幅に増税されたためにカリフォルニア州から移ったフィル・ミケルソンなどのトップアスリートに倣えば、大谷選手はカリフォルニア州の所得税を年間900万ドル以上節約できることになる。フロリダのような所得税のない州に移ろうが、あるいは日本に戻ろうが、ドジャースで10年間プレーした後にゴールデン・ステートを離れることは、経済的に賢明な行動といえる。 

 

 大谷の繰延報酬は、ドジャースにとっても大きなメリットがある。メジャーリーグは、毎年一定額以上の年俸総額(2024年は2億3700万ドル)に対して競争均衡税(Competitive Balance Tax)を課しているため、各球団はCBTで算出された年俸総額をできるだけ低く抑えようと必死だ。大谷のプレー契約は10年であるため、年俸は約4600万ドル(約46億円)となり、頭金である7億ドル(約7000万円)よりはるかに少なく、球団はより多くの実力のある選手を雇うことができる。 

 

 この支払い方式についてお怒りのカリフォルニア州会計監査官は「現在の税制度では高額納税者に所得の無期限の繰り延べが認められ税の構造に大きな不均衡が生じている」「制限がないことは所得の不平等を悪化させ税の公平な分配を妨げる」という。つまり州の税収減少の問題を提起し、後払いに対する規制の不在が所得の不平等を悪化させ、税の公平な分配を妨げると指摘したのだ。このため、アメリカ連邦議会に対して対応を求める声明を発表したのである。 

 

 

 日本人には少し理解しづらい部分もあるが、アメリカは州によって税率が大きく違う。この税率差が州と州の競争を加速させ、アメリカ経済のダイナミズムをつくり出していると言って良い。日本のように、国によって税制も支出もすべてが縛られているようでは、創意工夫の余地も、未来へ向けた挑戦も不可能だ。地方の活力を奪っているといっていい。 

 

 アメリカでもっとも所得税が高いのが、大谷翔平選手が所属するロサンゼルス・ドジャースのあるカリフォルニア州だ。最高税率(=大谷選手の支払う税率)13.3%が適用される。次に高いのがハワイ州で11%だ。逆に、所得税の一切ない州もたくさんある。アラスカ州、フロリダ州、ネバダ州、サウスダコタ州、テキサス州、ワシントン州、ワイオミング州の7州だ。特に、ネバダ州は、カリフォルニア州に隣接していて、多くの富裕層がカリフォルニア州から引っ越す事態になっていて、カリフォルニア州の税収は大ピンチの状態である。 

 

 とはいえ、大谷選手が受け取るのはドジャース球団からの金だけではない。広告収入も凄まじい額であることが忘れられている。昨年春の米経済誌フォーブス電子版(2023年3月27日)によれば<エンゼルス大谷翔平投手の今年の収入がMLB新記録となる6500万ドル(約87億8000万円)と見積もった。球団との契約は今季3000万ドル(約40億5000万円)だが、広告契約が少なくとも年3500万ドル(約47億3000万円)と見積もられる>という。日本、アメリカと「大谷フィーバー」が巻き起こっている今、広告収入は昨年同等以上にあると考えるのが常識的な見立てであろう。カリフォルニア州の会計監査官は何に慌てているのだろう。 

 

 どこの国も、金を取り逃がすまいと必死だ。その情熱の一部でもいいから、裏金づくりに邁進した政治家たちに向けて欲しいものである。 

 

小倉健一 

 

 

 
 

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