( 133318 ) 2024/01/28 13:46:20 0 00 京葉線(画像:写真AC)
京葉線のラッシュ時の快速・通勤快速廃止で、通勤時間が片道20分近く延びるとの発表が話題になっている。
【画像】えっ…! これが60年前の「蘇我駅」です(計13枚)
これまで少しずつ快速や通勤快速の減便が行われてきたが、今頃になって沿線自治体が
「沿線価値の毀損(きそん)、街づくりに支障、公共交通機関としての自覚をかなぐり捨てた暴挙」
などと騒ぎ出すという状況である。
筆者(北村幸太郎、鉄道ジャーナリスト)は兼ねてよりJRの首都圏区間のダイヤは、そのすべてではないにせよ、私鉄各線と比べてわかりづらく、サービスレベルの見劣りを感じてきた。沿線自治体もそれを感じて改善要望を出しているところもあるが、出し方が悪く、抜本的な改善までは至っていないことが多い。
なぜこのような状況が続き、むしろ悪化しているのか。これはJRと行政の構造的問題にあると考えられる。
千葉支社の説明にはいくつかおかしな点があるが、そのなかでも特筆すべきは、混雑の偏重をなくすために快速は各駅に停車する必要があるとしている点だ。
まずは18時台10本の設定がある各駅停車から見てみると、京葉線・武蔵野線併せた各駅停車の間隔は3~13分とかなりいびつだ。また、行き先別の間隔もバラバラだ。蘇我行きだけで見ると7~19分間隔、西船橋方面行きだけで見ると7~18分間隔だ。これは間に特急や快速、通勤快速が入っているからだとしているが、これは各駅停車の設定の仕方が明らかに悪いのを快速のせいにしているようにしか見えない状況だ。
例えば、東京駅18時発の特急の前に出している各駅停車は、特急の9分も前の17時51分に出していて、結果18時4分発の各駅停車まで13分も開く。しかも17時51分の各駅停車は葛西臨海公園で特急の通過待ちで5分も止まり、その後新浦安でも快速の待ち合わせをしている。これは特急と快速を連続で出しているのが間隔を広くした要因のひとつだ。
だが、葛西臨海公園での通過待ちなら特急の6分前の出発で十分であるし、特急発車後すぐに次の各駅停車を出す形にしていれば、各駅停車の間隔は開いても8分で済むはずだ。一方で18時11分発の各駅停車は、18時14分発の通勤快速の3分前に出しており、さらに通勤快速の後の各駅停車の発車は8分も後で、こちらも先行の各駅停車と11分も間隔を開けている。
千葉支社は通勤快速の利用が少ない一方で、快速や各駅停車に混雑が偏るとしているが、それもそのはず。東京発18時台で見ると18時2分に快速を出した後、南船橋や海浜幕張に止まらない通勤快速が18時14分に入り、その後の快速は18時38分まで36分も開く。
その次は13分後の18時51分発快速だ。南船橋に帰る人の視点で見ても、東京18時2発快速の後は、18時8発各駅停車、18時22分発各駅停車、18時38分発快速、18時41分発各駅停車と3~16分といびつだ。これは蘇我方面の各駅停車と快速または通勤快速の本数が1時1になるような運行にしていないのが悪いのであって、決して快速の存在のせいではない。
私鉄各線でこんなダイヤを組んでいる路線はどこにもない。このような一定のリズムで来ない
「不整脈ダイヤ」
というべき状況が混雑偏重の原因であって、各駅停車と快速系の両立を図る調整力不足を、顧客に不便を強いて埋め合わせようとしているのだ。
だいたい快速の混雑が激しければ快速を増やすのがスジだし、通勤快速の利用が少ないのは停車駅が少なすぎるからであり、千葉市長は蘇我より先の利用者だけでは通勤快速を維持するのに不十分ということであれば、美浜区民も乗せればいいということを念頭に、海浜幕張に追加停車することを提案している。そうすれば東京~海浜幕張間の各駅停車の混雑緩和にもなるだろう。
また、混雑平準化のためなら平日の朝夕だけ快速廃止ならまだわかるが、通勤需要の少ない土休日の朝夕も廃止とは論理が破綻しているのではないか。
京葉線(画像:写真AC)
私鉄では速達列車と各駅停車で乗客の遠近分離をうまくやっている路線は多数あり、例えば田園都市線ではむしろ夕ラッシュの急行を増やし、朝も都心寄りが各駅停車の準急を入れたが、郊外の区間は急行運転を据え置くなどして、混雑分散と郊外への速達サービスを両立させている。
そういうと、京葉線の場合は直通先の武蔵野線、内房線、外房線や、蘇我駅で接続する総武快速線直通の快速との調整などが煩雑だから他線区の事例をそのまま当てはめられないといった反論もあるかもしれない。
だが私鉄系では副都心線を介して東武、西武、東京メトロ、東急、相鉄といった、どの会社も自社線内や副都心線以外の直通先との調整など複雑な条件のなか、ダイヤのサイクルを30分単位にし、その30分のなかで急行は毎時何分に出す、各駅停車は毎時何分に出すといった具合に、決まったパターン通りの運行で混雑分散と郊外への速達サービスを両立させている。というより、決まったパターンやルールがないとかえって調整しづらいからこそそうしているともいえる。
そしてJR東日本のような大きなネットワークを持っている会社こそ、例えば首都圏全体を15分単位のサイクルでダイヤの中身を決めるといったパターンやルールを、トップが列車ダイヤの知識を付けた上で決めて周知するべきだ。
現にJR西日本の関西圏ではこれが実現している。会社が違ってもできることを、同じ会社線内で完結しているJRが京葉線と関連のある線区との調整が困難で各駅停車化しているとしたらおかしな話である。JR自ら
「うちは社内調整や統一ルールができない会社」
と宣伝しているようなものである。
京葉線沿線に住む交通評論家の佐藤信之氏は
「私鉄はもうけなきゃいけないのでサービスのいいダイヤにしようとするが、国鉄は安全に運べさえすればいいという発想で、JRになってもそれは変わらず、パターン化していないのは(輸送力の不足があれば)、既存のダイヤに改正の都度、既存列車の隙間に増発するという考え方。だから間隔がバラつきやすい」
という。
それとは別の問題として、JRの中期経営計画、コロナ禍での見直しで、要員の削減数を記載しており、いつまでに何人減らすといってしまっているので、それを実現するために支社ごとに目標実現を求めているのではないか、と佐藤氏は続ける。
私鉄は百貨店や不動産などの関連事業の収益力や集客力を高めるために鉄道サービスを頑張る傾向にある。JR東は私鉄をまねて関連事業に精を出しているが、それだけを頑張ればいいという勘違いをして猛進している。
京葉線は競争原理が働きにくい立地条件にある。並行する総武線も自社線、京成は競争力として論外であり、この状況にあぐらをかいているのではないか。
それでも黒字路線だからJRが京葉線を手放すこともない。こうなるとサービスレベルの低い運行を続けられる沿線住民は不幸だが、日本にはサービス向上に意欲がない鉄道事業者を市場から退場させ、
「意欲のある事業者に公共の線路を明け渡す仕組みがない」
ことが問題だ。
一方で海外には優良な事業者に運行事業の権限を与え、サービス向上に意欲がない運行事業者を市場から排除する仕組みがある。韓国高速鉄道や欧州のオープンアクセスなどがある。ただし海外の事例ではひとつの路線にかなりの数の事業者が列車単位で参入し、一般的な通勤電車でまねしようとすると運賃支払い上の利便性の低下や混乱を招く。
日本の都市鉄道でやるとしたら、入札で路線ごと、あるいは路線群単位(京葉線の場合なら内房線や外房線とセットにするなど)で運行事業者を決め、落札できた事業者に、例えば5年ごとの有期更新で第2種鉄道事業免許(線路を借りて運行)を与え、JRが落札できなかった場合は第3種鉄道事業(線路を保守して貸す)に徹する仕組みなら現実的ではないか。
こうすればJRはメンテナンス費用に一定の利潤を加えた分以上の収益しかJRは手にできず、運行事業者はその努力によってJR時代よりも大幅に利益を上げたとしてもJRはそれを手にできない。となれば、JRも危機感を持つのではないか。
京葉線の理想ダイヤ案。朝夕ラッシュ編(画像:北村幸太郎)
もし私鉄系事業者が運行事業権を獲得し、京葉線のダイヤを作ったらどうなるだろうか。こんな風になるだろうという想定時刻表の一例を作成した。
京葉線と武蔵野線それぞれを各駅停車10分おき、両線併せて4~6分おきとし、東京駅00、30分発を臨海副都心の通勤需要が高い新木場と、海浜幕張にも停車の特急、10、20、40、50分発を海浜幕張停車の通勤快速とした上で快速を廃止するといった具合に、形の整ったダイヤにして混雑のコントロールと速達サービスを両立させるだろう。
また、通勤快速の海浜幕張停車と各駅停車待ち合わせが実現すると、例えば東京駅から千葉市美浜区の稲毛海岸駅まで最速36分となり、現行の快速35分と遜色ない。
実はこのダイヤパターンは、平日のJR中央線下りの19時台などでJR自ら実践しているもので、これを参考にした。もっとも、中央線も私鉄に挟まれている線区ということもあり、私鉄に近いダイヤにしたのだろうが、若干の間隔のバラつきはあるのでそれを整えた形を京葉線に適用したものが筆者作成のダイヤ例である。
朝のラッシュ時も通勤快速のせいで千葉みなと~海浜幕張間で各駅停車の間隔が10分開くとの指摘も見られるが、これも特急・通勤快速(海浜幕張停車を前提として)と各駅停車を交互に運転する7分30秒サイクルのダイヤにすれば、増発なしでおおむね満足なものとなるだろう。
都市鉄道ダイヤに詳しい東京大学名誉教授の曽根悟氏は
「今回の京葉線に関しては、JR(関西圏を除く)に共通する快速運転に関する不勉強の現れで、2本の快速だけを復活させたのは、事務屋が決定権を持つ組織に特有の現象でしょう。反発を和らげることにはたけていて、本質を見ていない証拠です」
と語る。だが、ダイヤの本質的な議論ができていないのは要望する自治体にもいえることだ。自治体には道路の専門家がいても鉄道の専門家が不在なのがJRの横暴を許したのではないか。
筆者も交通工学を専攻とする学科の出身だが、学内では列車ダイヤの議論は「鉄道マニアの談義」とか、「マニアックだし誰も求めていない」という空気で、行政からもそのような分野の求人はない。このような列車ダイヤの専門家がいないと
・少しずつ減便が行われても不利益に気付かない ・列車接続で補えるのにやみくもに快速停車を叫ぶ要望を繰り返す ・路線全体を見渡してどのようなダイヤのあり方がいいかという本質的な議論や視点での鉄道事業者への要望ができない
ことにつながる。
路線全体をふかんした要望ができていない最たる例が神奈川県鉄道輸送力増強促進会議だ。同会議はかつて運行されていた東海道線の快速アクティについて、元々4駅しか通過駅がないのにもかかわらず、到達時間短縮を目的に辻堂、大磯、二宮、鴨宮の4駅とも停車要望を出すという、すべて実現したら各駅停車になる内容の要望を出していた。
せっかく県で取りまとめているというのに、各町から乱立する要望を丸写ししてまとめただけの要望書で、快速と普通列車の待ち合わせ(緩急接続)でカバーするなどの案は一切議論されていない内容であった。おそらく4駅とも要望を出せば“数打ちゃ当たる”論でどこかしら停車になるだろうくらいに思っていたのだろうか。
これを受けたJR東日本は下りのみ平塚での緩急接続の実施や、戸塚では湘南新宿ライン(東海道線内各駅停車)と同時入線の上接続とし、新宿方面については既存の特別快速と併せ、速達列車が毎時2本走っているのと同じ状態にまで改善した。
しかし上り線ではこのようなダイヤになっていなかったほか、湘南新宿ラインの特別快速と東海道線普通列車の戸塚接続は行われていなかったので、沿線自治体はここについて改善要望をするべきだったのに、なおも快速アクティと特別快速の通過駅の停車要望を継続。結局その後の改正で快速アクティは普通列車化され、通過駅の全自治体の要望はめでたく実現したわけだが、小田原市などからしたら面白くなかったに違いない。
こんなこともあるので、「列車ダイヤ分析の専門家」を養成し配置すべきではないか。あるいはエックス(旧ツイッター)では鉄道マニアと思われるアカウントが詳細で有用な分析を挙げているのも目にする。都市圏郊外の自治体は、時刻表に詳しい私鉄系の鉄道マニアを採用するだけでもだいぶ変わるはずだ。
北村幸太郎(鉄道ジャーナリスト)
|
![]() |