( 131768 )  2024/01/23 23:02:55  
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HIKAKIN氏に巻き起こった二股疑惑。即日行われた動画での謝罪の内容には注目すべき点が多数ありました(写真:「HikakinTV」の動画より) 

 

 これまで大きなスキャンダルとは無縁だったYouTuber界のレジェンドHIKAKIN(ヒカキン)氏にも文春砲がさく裂した。文春オンラインに女性への「二股疑惑」の報道が出たのである。 

 

【写真】今年の元日に、ド派手に結婚報告をしていたHIKAKIN氏。今回の二股疑惑報道を受けての謝罪動画では一転、全く違う服装、態度で臨んでいた 

 

報道の直後、HIKAKIN氏は自身のYouTubeチャンネル「HikakinTV」において、「週刊誌の記事について」というタイトルの動画をアップ、謝罪と説明を行った。 

 

 SNS上ではHIKAKIN氏を擁護する意見も多く見られており、早くもスキャンダルは収束に向かう兆しを見せているようにも見える。 

 

 今回報道された中身もあるだろうが、HIKAKIN氏の対応は、一般人や企業のリスク管理という視点からも学ぶべきところは多いように思う。 

 

■適切な「謝罪」が極めて難しいこれだけの理由 

 

 日常生活においても、誰かに謝罪せざるをえなくなる局面は少なからずある。事故を起こしたり、ビジネス上のトラブルであったりすると、謝罪の難易度は一気に上昇する。金銭的、社会的な損失が伴う可能性も出てくるためだ。 

 

 今回のように、有名人のスキャンダルでメディアでも報道された場合は、メディアや、その先にいる一般の人たちへの対応も考えなければならない。重要になるのは、下記のことをしっかり考えて対策を練ることだ。 

 

 1. 「誰を対象に」対応を行うべきか? (謝罪をする必要があるのかないのかも含めて検討) 

 

 2. (それぞれの対象に対して)どのような謝罪、あるいは説明をすべきなのか?  

 

 企業の不祥事の場合と同様、これらを過不足なく行うのには、高度なスキルが求められる。当事者だけで手に余る場合は、危機管理広報の専門家に相談することもあるが、いつもうまくいく保証はない。なぜなら、以下の2つの変動要素があるためだ。 

 

 1. 専門家でもいつも最適の助言ができるとは限らない 

 

 2. 依頼者が専門家の助言を十分に受け入れるとは限らない 

 

 一般的に「こうすべき」という方法論はあるが、芸能人・著名人の場合は、彼らがこれまで培ってきたイメージやキャラクターがあり、同じ対応をしたからと言って同じ結果が得られるわけでもない。ケースバイケースの対応が必要だ。 

 

 そして多くの場合、問題になるのが2つ目だ。問題を起こした企業や人は、「自分に非があった」と思っていない、あるいは認めたくないと思っている。プライドや自己保身もあり、専門家の意見を素直に受け入れなかったり、動揺して冷静に対応することができないことも多い。その結果、対応が裏目に出て、余計に問題が大きくなることも多々ある。 

 

 

■HIKAKIN氏の対応はどこが素晴らしかったのか?  

 

 HIKAKIN氏の対応を見ると、専門家の助言が入っているようにも見受けられる。それだけ高度な対応だったと感じるのだが、HIKAKIN氏が個人で対応したのであれば、リスクマネジメントの面にも高い才能を有している人物だと思わざるを得ない。 

 

 企業や有名人が謝罪会見を行う際には、台本や想定問答集を作るのみならず、専門家は服装やお辞儀の仕方、会見中の表情や身振り手振りまで細かく助言する。 

 

 HIKAKIN氏は謝罪動画にダークスーツに地味な色のネクタイ、黒い髪で登場、都度深々と頭を下げている。記者会見の際にも、専門家は同様のことを助言するし、それができていない場合は、内容以外のところで批判を浴びてしまうことも起こりうる。 

 

 続いて、内容について見ていこう。動画の長さは3分程度にすぎないが、その中に、必要なことは過不足なく盛り込まれていた。 

 

 まずは、最大の当事者である(元)交際相手であるA子さんに対して謝罪と感謝の言葉を述べている。そのうえでA子さんと報道した週刊誌に対する誹謗中傷がないようにと反響を牽制。さらに、視聴者やビジネスパートナーに対しても深々と頭を下げて謝罪をする――と、これでもかと各方面へ配慮がされている。そして、結婚相手(妻)に対しても配慮のコメントをしている。 

 

 具体的に動画でのHIKAKIN氏のコメントを見てみると、その周到さが際だってわかる。 

 

「本日、週刊誌で僕が2015年から3年間お付き合いをしていた女性に関する報道がありました。記事の内容については、事実も含まれておりました」 

「まずはじめにA子さん、当時の僕の至らない振る舞いで傷つけてしまい、本当に申し訳ございませんでした」 

 

「今回の件について A子さんには非がなく、僕の落ち度でしかありませんので、A子さんや週刊誌への誹謗中傷は、お控えいただきたいと思います」 

 

 

 とA子さんについての謝罪のコメントをした後、文春への誹謗中傷についてまでコメント。そのうえで、 

 

「取材でも回答させていただいた通り、約4年間、A子さんとはお会いしておりません。先日結婚を発表した妻とは、交際期間がかぶっていないということをここで申し上げさせてください」 

 と事実関係と妻についての配慮の言葉を述べていた。 

 

 HIKAKIN氏に関して「謝る必要はない」という意見も少なからずあるのだが、あえて謝罪をすることで、苦境を乗り切ることに成功している。まさに「負けるが勝ち」である。 

 

■最初に行われた「適切な地ならし」 

 

 一方で、ただ単に謝罪をするだけでは不十分で、誤解や臆測を招かないように、説明するべき点はしっかり説明をする必要がある。しかしながら、これもうまくやらないと「言い訳がましい」「言い逃れをしている」と思われてしまいかねない。 

 

 HIKAKIN氏の場合は、最初にしっかりと各所に謝罪をして、地ならしを行った後に、事実関係や自身の意見を述べている。そのために、彼の説明は受け入れられやすくなっているのだ。 

 

 HIKAKIN氏は身なりや態度、謝罪と説明、釈明の順番やその内容を、各所に配慮し、間違えず行っている。これは、一見できそうでなかなかできることではない。 

 

 付け加えれば、HIKAKIN氏は報道をした文春の取材を断ることなく受けており、謝罪文も文春オンラインで公表されているが、それも動画と同様に、必要なことに適切に答えている。 

 

 HIKAKIN氏は、報道をした文春や、そこに情報提供をしたA子さんと対立することなく、十分な配慮を行った。これによって、さらなる対立や攻撃を回避している。 

 

 もちろん、現時点でHIKAKIN氏の説明や主張がすべて正しいとすることはできないし、彼に対する続報や批判が出てこないとも限らない。しかし、初動対応としては十分なものであったと言えるだろう。 

 

 できる限り、対立や応酬は避けて、平和的な解決策を図ろうとするのは、あらゆるリスクマネジメントにおいても重要なポイントとなる。 

 

■われわれも学ぶべきリスクマネジメント 

 

 社会的地位や知名度が上がっていくにつれ、周囲の人は気を遣って厳しいことを言いづらくなる中、人は慢心しがちになっていく。一方で、さまざまなところから、批判や誹謗中傷を受けたり、足元をすくわれたりするリスクは高まっていく。リスク対応は誰かが懇切丁寧に教えてくれるものではなく、自らの経験の中で学んでいくものでもある。 

 

 例えるなら、一般のドライバーとして運転していた人が、急にカーレースに出場するようなものだ。だから、多くの芸能人、著名人が失敗をしてしまうのだ。 

 

 HIKAKIN氏はトップYouTuberとして活動しつつ、これまで大きなスキャンダルもなく、「聖人君子」とまで言われることもあった。今回のスキャンダルでそのイメージが揺らぎかけたが、何とかそのポジションは守り切れそうな気配もしてきている。 

 

 HIKAKIN氏に限らず、われわれは成功者から、成功の秘訣だけでなく、失敗しない秘訣も学び取ることができる。 

 

西山 守 : マーケティングコンサルタント、桜美林大学ビジネスマネジメント学群准教授 

 

 

 
 

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