( 131629 )  2024/01/23 13:17:54  
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©文藝春秋 

 

 自民党のパーティー券裏金問題の捜査は先週、事実上終結した。 

 

 すると、さっそくご機嫌な人がいたのである。安倍派幹部の萩生田光一氏だ。萩生田氏は早くも裏金を演説ネタにしていたのだ。 

 

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「東京地検に連れていかれることはございません」 

 

「そうは言ってもワイドショーを見ていると、だんだん私の写真が(疑惑議員の)真ん中に寄ってきて」 

 

 と笑いを誘ってニンマリだったという(日刊ゲンダイ1月19日)。すかさず報じる日刊ゲンダイは本当にワルい新聞である。 

 

 このとき萩生田氏は地元・八王子市の市長選の真っ最中だった。萩生田氏が推した候補の個人演説会で上記の裏金ネタが出たのだ(結果はこの候補が勝利)。 

 

 そのほか気になった萩生田発言は、 

 

「『大丈夫か』と街の中でみんなが話していたのだろうと思いますが、そういう問題ではなくて『修正をきちんとする』ということになっております」 

 

 という部分である。 

 

 この「修正」とか「訂正」というキーワード。この言葉が出てきて裏金問題の潮目が変わった。おさらいしよう。 

 

 あれだけ大騒ぎで連日報道されたが、ポイントは1月12日の報道だった。おやっ? と思う動きがあった。 

 

『安倍派 一斉訂正を検討 収支不記載分、来週にも』(読売新聞) 

  

 

『安倍派処分 来週にも判断 東京地検 議員側、報告書訂正へ』(産経新聞) 

 

 安倍派がキックバックして不記載にした金について「訂正する」調整を進めているというのだ。読みどころは次。 

 

《東京地検特捜部は、収支報告書の訂正内容なども踏まえて安倍派の議員や会計責任者の刑事処分の可否を来週にも判断するもようだ。》(産経新聞) 

 

 いかがだろうか。萩生田氏が支持者に「東京地検に連れていかれることはございません」、「『修正をきちんとする』ということになっております」とうれしそうに報告した意味もわかるではないか。萩生田氏は東京地検特捜部との「手打ち」までにおわせたとゲンダイは書いた。 

 

 

 さらに興味深いのは先週金曜に発売された写真週刊誌『FRIDAY』の記事だ。森喜朗氏に関する記事で「本日も悠々と超高級ホテルで会食へ」という見出しなのだが、この日は「1月12日」の写真だった。安倍派が議員の政治資金収支報告書を訂正する検討を始めたという報道が出た日である。 

 

 森喜朗氏が検察の方針(政治家の立件はない)を察知していたとしたら「ホテルでのディナーは、さぞ美味だったに違いない」とFRIDAYは書いた。なかなか興味深い時系列である。 

 

 森喜朗氏は現在もなお安倍派の後見人として影響力を持つ。元日の産経新聞は一面トップで『森元首相の関与有無 解明へ 東京地検 安倍派不記載20年超す』と報道した。元日の一面は各紙が力を入れてくる。キックバックからの裏金は森氏が会長だった頃からの「慣例」だったというから、検察は森氏までいくのか? と産経報道は注目されたのだ。しかし森氏に関するおもな報道はそれで終わり、安倍派の5人衆も不起訴となった。 

 

 もともと裏金報道が出た頃から派閥幹部と会計責任者の共謀を具体的に立証するのは困難と解説されてきた。さらに安倍派幹部らはキックバックについて「派閥会長が決定する案件だった」などとし、不記載への関与を否定していた。ここで言われる「会長」とは細田博之氏、安倍晋三氏だ。2人ともすでに亡くなっている。まさに死人に口なしである。 

 

 日刊スポーツコラム「政界地獄耳」(1月16日)は今回の結末を皮肉たっぷりに書いた。 

 

「東京地検特捜部は相当の証拠固めを終えて、政治家の名前を出し始めたのだろうと誰もが思った」 

 

「修正すればいい形式犯でうやむやにできたことを大事件に誘導していった検察に、安倍派から責任の追及を受けてもやむを得まい。」 

 

 そして、 

 

「この事件は少なくとも脱税は明白。正義すらこの国は失ったか。」 

 

 と。 

 

 さてこうなると検察のほかにもう一つ気になるのが新聞報道である。特に朝日新聞だ。朝日は検察の情報を元に昨年から連日一面で報道していた。はっきり言えば煽りに煽ったのである。 

 

 以前にも書いたが、朝日は政局も絡めた見出しで張り切っていた。たとえばこれ。 

 

『松野・西村・萩生田氏 更迭へ 高木氏も 世耕氏交代を検討 裏金疑惑 安倍派5人衆を一掃』(12月10日) 

 

 違和感があったのは「安倍派5人衆を一掃」という部分。「一掃」ってかなりキツい表現だからだ。朝日は岸田首相がまだ否定的なうちから「安倍派を一掃しろ」と自身の願いを込めて見出しを打ったようにも見えた。「安倍嫌い」の面目躍如。 

 

 ところが、1月13日に毎日新聞が『安倍派幹部 立件断念へ 地検特捜部』(夕刊)と報じた。何度も書くが、前日の1月12日には『安倍派 一斉訂正を検討』(読売新聞)と報道されていたからなるほどという流れである。読売新聞も1月16日に『安倍派7幹部 不起訴へ』と書いた。こうなると朝日新聞がいつ「不起訴」と書くのか楽しみとなった。あれだけ検察情報にのって書いた手前、バツが悪いに違いないからだ。 

 

 すると朝日はようやく1月19日に『安倍派幹部 不起訴へ』としれっと書いてきた。一面で伝えているが注目すべきはこの日の一面トップだ。『岸田派・安倍派が解散検討』という大きなニュースだった。朝日は大きな話題が出るタイミングを待っていたと思うのは意地悪すぎるだろうか? 安倍派解散イエーイ! でゴマかしたと思うのは行間を読み過ぎだろうか? 

 

 新聞がいつ何を書くか、それだけで勝手に楽しく読めるのである。 

 

プチ鹿島 

 

 

 
 

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