( 133016 ) 2024/01/27 15:20:45 0 00 飛行機(画像:写真AC)
1月2日、羽田空港C滑走路で海上保安庁の航空機と日本航空(JAL)の旅客機が衝突した。この事故で貨物室に預けていた乗客のペット2匹が死亡し、SNS上では「ペット同伴」の議論が白熱した。
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ペット産業の発展にともない、日本でもペット同伴サービスが拡大している。しかし、旅客機におけるニーズは高いのだろうか。今一度、検証してみたい。
くしくも羽田空港での事故直後の1月15日、スターフライヤーがペット同伴サービスを全路線に拡大したことが注目を集めた。最近、各方面でペット同伴サービスが脚光を浴びている背景には、市場の拡大がある。
犬猫を中心としたペット愛好家は増加傾向にある。猫の飼育頭数は2013年の約840万9000頭から2023年には906万9000頭に増加する一方、犬の飼育頭数は817万4000頭から684万4000頭に減少している。一方、コロナ禍以降、新規購入者が増加しており、犬・猫の新規飼育者数・世帯数は2019年以前よりも増加している。
経済産業省によると、各家庭におけるペットへの支出は近年増加傾向にあったが、2020年以降顕著に増加している。経済産業省は、この支出の増加について、テレワークによる在宅時間の増加でペットとの接触が増えたことに加え、コロナ禍の癒やしを求めて新たにペットを飼う人が増えたためと分析している。
キンプトン新宿東京のウェブサイト(画像:キンプトン新宿東京)
そんななか、ペット愛好家向けのサービスも充実してきている。特に注目したいのは、ペット同伴が可能な宿泊施設の増加だ。なかでも、2020年10月にオープンした「キンプトン新宿東京」は大きな変化を感じさせた。
キンプトン新宿東京は、インターコンチネンタルホテルズグループに属する高級ホテルだ。開業当初からペット同伴の宿泊を歓迎する姿勢をとっている。
ペット同伴可の宿泊施設では、客室以外はケージに入れておくのが一般的だ。しかし、同ホテルでは、レストランを含む館内すべてのエリアで、ペットはリードをつけたままホテル内を移動することができる。高級ホテルでこのレベルのサービスを提供しているのだ。
また、2022年2月に開業した住友不動産ヴィラフォンテーヌが運営する「inumo 芝公園 by ヴィラフォンテーヌ」は、「inumo」の名の通り、愛犬家をターゲットにしたペット宿泊特化型ホテルだ。
数年前まで、ペットと泊まれる宿はリゾートホテルや温泉宿に限られていた。その多くは、客室以外にケージが必要だったり、ペットは別の部屋に泊まらなければならなかったりといった条件をつけていた。
そのため、ペット愛好家はペットホテルに預けるか、旅行そのものを諦めざるを得なかった。ペット産業の拡大とともに時代が大きく変わったことは間違いない。
そんななか、交通機関におけるペット同伴サービスは遅れていた。しかし、スターフライヤーがサービスを全路線に拡大したことは、今後、日本のあらゆる交通機関でペット同伴が容易になることを示唆している。
スターフライヤーのペット同伴サービス「FLY WITH PET!」(画像:スターフライヤー)
ペット同伴サービスの導入にあたって鉄道会社や航空会社に求められるのは、明確なルールの確立である。スターフライヤーは数回のテストフライトを経て、ペット同伴のルールを明確にした上で全路線へのサービス展開を決めた。
2022年に新幹線で初めてペット専用列車ツアーを実施したJR東日本は、使用済み車両を車庫に格納し、アレルギー防止のための特別清掃を行った上で、今後も旅行商品として提供する可能性を検討している。
結果として提示されるルールはさまざまな形になるかもしれないが、ニーズによっては、特定の列車や航空機の全座席にペットを同伴でき、ケージから出すこともできるサービスも選択肢に入るかもしれない。これは極めて現実的なアプローチである。
事業者が、最初からペットの同伴を許可する旨の明確な声明を出せば、明確な住み分けができる。これはペットをめぐる紛争を防ぐことにもなる。また、鉄道や旅客機についても、前述の宿泊施設と同様に、最初からペット同伴を前提とした運営を行うことも検討に値する。
全国の20~69歳の犬の飼い主571人を対象に行ったアンケート(画像:ペットメディカルサポート)
しかし、ペット・ツーリズムの需要が高まっているとはいえ、本当にそれほどのニーズがあるのだろうか。東海大学国際観光学部の東海林克彦教授によれば、ペット・ツーリズムとは次のように定義されている。
「飼い主とペットが一緒に、日帰りや宿泊の如何を問わず、非日常的な圏域や環境において、飼い主とペットの双方にとって余暇を楽しむためのレクリエーション行動」(『週刊トラベルジャーナル』2022年6月27日号)
ペット愛好家が求めているのは、長距離の移動ではなく、非日常的な「お出かけ」である。その多くは、やむを得ない事情がない限り、ペットの長距離の移動は絶対に避けたいと考えているからだ。
前述の東海林教授らが作成した「ペット・ツーリズムの適正推進ガイドライン(骨子案)」でも、長距離の移動について。
「自家用車での移動であれば、事前に少しずつ慣らしておくことが必要だが、何をおいても、公共交通機関、特に飛行機を使った長距離の移動は、その犬の性質やストレス耐性などをよく考慮して判断することが肝要」
と、安易にペットを同伴させないよう警告している一文がある。
全国の20~69歳の犬の飼い主571人を対象に行ったアンケート(画像:ペットメディカルサポート)
実際、羽田空港の事故以降、ペット同伴についてSNSなどで議論されているのを見ると
「ジェット機の騒音や振動、気圧や温度変化は、ペットにとって不安とストレスでしか無い」 「やはり機内同伴は現在のシステムでは不安ですし、反対」
というように、同伴に反対するペット愛好家も少なくない。
結局、ペットが客室で同伴できたとしても、乗客が安心することは難しいのである。実際、ほとんどの航空会社がペットの機内持ち込みを認めている韓国でさえ、問題が起きている。2023年10月には、ある客室乗務員が、乱気流で失神した愛犬をケージから出して応急処置をした乗客の行動についてインターネット上に投稿し、物議を醸した。
このような傾向を鑑みると、現在伸びているペット・ツーリズムは、主に
「近距離旅行に落ち着く」
可能性が高い。
ただ、これらのサービスは大きく普及するだろうか。結局のところ、多くのペット愛好家にとって、ペットと一緒に旅行したいというニーズに応えるサービス自体が首をかしげるものではないか。短距離の移動でもペットが不安を感じ、食事をしなくなった、排泄場所を間違えた――。そんな経験をした人は少なくないだろう。この記事を書くにあたり、筆者の知り合いであるペット愛好家数人に質問してみた。回答は、
・近距離であっても旅行は避けたい ・ペット同伴可でも宿泊は絶対にしない ・やむを得ない事情がない限り、交通機関や自家用車での旅行は避けたい ・ペットホテルに預けて人間だけ旅行もしたくない ・ペットを迎えた時点で泊まりがけの旅行はあり得ないと考えている
で、その多くが最初からどのサービスも利用しようとは考えていなかった。
今や多くの人がペットを家族の一員と考えている。そのため、「家族だから一緒に旅行したい」ではなく、
「家族に迷惑をかけるようなことはしない」
と考える人の方が多いだろう。
これは当然のことかもしれない。いくらサービスを充実させても、利用者に安心を与えるのには限界がある。したがって、ペット・ツーリズムにおいては、交通機関における同伴サービスや宿泊のニーズは一定以上には高まらないと考えられる。
こう考えると、飛行機の「ペット同伴」 SNSでの“絶対NG論”は意外と正しいのかもしれない。
山本肇(乗り物ライター)
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