( 131632 )  2024/01/23 13:24:28  
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昨年、岸田内閣が提唱した「こども誰でも通園制度」は、2024年度に試行事業として導入される予定であり、就労の有無に関わらず生後6カ月から3歳未満の子どもを預けられる制度となる予定です。

この制度は地方自治体が実施し、既存の一時預かり事業とは異なる点があります。

詳細は2026年度まで確定していない要素が多く、待機児童問題にも影響を及ぼす可能性があります。

また、制度導入に伴い保育施設での保育士不足が懸念されています。

(要約)

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「こども誰でも通園制度」は本当に誰でも利用できる子育て支援制度になるか?(写真:Ushico / PIXTA) 

 

 昨年、岸田内閣が異次元の少子化対策の一環として打ち出した「こども誰でも通園制度」。取りあえず2024年度は試行事業ということで、こども家庭庁はおよそ150の自治体での実施を想定して公募を行っている。制度を拡充して本格実施にこぎつけるのは、2026年度になる見通しだ。 

 

【画像で見る】全国でモデル事業の検証も進んでいるが 

 

 「働いていなくても子どもを預けられる!」と注目を集めた本制度だが、本当に誰でも利用できる制度になるのだろうか。 

 

■専業主婦家庭の子育て支援として 

 

 現在まとまっている案によれば、「こども誰でも通園制度」は、認可保育園や認定こども園などを利用していない生後6カ月から3歳未満の子どもを対象に、保護者の就労の有無などは問わず保育を利用できる制度として計画されている。 

 

 試行事業では「月10時間」が利用時間の上限となるが、先日、2026年度からの本格実施では「月10時間以上で内閣府令で定める時間」とすることが発表された。 

 

 「専業主婦家庭の子育て支援策」と言えるが、実は、保護者の就労等を要件としない公的な預かりサービスとしてすでに一時預かり事業があり、多くの自治体が実施している。 

 

 「保育園を考える親の会」が実施する都市部の調査「100都市保育力充実度チェック」2023年度版を見ると、調査対象の100市区のすべてが一時預かり事業を実施していた。 

 

 一時預かり事業は、利用を保護者の病気などの緊急時に限っている自治体もあるが、所用やリフレッシュのための枠を設けている自治体も多い。 

 

 1時間400~500円、1日預けても1000~2000円程度の安い料金設定が多く、人気が高い施設では、事前受付開始日にすぐに枠が埋まってしまうという。認可保育園や認定こども園などのほか、子育て支援センターなどでも行われている。 

 

 これら既存の一時預かり事業と「こども誰でも通園制度」はどう違うのだろう。 

 

■全国でいつでもどこでも利用できる制度?  

 

 「こども誰でも通園制度」の保育料は、一時預かり事業と同程度の費用になることが予定されている。 

 

 また、利用申し込みにあたっては、利用時間の管理が必要になるため、システムを通してスマホやパソコンなどで申し込むことになる。この点は、それぞれの施設で受け付け事務を行っていた一時預かり事業とは異なる。 

 

 

 実は制度として、大きく違っている点がひとつある。それは、一時預かり事業は各自治体が選択して実施する補助金事業であるのに対して、「こども誰でも通園制度」は給付制度として実施される点だ。 

 

 そのため、本格実施されれば、全自治体で実施しなければならない制度になる。現在、一時預かり事業は2割弱の自治体で未実施となっているので、これまで一時預かり事業がなかった自治体では、プラスアルファの子育て支援になるはずだ。 

 

 とはいうものの、現実はなかなか理論どおりにはならない。 

 

 認可の保育園や認定こども園などの通常の保育も、給付制度として行われているといえば、わかりやすいかもしれない。 

 

 給付制度は、本来は利用資格がある全員が利用できることを想定しているが、実際には待機児童があふれかえっていたし、現在でも都市部では希望しても入園できない状況が多数発生している。 

 

 つまり、給付制度であっても、需要に対して供給が足りない場合には、利用できる資格はあっても利用できないということだ。もちろん、実施する保育施設等が近くにない場合も利用できない。 

 

 「保育を利用していないすべての生後6カ月から3歳未満の子どもに……」という謳い文句がどこまで実現するかは未知数だ。 

 

■「月10時間以上」利用できる?  

 

 利用時間については当初「月10時間」の上限を設ける予定だったが、1月になって2026年度からの本格実施では「月10時間以上で内閣府令で定める時間」とすることが発表された。 

 

 「月10時間は短すぎる」という感想が相次いだことを受けて、とりあえず利用時間を保留したようだ。試行事業をやってみて正式決定されるので、「月10時間」に決定される可能性もある。 

 

 「月10時間」というと、月に2回・半日ずつ預けると使い切ってしまう時間だ。子どもにとっても中途半端になる可能性がある。あまり短時間の利用では、子どもが環境に慣れたり保育者と信頼関係を築いたりすることが難しくなるからだ。 

 

 制度を検討した検討会の報告では、一番の狙いとして、子どもにとっての次のようなメリットが挙げられていた(要約)。 

 

・子どもの育ちに適した人的・物的・空間的環境があり、専門職がいる場で、家庭とは異なる経験や、家族以外の人と関わる機会が得られる。 

 

 

・子どもにとって年齢の近い子どもとの関わりは、社会情緒的な発達への効果的な影響がある。 

 

・保護者が専門職から子どものよいところや成長を伝えられたり、子どもをともに見守る人がいると感じたりすることで、子どもへの接し方が変わったり新たな気づきを得たりして、子どもとの関係性や子どもの育ちにもよい影響がある。 

 この制度が、単なる保護者の負担軽減ではなく、「すべての子どもの育ちを応援し、良質な成育環境を整備する」ことを狙いとして掲げているのは、一時預かり事業との大きな違いであり、「子どもを真ん中に」という理念にかなうものだと思う。 

 

 しかし、こういった効果が得られるためには、同じ施設で継続的に保育が行われ、保育者、子ども、保護者の間に信頼関係が構築される必要がある。 

 

 もちろん、一時預かり事業をつないで延長できるようにすることもできる。しかし、そうやって時間を延ばせばよいというものでもない。この事業を大きくするのなら、それに見合った実施体制を整えなくてはならない。 

 

 待機児童数は減少しているものの、保育の必要性を認められる子どもの保育の枠が不足している地域はまだまだ多いのも事実だ。 

 

■質が低い保育では意味がない 

 

 受け入れ側の保育現場からは、先が読めない役割拡大の要請に不安の声が上がっている。 

 

 保育の場に慣れない子どもが入れ替わり立ち替わりする場合、保育者は子どもの心や安全への配慮をより細やかにしなくてはならない。常時保育児の保育よりも手厚い体制が必要であり、現行の一時預かり事業の補助金では、十分な人員が配置できないという声も上がっている。 

 

 また、一時預かり事業の専用室をもっている園では、その設備や人員を活かすことができるが、従来の保育体制のもとで定員の空きを活用する場合には、やり方によっては保育者や在園児、利用児童にとって負担が大きくなってしまう。 

 

 そもそも待機児童対策のために面積基準ギリギリまで子どもを詰め込んできたような施設では、きゅうくつな環境になってしまっているところもある。そんな施設では、子どもが自分のペースで遊んだり生活したりできるように、むしろ定員を減らしてゆったりしたスペースを確保することを優先すべきではないか。 

 

 子どもの育ちを豊かに支えたいのであれば、こういった人員配置や保育室面積などの環境面も充実させて保育の質を上げなければ意味がない。しかし、特に人員配置の充実には、保育士不足という現実が立ちはだかる。 

 

 

■保育士不足がすべての足かせに 

 

 2024年度から保育士の配置基準も改定されることが発表された。これまで4・5歳児30人に対して1人の保育士を配置するという基準だったが、25人に対して1人配置しなければならなくなる。 

 

 3歳児も20人に対して保育士1人だったが、15人に対して1人という配置になる(3歳児については2015年以降、雇用できた施設への人件費の加算が行われてきたが、今回、正式に基準改定となる)。 

 

 このような保育士配置の改善は、保育の質を向上させるとともに、保育士の負担軽減につながり離職を減らすことに寄与することが期待されている。しかし、この基準改定にも保育士不足への配慮から「当分の間、従来基準での運用も認める」というただし書きがつけられている。 

 

 在園児のために保育士配置を改善するにも、「こども誰でも通園制度」で在宅児の支援をするにも、保育士不足が障害となっているということだ。自治体間、施設間、事業間で保育士を奪い合うような状態では、適材が確保できず、保育の質の低下につながる恐れもある。 

 

 国はこの間、保育士不足の解消のため、処遇改善に力を入れてきた。2022年度の賃金構造基本統計調査によると、保育士の年収は、全国・全産業計・男女平均からは106万円低いが、全国・全産業計・女子の平均には3万円差まで追いついてきている。さらなる処遇改善と負担軽減を急がなくてはならない。 

 

■少ない子どもにお金をかけよう 

 

 3年前までは、子どもの出生数が減っても、女性の就業率・保育の利用率が上昇し、保育の申込み児童数は増加していた。しかし、この3年ほどは保育の申込み児童数そのものが減少傾向にある。 

 

 コロナの影響も言われたが、少子化の急速な進行が保育ニーズの増加をしのいだのだ。保育施設の経営者の間でも危機感が高まっている。しかし、今回の施策が、単に定員の空きを埋める救済策であってはならない。 

 

 ここまで、待機児童対策のために量の整備が優先され、狭いスペースに子どもを詰め込み、保育士配置も増やせないまま走ってきた。保育現場や子どもに負担を強いてきたと言ってもよい。 

 

 子どもの数が減少するこの局面では、まず、保育士の処遇や労働条件を改善すること、それによって保育士が理想の保育や子育て支援を追求できるような環境を実現することが先決だ。それが保育士不足を解消する。それによって保育現場は在宅の子どもと保護者を温かく迎え、支えるために必要な力をもつことができる。 

 

 待機児童対策に用意してきたお金を、今こそ保育の質(人件費)に振り向けること。異次元の子育て支援を実現するためには、そこをはずしてはならない。 

 

普光院 亜紀 :「保育園を考える親の会」アドバイザー 

 

 

 
 

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