( 131678 )  2024/01/23 14:12:53  
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能登半島地震に対して岸田政権は現時点で「教科書どおり」の対応。為替も円高となっていないことは、もっと評価されてもよさそうだ(写真:ブルームバーグ) 

 

 日経平均株価は、1月19日に終値で3万5963円まで上昇、平成バブル崩壊直後の1990年2月以来の高値を更新した(17日にはザラ場で3万6239円まで上昇)。またTOPIX(東証株価指数)も、昨年の最高値を同様に更新している。2024年は1月19日までの上昇率で比較すると、米欧株が若干の上昇で推移している中で、日本株(日経平均)は約5~6%程度も上昇率で凌駕している。 

 

■岸田政権の震災対応は「教科書どおり」で一定の評価 

 

 昨年2023年に起きた日本株高の要因としては、東京証券取引所によるPBR(株価純資産倍率)改善指針や、2024年からの新NISA(少額投資非課税制度)開始による資金流入、さらにはインフレ定着を伴う経済正常化への期待など、が挙げられる。2024年もこれらの要因が、引き続き日本の株高を支えていると見られる。 

 

また、日本は年初早々能登半島地震に見舞われた。依然日常生活を取り戻せない多くの被災者の方々にとって深刻な問題だが、日本企業の生産活動などへの影響は限定的と見られる。震災などの有事においては、これに対処する政府の対応がより重要になる。 

 

 これに関連して思い出されるのが、2011年の東日本大震災後の、民主党政権(当時)の対応だ。震災復興の歳出とともに、復興増税策定が同時並行で進んだ。深刻なデフレの中で、インフラへの投資などであれば迅速な国債発行が正当化されるが、この対応が経済正常化を一段と遅らせたのではないか。 

 

 これを教訓にした自民党政権は、2013年の金融緩和への「レジーム転換」で脱デフレと経済正常化に強い意思を持って取り組んだ。2020年のコロナ禍対応でも、増税なしに大規模な財政支出を繰り出した。また2024年は所得税減税が予定されている中で、岸田政権では、復興を理由に増税が検討される気配は今のところ見られず、これまでのところ災害・有事に対して「教科書どおり」の対応が行われていると言える。 

 

 

  また、年初の大規模地震発生をうけて、為替市場でドル円相場が一時的に1ドル=143円台へ2円程度円安に動いた。 

 

 災害などの有事が為替市場にどのように影響するかは、明確な理屈があるわけではない。東日本大震災発生時に大幅な円高が起きた際には、日本企業による対外資産売却が要因とされた。だが実際には、大震災に対して政策対応が十分行われず、経済の停滞が長引いて、デフレが強まるとの連想が働き、これが円高をもたらした側面も大きかっただろう。 

 

■現在の円安は「日銀の機動的対応への期待」の証拠 

 

 経済の下振れが起きれば、中央銀行が金融緩和を繰り出すので、通貨安要因になる。今回は有事発生をうけて、2024年に予想される日本銀行のマイナス金利解除が遅れるとの思惑が、円安の一因になった。 

 

 元々1月22~23日に開催される金融政策決定会合を機に、日銀が政策変更に踏み出すとの金融市場の思惑が早計だったことの反動がでている側面もある。だが、有事に対して日銀の対応は機動的に変わるという期待で円安が進んでいることは、経済失政が目立った2011年時と現在は異なっていることを意味する。 

 

 そして、円安によって日本株が他国の市場より大幅な好成績をおさめている構図は2023年に明確だったが、これは2024年も変わっていない。震災後の対応が教科書通りに行われ円安が進んだことが、年初からの日本株の独歩高の最大の要因だろうと筆者は考えている。 

 

 では、このまま日本株の上昇は続くのだろうか。1989年の平成バブル期ル期に記録した3万8915円という史上最高値が近づきつつあることで、「日本株市場もかなりバブルになっている」、と感じられる方が多いかもしれない。 

 

 だが、日本以外のほとんどの主要先進国では、株価指数は景気回復の度に最高値を更新している。過去30年もの期間に株価が高値を更新していない日本が例外であり、ようやく普通の国に戻りつつあるということである。 

 

 1990年以降の停滞から抜け出し、日本の名目GDPが1990年以降のレンジ(500兆円~550兆円)から抜け出し、2023年にはっきりと超えたことでもそれは証明されている。 

 

 インフレ定着をともなう経済正常化が進んでいるからこそ、いわゆる「企業の稼ぐ力」が強まった。上場企業の利益も最高水準まで増えているのだから、バブル期の1989年まで株価が戻るのは正当化できる。またPER(株価収益率)などで見ても、1990年前のバブル期よりかなり低く、株価は割高とは言えない。長期的に見れば、今の水準の株高についても、「上がりすぎ」と警戒する必要はないだろう。 

 

 

 ただ、短期的な日本株の独歩高にはやや警戒すべきかもしれない。今回と同様に日本株が、米欧株を大きく上回った局面としては、直近では2023年4~6月が思い出される。 

 

 当時は、就任直後の植田和男日銀総裁が慎重な対応を行う一方で、FRB(連邦準備制度理事会)が追加利上げを模索していた中で、為替市場で1ドル=130円前後から145円付近まで円安が進んだ。 

 

 このときとは違って、2024年は日米の金融政策をとりまく環境が変わっている。まず、日銀による1月日銀金融政策決定会合後のマイナス金利解除への思惑は後退した。だが、春闘賃上げの状況を踏まえ、4月会合では、日銀によるマイナス金利解除が行われると見られる。 

 

 一方で、アメリカ経済は底堅い中で、インフレ指標の下振れが明確である。FRBによる3月利下げ期待が強まる中、高官からは早期利下げ期待をいさめるような声も聞かれる。 

 

 それでも、最近のインフレの下振れを踏まえると、今後FRBのインフレ見通しが変わってもおかしくない。FRBが利下げに動く中で、過去2年弱続いたドル高円安の修正が起きると見られる中で、2023年4~6月期のように大幅な円安が進む可能性は高くない。このため、年初から続く日本株の独歩高は長期化しないのではないか。 

 

(本稿で示された内容や意見は筆者個人によるもので、所属する機関の見解を示すものではありません。当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています) 

 

村上 尚己 :エコノミスト 

 

 

 
 

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