( 131505 ) 2024/01/22 23:57:37 0 00 AdobeStock
プレミアム特集「儲かるChatGPT」第二回は経済学者の竹中平蔵が、生成AIが労働市場与える影響を語る。「これからの仕事も生活も生成AIによってうまれるだろう」と語る氏が語る、AIが創造していく新たな価値とは――。
ジェネレーティブAI(生成AI)の衝撃的な登場から1年以上がたちました。これだけ大騒ぎしたのですから、「みんかぶマガジン」の記事を読む多くのビジネスパーソンや投資家のみなさんも一度はChatGPTを触ってみたのではないでしょうか。中には所属している会社や組織で業務効率化に利用する動きなどが出ているかもしれません。そして、「AIが人間を奪う」と怯える人もいるはずです。
しかし、その一方で「たしかにすごいのだけど……。ChatGPTが奪うのは、もともと本質的にはいらない仕事なのではないか」と考える人もいらっしゃるようです。たしかに「ChatGPTで企画案出しがはかどった」とか「資料をうまく作ってくれた」などといった話は、もともと本質的ではない“必要なかった仕事"なのかもしれません。
クリエイティブの世界では、まだ、人間に圧倒的な優位性があるように思います。例えば、とある知り合いの編集者は「AIに書かせた文章よりも、精神的に追い込まれたライターに無茶を言って徹夜で書かせた文章の方が断然面白い」と言っていました。
いずれにせよ、ChatGPTに適切な指示を出せる人(プロンプトを使いこなせる人)は、ロジカルに物事を伝えられる、言語能力が高い人です。そうした方々は生成系AI登場以前から優秀とされる人なのでしょう。つまり、その意味で現状のAIに職を奪われる人がいるとしたら、その人はもともと、実質的には職をすでに奪われている人なのかもしれません。だとすると、多くの日本企業にいる、“生産性が低いわりに給料が高い”人材よりはChatGPTの方が会社としてはありがたいですね。
さて今はまだ生成AIに対して懐疑的な人もいるのでしょうが、中期的にはだいぶ大きな違いを見せてくるでしょう。
これまでの、デジタル環境の変化の流れを追っていくとわかりやすいと思います。「日本のインターネットの父」こと村井純さんのもと、慶應SFCとアメリカのネットワークがつながったのは1990年ごろ。その時はまだまだ日本はFAXの時代でした。
ですが、1995年にマイクロソフト社のウィンドウズ95が一般向けに販売されると、一気にインターネットの利用が広まりました。一般の人が使えるようになったのです。その年の流行語大賞のトップテンに「インターネット」が選ばれましたが、登場から爆発までには5年ほどかかりました。
それでも、まだまだ利用者のインターネットリテラシーは低かった。とくに日本は米国・韓国にも遅れをとっていました。そこで、「国家戦略をつくる」ということで、当時の森喜朗総理のもと私と村井純さんらによる「IT戦略会議」が2000年に発足しました。
そこから何をしたかというと、われわれは「世界一のITインフラを作る」ことを目標に掲げ、2010年ごろには全ての市町村でブロードバンドにアクセスを可能にしました。そして2011年には全ての地上波テレビがデジタル化されました。これは日本が世界初でした。
インフラはできたのですが、これの利活用がうまくいきませんでした。そうこうしている間に新しい技術が出てきました。2007年、iPhoneの登場です。これは単なる“オシャレな電話”ではありませんでした。堀江貴文さんも言っていましたが、iPhoneは誰でも使える「小さなパソコン」だったのです。それによってデジタルなネットワークへの入り口をみんなが持つようになり、“ビッグデータ”の概念がでてきました。
このビッグデータにより大きな成長を遂げたのが中国でした。2012年に習近平が国家主席に選出されてから14億人のビッグデータを手に入れた中国は一気に世界に対して強気になりました。アメリカや日本の専門家の間では、「中国は確かに伸びているが、自由のない国にイノベーションが起こるはずがない」という見方が一般的でした。しかし、ビッグデータが覇権を握る時代では、従来の法則が当てはまらなかったのです。
さて、その次にAIのディープラーニングが出てきました。東京大学の松尾豊教授の説によれば、AIのディープラーニングが実用化されたのは2012年。しかしまだまだ「AIってたいしたことないな」っていう意見が当時は強かったのです。それが、2023年のダボス会議でジェネレーティブAIが最大の話題になりました。
ソニーAI代表の北野宏明さんは「今はカンブリア爆発の初期にあたる」と面白いことを言っていました。これからの仕事も生活も生成AIによってうまれる、と。それが「どれくらいの速度」で、「何ができるのか」は予測がつきません。ただ、今は次の時代の原型が生まれているのだ、と。
竹中 平蔵
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