( 131808 ) 2024/01/23 23:49:45 0 00 UH-60JA(画像:写真AC)
元日の夕方に能登半島沖で発生した大地震は、能登半島の北部、奥能登と呼ばれる地域を直撃し、多くの孤立集落が発生した。輪島市や珠洲市では多くの家屋が倒壊、輪島市では観光の名所として知られた朝市で大火災が発生し、およそ200棟が焼失、現在も現場の捜索が続いている。
【画像】えっ…! これが自衛官の「年収」です(計7枚)
県の中心部である金沢地方から遮断された奥能登での災害に対して、ヘリコプターの機動力による救助や支援が必要になることは、当然予想できたことである。しかし、孤立した地区の被災者に対する救助や支援は、遅々として進まなかった。
新聞によると、1月4日の時点で救助要請の20~30件が未対応と報道され、自衛隊の派遣規模が小さかったことの対比で、政府による初動の遅さが指摘された。そうした批判を打ち消したいためだろうが、
「被災地にはヘリコプターなど降りられない」
などと妙なことをいう人たちが現れた。
・中学校のグラウンドに起きた地割れのニュース写真 ・避難所になった小学校に避難者の自動車が多数とまっている写真
を出して、こんなところにヘリコプターが降ろせるわけがない、というのである。
しかし、それらの写真は状況の一部分を切り取っただけのものだった。地割れを起こした運動場の空いている場所に自衛隊の大型ヘリコプターは着陸していたし、避難所になった小学校も、近くの運動公園が離着陸場に指定されており、そこにヘリコプターは降りていたのである。
ヘリコプターによる吊り上げ救助のイメージ(画像:写真AC)
全国各地の自治体では、大規模災害に備えた災害対策計画を持っているが、そのなかでは地域ごとに受援用のヘリポートも指定されている。これは、各都道府県の消防部隊や消防防災航空隊が駆けつける「緊急消防援助隊」の支援に備えたもので、石川県では奥能登管内だけでも15か所が指定されている。
こうした施設には、自治体の防災訓練などでも実際にヘリコプターを離着陸させることがあるし、多くの自治体は災害対策計画をネット上で公開しているので、自分の住んでいる自治体について改めて確認しておくといいかもしれない。
しかし、これも山あいの小さな集落まで網羅しているわけではなく、救助を求める孤立集落などの現場に、必ずしも事前に指定されたヘリポートがあるとは限らない。そうした現場でヘリコプターが救助活動や物資輸送を行う場合は、人命救助として任意の場所に着陸することが認められているし、降りられない場合は空中停止(ホバリング)したヘリコプターからつり下げによる積み下ろしが行われる。
ホバリング中のヘリコプターから物資や人員を積み下ろしするのに使われるのは、主に
「ホイスト」
と呼ばれる巻き上げ式ウインチだ。ヘリコプターの機外に、70~80mほどのワイヤを下すことができ、これで要救助者を機内に収容したり、支援物資を地上に降ろしたりできる。
各地の自衛隊基地で開かれる航空祭や地域の防災訓練などでも、このホイストを使った救助訓練が展示される機会は多いし、今回の災害派遣でも多くの救助や物資搬送がホイストを使って行われている。
自衛隊の救難ヘリコプターや中型ヘリコプターにもホイストは装備されており、今回の震災では地元である小松救難隊のUH-60ヘリコプターが初期の人命救助に奔走した。しかし、災害時の人命救助は基本的に
・消防 ・警察
の役割だ。そのため、大災害時に全国から集まってきた消防防災ヘリコプターや警察ヘリコプターが、被害の大きかった地域での救助の主力を担っている。
防衛省・自衛隊のウェブサイト(画像:防衛省・自衛隊)
その一方で、自治体の消防防災ヘリコプターは、比較的小型な機種が多く、数も限られていることから、避難所などへの物資輸送や被災者の移送までは、なかなか手が回らない。そうしたニーズに応えるのは、主に
「自衛隊のヘリコプターによる空輸能力」
である。今回の災害でも、孤立集落の被災者から自衛隊のヘリコプター部隊に期待する声は多かったが、特に初期の段階では十分に支援が届いたとはいえず、これも
「自衛隊の派遣規模は適正だったのか」
を疑問視される一因になっている。
こうした問題が発生した理由として浮かび上がるのは、孤立した被災集落は過疎地で行政職員も少なく、通信インフラの確保も困難になってしまったことで、
「状況や受援ニーズの把握と伝達」
がうまく行かなくなっていたことである。発災直後に石川県の馳知事が発信したSNSによると、県災害対策本部のホワイトボードには、被害の大きかった能登市や珠洲市と連絡が取れていない様子が書き込まれている。
自衛隊や消防は、基本的に県の災害対策本部の要請を受けて活動する。しかし、県の災害対策本部に現地の情報が乏しく、自衛隊への出動要請にもつながらなかった可能性が高い。それだけではなく、現地に入ったジャーナリストらの情報からは、孤立地の避難所で救援ニーズを取りまとめる機能や、そのニーズを受け止めて的確な支援を調整する機能が、スムーズに働いていないことが伺える。
つまり、発災から3週間を経て見えてくるのは、ヘリコプターや自衛隊の能力不足ではない。被災者支援のなかで、
「県や国の主体的な関与が求められるプロセスが、機能不全に陥っていた」
ことである。その原因には、石川県の防災計画が古いままで、地震調査委員会による最新の知見も取り入れられていなかったことも指摘されている。
この震災における被災地支援の遅れを、自衛隊やヘリコプターの責任に帰すことは間違いである。地方と国の行政機関において、
・災害対策計画は十分なものであったのか ・発災時の対応能力が十分であったのか
それを問うてこそ、今後に生かすべき教訓が得られるはずである。
ブースカちゃん(元航空機プロジェクトエンジニア)
|
![]() |