( 132310 )  2024/01/25 13:35:31  
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 海上保安庁の航空機と日本航空(JAL)機の衝突事故に端を発し「ペットの有事」に関心が集まっている。JAL機の乗員・乗客は全員生還したものの、貨物室に預けられたペットが犠牲になったからだ。 

 

 動物愛好家の著名人は「同伴搭乗」を訴え、反対派からは「ペットアレルギーの人にどう対応するつもりなのか」「人命優先なのは当然」などの批判があがる。スターフライヤーは1月15日からペットを客室に持ち込めるサービスを全国内便に拡大したが、作家の佐藤健太氏は「緊急時、人間と動物が何もかも一緒にというのは困難であると冷静に考えなければならない」と指摘する。 

 

 1月2日に東京・羽田空港で起きた衝突事故で、JAL機の乗員・乗客379人は全員生還した。だが、海保機の乗員5人が死亡し、JAL機に預けられていたペット2匹も救出されることはなかった。 

 

 年明け早々の悲劇に反応したのが女優の石田ゆり子氏だ。1月4日に「本当に本当に辛いです。どうか動物たちが乗っていませんようにと祈っていました。飼い主さんの思い、そして貨物室の動物たちの思い…どう考えてもやるせないです」と反応。「いろんな意見があると思いつつも家族同然の動物たちを機内に載せる時、ケージに入れて機内に持ち込めることを許して欲しいです」などとSNSで訴えた。 

 

 ただ、こうした投稿には批判も殺到。石田氏は1月8日、インスタグラムに「私ごとですが、一度コメント欄を閉じさせていただきます。皆様のご意見を踏まえて勉強をしたいと思います」と記し、コメント欄は一時閉鎖に追い込まれた。タレントの梅宮アンナ氏もインスタグラムに「生き物を飛行機の貨物に預けるなんて私には絶対にできなくて」「今回の事故を元に、何かいい方法が新たに生まれたらいいとも思います。海外のよい部分を導入したり検討をしたり」「小さな命は、どんなに怖くて、熱かっただろう。。本当に本当に可哀相で」などと自身の思いを投稿している。 

 

 

 筆者は、2歳になるラブラドールレトリバーと暮らしている。石田氏や梅宮氏の「思い」は理解するものだ。衝突事故の際に逃げることもできず犠牲になったペット、そして救出できなかった飼い主のことを考えれば何とも言えない気持ちになる。 

 

 ただ、筆者が愛犬と暮らす時に覚悟したことがある。それは出張や旅行に連れて行くことは難しく、仕事や生活に一定の制限が加わることだ。自家用車で一緒に移動したことがあるが、車酔いが生じてかわいそうだった。犬だけで長時間の留守番はできないので、遠くまで行かなければならない時は民間事業者に預けることにしている。 

 

 もちろん、動物の扱いに慣れたトレーナーがいる一時預かりサービスには費用が発生する。小型犬と異なり、多くの場合は高くなりがちだ。ただ、それらを出し渋ってしまえば、犬も筆者も安心とはいかない。一緒に旅客機で遠くまで行くことは想像もしたこともなかった。旅行を共にできれば嬉しいのは間違いないが、仕事や生活に一定の「制限」が生じることは覚悟する必要があると思っている。 

 

 とはいえ、やむにやまれず飛行機でペットと移動しなければならない人もいるだろう。そうしたニーズに応える形で、海外の航空会社ではペットの「同伴搭乗」を可能としているところもある。ただ、種類やサイズなどの規定がある場合がほとんどだ。スターフライヤーは1月15日から犬や猫を客室に持ち込めるサービスをすべての国内線に拡大したが、指定のサイズは「長さ50センチ×横幅40センチ×高さ40センチ以内であること」。ラブラドールレトリバーは対象外となる。 

 

 日本では多くが貨物室に預けられることになるが、日常生活と異なる環境はペットに大きな負担となる。JALの公式サイトには過去5年間に犬6匹、猫2匹、小鳥3羽の死亡事例があったことが明らかにされている。いずれもペット輸送中の死傷について航空会社には一切の責任を問わないことを同意することが求められる。 

 

 スターフライヤーの「同意書」を読むと、ペットを機内に持ち込むことが認められるためには「安全で中断のない航空輸送実現の観点、また、他のお客様のご迷惑にならないという観点から、ペットが公共の場で適切に行動するように訓練されていることが必要です」と明記されている。その上で「私は、貴社航空便によるペットの手荷物輸送に当たり、当該輸送中に発生したペットの死傷及び疾患等について、貴社に一切の責任を問わないことに同意致します」とある。 

 

 「脱出の際にはペットは機内に置いて行かなくてはなりません」 

 

 ペットの同伴搭乗が可能だったとしても、「緊急時の酸素サービスはペットには御利用頂けません」「脱出の際にはペットは機内に置いて行かなくてはなりません」と明記されており、今回のJAL機衝突事故のように緊急時にはペットの救出が困難であることがわかる。そこは、やはり「人命優先」なのだ。 

 

 実際、今回の衝突事故では貨物室や収納棚の荷物のほとんどは機内に残された。1月10日に朝日新聞はJAL機に乗っていた男性の体験を報じている。それによれば、着陸態勢に入った旅客機は「タイヤが接地したかどうかくらいのタイミング」で突然目の前のエンジンが音を立てて爆発。荷物棚からスーツケースなどを取り出そうとする乗客がいたものの、客室乗務員が「荷物を取り出さないで下さい」と繰り返し、乗客からも「荷物は持つな」という声が度々上がったという。 

 

 

 機体前方の脱出シューターを滑り降りて機体外に出た男性は、家の鍵や妻の財布、会社支給のパソコン、預けていたベビーカーや母子手帳などを失ったといい、「多くの乗客が同様に『身一つ』だった。あの状況で、よく乗客が荷物も諦めて従ったと思う」と証言。その上で「それでも、生きていただけでよしと思う」と振り返っている。 

 

 緊急時、機外に脱出するシューター(エスケープスライド)を使用する際は「手荷物は、他のお客様の脱出の妨げや、スライドが破損し使えなくなる可能性がありますので、一切持たないでください」(ANA公式サイト)とされており、ペットのケージを持って脱出することが困難であることがわかる。 

 

 スターフライヤーの「同伴搭乗」サービスは、たしかに機内で一緒にいる安心感はあるだろう。だが、緊急時に共に脱出できないことを考えれば、筆者には隣に置いていく方が辛いように思える。ネット上には「どちらにしろ緊急時は持ち出せないのか」「ペットを置いていけない飼い主が抱えて脱出しようとしてトラブルになりかねない」といった声も相次ぐ。 

 

 実業家の堀江貴文氏もYouTubeにて、過去ゴールデンレトリーバーの盲導犬の隣に座った経験などがら「臭いもする」「多分、犬嫌いな人とか苦手な人にとっては、もう本当地獄のようなフライトだと思います」と語っていた。「正直、機内持ち込みっていうのは、そういう観点からも、僕は正直嫌だな、できればやめてほしいなって思います。今ペットに対してネガティブなことを言うとですね、叩かれたりとかするんで、なかなか言いづらいと思うんですが」 

 

佐藤健太 

 

 

 
 

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