( 132011 ) 2024/01/24 14:45:36 0 00 一時、バブル後最高値を2日連続で更新した日経平均株価(写真:共同通信社)
株高が止まらない。1月5日から15日までの日経平均株価は6営業日続伸となり、7.8%もの上昇となった。1月23日には一時400円以上値上がりし、3万6984円とバブル後最高値を2日連続で更新した。一方、実質賃金(2023年11月)はなんと20カ月連続のマイナス。物価高に賃金アップが追い付かない。名目GDP(ドル換算)はドイツに抜かれ世界4位に後退する見通しとなり、1人当たりGDPはG7最下位となっている。この歪んだ日本経済の先行きはどうなっていくのか──。ジャーナリストの山田稔氏がレポートする。(JBpress編集部)
【写真】インバウンドは回復軌道だが…
■ 株高の背景にカネ余りと外国人買い、そして新NISA
2023年の年明け(1月4日)、日経平均株価は2万5834円でスタートした。その1年後、2024年1月4日の始値は3万3193円だった。1年間で7359円、28.5%も上昇したのだ。
勢いは止まらない。1月23日には一時3万7000円目前まで上昇し、バブル崩壊後の最高値を2日連続で更新。市場関係者の間からは「年内に3万9000円台」「いや4万円突破」という景気のいい声が上がっている。
物価高に苦しめられている庶民の生活実感からすると、あまりにも現実とかけ離れた現象だが、なぜこんな異常とも思える株高が続いているのか。その背景にはいくつかのキーワードがある。
【カネ余り】 アベノミクス以降の長期にわたる超低金利政策で、空前のカネ余りとなり実体経済ではなく不動産や株といった資産市場への資金流入が続いた。その結果、株価上昇だけでなく不動産価格の高騰を招いた。
東京23区の新築マンション平均価格は1億2811万円(2023年11月/不動産経済研究所の発表データ)となり、前年同月比50.2%の上昇となっている。会社員の平均年収458万円(2022年/民間給与実態統計調査)の28年分である。恐ろしい水準だ。
【外国人買い】 2023年の日本株買いで注目されたのが海外投資家の買い行動だ。現物と先物を合わせると年間6兆2900億円もの買い越しとなった。
東証による企業への経営改革要請への期待感や米著名投資家による日本株推奨に加え、2023年1月の月間平均が1ドル=130円台だったのが、12月には143円台と13円もの円安となったことで、日本株の割安感が広がったことも大きい。さらに低迷する上海や香港市場でのリスクを避けて日本株買いという動きもある。
【新NISA】 年間投資可能額の増額、非課税保有期間の無制限化、投資可能期間の恒久化といったメリットが喧伝されて今年からスタートした新たな少額投資非課税制度(NISA)が早くも株高に貢献しているとの見方もある。
貯蓄から投資への流れを推し進めるために政府が旧NISAを大幅に見直し、さまざまな条件を緩和した。昨年末、新NISAの駆け込み的な新規の口座開設が急増した。この人気に便乗した買い行動が広がっているとの見方もある。政府の思惑通りに、個人金融資産が貯蓄から投資に流入する動きが加速し始めている可能性は高い。
■ 株価は上がってもGDPは低迷し、実質所得はマイナス続き
問題は、昨年来の株価上昇で日本経済、国民の暮らしぶりは好転したのかという点である。
コロナ禍がひと段落したことで訪日客(インバウンド)が完全復活し、2023年の訪日外国人の旅行消費額(速報)は5兆2923億円と過去最高を記録した。円安で外国人たちの財布のひもが緩んだわけだ。国・地域別では台湾が7786億円(14.7%)で最多、次いで中国7599億円、韓国7444億円の順だった。
とはいえ、国全体の状況はパッとしない。2023年のGDPは1─3月が+1.2%、4─6月が+0.9%だったが、7─9月は一転して-0.7%となった。
実質個人消費でみると自動車などの耐久財が-2.9%、半耐久財(被服、身の回り品など)が-3.2%、非耐久財(食料、エネルギー、日用品など)が-0.3%と落ち込み、物価上昇により消費マインドが冷え込んだとみられる。年間の数値は2月に発表されるが、民間シンクタンクの予想は+1.5%程度となっている。
プラス成長とはいえ、前年がコロナ禍だったことを考えると、この程度の数値で喜んではいられない。しかもIMF(世界通貨基金)の2023年成長率予測(2022年10月発表)では、日本の名目GDPは前年比0.2%減の4兆2308億ドル(約630兆円)で、ドイツに抜かれ世界4位に転落する見通しとなった。一人当たり名目GDPで見ると、日本は3万3950ドルでなんと34位。韓国やスペインと同水準で、G7では最下位である。
国民の懐も豊かさとは程遠い。1月10日発表の昨年11月の毎月勤労統計調査(厚労省)によると、一人当たりの実質賃金は前年同月比3.0%減で、20カ月連続でマイナスとなった。物価高騰に賃金上昇が追いつかない状況が続き、それが消費低迷につながっている。その物価だが、2023年平均の東京都区部の消費者物価指数(生鮮品を除く総合指数)は前年比3.0%の上昇となった。1982年の3.3%以来、42年ぶりの高水準だった。
この状況を転換させるには、物価上昇を上回る水準の大幅賃上げが不可欠。「実質賃金をプラスにするためには、2024年の賃上げ率が3.6%必要」との民間シンクタンクの試算が報じられている。
■ 円安ダメージが響き、空前の高騰を続ける株価にも異変の恐れ
最近の日本経済の動きで心配なのが円安の動向だ。1月23日の為替相場は1ドル=148円台で1年前の同じ日の128円台から20円もの円安となっている。
円安は輸出産業にとっては大きなメリットをもたらすが、エネルギーや食料など輸入品の価格高騰につながるため2023年上半期は6兆9644億円の貿易赤字となった。直近の11月も7769億円の赤字で2カ月連続の赤字となっている。
円安のデメリットについて経済評論家の斎藤満氏がこう指摘する。
「いま150円近くまで円安が進行していますが、日本経済にとっては大きなマイナスです。歴史的に見ても、たとえば円高が進んだ1980年代後半から日本の一人当たりGDPは世界10位以内に入り、ひと桁順位が続きました。円高による交易条件の改善により、実質購買力が上昇するためです。
その結果、巨額の交易利得が発生します。逆にアベノミクス以降の超円安局面では巨額の交易損失や資金の海外流出が発生する一方で、エネルギーをはじめとする輸入価格の高騰もあいまって国内経済が衰退してしまう。一人当たりGDPも20位以下に低迷し続けてています。インバウンド効果にばかり目を奪われているととんでもないことになります」
長期化する円安に伴う物価高で、エネルギーをはじめとする原材料コストの高騰、物流コスト上昇などで経営環境は厳しさを増している。価格転嫁ができる大手はまだしも中小零細企業は深刻な状況に陥っている。2023年1─11月の物価高倒産は702件と過去最多となった。
投資熱が円安を招く可能性も指摘されている。旧NISAによる買い付けの6割は投資信託といわれ、その多くは海外の株式や債券が多くを占めている。新NISAのスタートで口座開設が今後も増加すれば、投資資金の多くが結果的に海外資産に流れ、さらなる円安圧力となるというのだ。円安地獄はしばらく続きそうだ。
■ 膨れ上がった株価はまだ上がるのか、それとも弾けるのか
こうして検証してみると、最近の株価高騰は必ずしも日本経済の実態を反映したものではないことが分かる。5%、6%といった経済成長が見込まれる局面での株価上昇であれば、納得できる相場だが、今の急激な動きは素人目にもあまりにも危うく見えてしまう。
そもそも今の高値相場で株を買った投資家のうち、いったいどれだけの人たちが確かなリターンを確保できるのだろうか。前出の斎藤氏もこう危惧する。
「株は安い時に買って、高値になったときに売るのが鉄則です。ところが、今年になって買った人たちはまさに高値掴みです。今後も上がり続けて、さらなる高値で売り抜けることができればいいが、なかなか難しいでしょう。
今後の市場の動きで注目したいのは、この春以降に行われるとの見方が強い日銀の金融政策の見直し、つまり利上げです。為替が円高に向かい株価下落の引き金になりかねない。
もう一つの大きな懸念材料は、中国人富裕層など海外投資家の動きです。中国の不動産バブルが弾けたことで余裕がなくなり、日本の株や不動産への投資資金を回収する動きが出てくる可能性がある。中には借金で投資している人たちもいると言われるだけに、そうした動きが顕在化したときに株価下落に向けたハチの一刺しとなりかねません。
さらに加えると、新NISAなどの資金が向かっている米国市場も過熱感、高値恐怖感が出てきています。新NISA騒動に踊らされた人たちの投資先は大丈夫なのか。バブル期にはNTT株放出後の乱高下で多くの個人投資家が痛い目にあいました。その繰り返しにならなければいいのですが」
人口減少、少子化急加速で国際競争力も経済力も「縮みゆくニッポン」で株価だけが高騰し続けている。膨れ上がる一方の風船は、その姿を維持できるのか。それともハチの一刺しで破裂してしまうのか。その答えは桜の花が散るころには出ることになりそうだ。
山田 稔
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