( 133510 )  2024/01/29 01:01:24  
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この記事は、フロッピーディスクが今まさに姿を消そうとしている様子をレポートしたものです。

記事では、デジタルデータの受け渡し方法が変化し、フロッピーディスクが時代遅れになっていると指摘されています。

記録媒体としての役割が終わりつつあるフロッピーディスクについて、各方面の声や意見が紹介されています。

特に、業務におけるフロッピーディスクの使用指定が2023年末に撤廃され、その対応や変化についても言及されています。

また、フロッピーディスクが安全性や使い慣れといった理由で一部でまだ使用されている一方で、デジタル化の進展により姿を消す準備が進められていることも述べられています。

(要約)

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フロッピーディスク 3.5インチ(イメージ、CTK/時事通信フォト) 

 

 仕事だったりプライベートだったり、記録を誰かに渡すとき、どんな手段をとるだろうか。かつては紙に、今なら、クラウドにデジタルデータとして残してリンクを送信する。その少し前によく利用され、多くの行政手続きの際に記録媒体として指定されてきたフロッピーディスクが、ようやく役目を終えようとしている。人々の生活と社会の変化を記録する作家の日野百草氏が、1970年代に登場、1980年代の普及期を経て、長らく記録媒体として重宝されてきたフロッピーディスクが現在まで使われてきた現場の声をレポートする。 

 

【写真】8インチフロッピーディスクドライブ 

 

 * * * 

「フロッピーってなんですか」 

 

 社会科の授業、この言葉をきっかけに、筆者は子どもたちにフロッピーディスクの現物を持って行った。もう親御さんのもとにもほとんどないのだろう。3.5インチの2DDと2HDに5インチ(2HD)、8インチ、さらに3インチ(筆者がシャープのパソコン、X-1Dに使っていたもの、他社でも一部採用されたがかなり特殊)に磁気ディスクの歴史、ということでクイックディスク(これもシャープのパソコン、MZ-1500用。のちファミコンのディスクシステムにも採用)とSRAMカード、それにMOディスクも持っていった。 

 

 専門誌ではないので個々の説明はともかく、いまではいずれも社会的には(業界および界隈、マニアはともかく)主流ではなくなった記憶媒体だ。現代の子どもたちの多くはフロッピーを見たこともない子もいれば、その存在すら知らない子もいる。 

 

 実機で読み込ませることはなかったので期待ほどには興味を示してもらえなかったが、2DDの記憶容量がおおよそ720KBという説明は一部の物知りや「親が持ってる」という子から笑ってもらえた。元のサイズや設定にもよるが、いまや1MBもないのでは現行のスマホで撮った素のデジタル写真1枚すら入らないかもしれない。 

 

 しかし、いまだにこの「フロッピーディスク」の使用指定をしてきた国の機関がある。例えば経済産業省である。デジタル庁ができてしばらく、令和の世になっても使用メディアとしてフロッピーディスクは指定されてきた。それが1月22日、「指定する規制等の見直し」として改正、ついに廃止となった。 

 

 

 筆者も数年前、有限責任事業組合の申請で面食らったことがある。もちろんCD-ROMで記録したものでもOKとのことだったが、いまだにフロッピーディスクも記録媒体として指定されていた。 

 

いまや、多くのパソコンにCDドライブどころかDVDドライブすら外付けで買わない限り付属しない時代、フロッピーディスクを読み込むフロッピードライブに至ってはまず付いていない。そもそもWindowsにしろmacにしろ、最新OSではフロッピーディスクを導入したとしても認識しないケース(あくまで一般的な使用事例として)がある。 

 

 そこで経産省はデジタル庁の掲げる「デジタル原則」に従う形で、2023年末をもってフロッピーディスクの使用指定を撤廃することとした。有限責任事業組合だけでなく商店街振興組合法や商工会法、商工会議所法、電気事業法、アルコール事業法など34の省令でフロッピーディスクによる申請や届出が廃止となった。経産省は「今後も技術の発展などに伴いアナログ規制の不断の見直しを行います」としている。 

 

 オンラインソフトウェアの販売を手掛けるIT企業のベテランスタッフ(40代)が語る。 

 

「まだフロッピーが使われている業界はありますね。とくに地方の役所や学校、医療関係でしょうか。もちろんどこも、若手は面食らってると思いますよ」 

 

 本稿、フロッピーディスクもフロッピーディスクドライブもひっくるめて「フロッピー」とするが、さまざまな理由でシステムを入れ替えられない、もしくは使い慣れているからと旧来のシステムをそのまま使う場合はある。筆者も仕事としては出版業界で1990年代まで親指シフト、DTPソフトは2010年前後までQuark(当時としても大変高価なDTPソフト)、2012年くらいまでMOディスクを併用していた。それぞれの説明は置くが、親指シフトは打ち慣れているから、Quarkは使い慣れているから、そしてMOは2000年代の大量の過去データが記録されていたから、であった。 

 

「フロッピーディスクもそういった理由があるとは思いますが、セキュリティとして有用だったという面もあるんです。だからまあ、それが免罪符でずっと使われてきたというか、FAXと同じですね」 

 

 確かに冒頭書いたように笑ってしまうような容量、その上の2HDでもおおよそ1.44MBである。すべてではないが、現行のウイルスのほとんどは入る隙すらないような容量だ。これがUSBなら5000円も出せば512GBのUSBメモリが買える時代(ノーブランド品や特売ならもっと安い)、しかしUSBメモリを経由したウイルス感染は後を絶たない。筆者は仕事で一般の高齢者からUSBメモリが渡されることがあるが、困ったことに多くはウイルス入りのことが多い(何をしているのか知らないが、本当に多い)。そう考えれば、確かにセキュリティ上の安全性は高いように思う。 

 

 しかし、FAXもそうだが安全だからといつまでもフロッピーディスクを使うわけにもいかない。それでも一部業界、界隈では細々と使われてきた、デジタル庁はこれを国として、まず省令に関することから国が率先して変えようとしている、ということか。 

 

「それはそうでしょう、安全とはいえフロッピーディスクドライブなんて新品のパソコン買ってもオプションで指定しなければついてこないし、業務用でもディスクドライブを廃止しているメーカーは多いです。そもそもフロッピーディスクそのものが高いし手に入りづらい、オンライン化を推進しているデジタル庁がフロッピーを指定なんて、さすがに見直すしかなかったのでしょう」 

 

 この「手に入りづらくなる」は重要なきっかけで、先の筆者の経験上なら親指シフトはWindowsの普及とワープロの衰退、当時は勤め人だったので編集部の共用パソコン(とくにDTP用のMac)を使う機会を考え個人的に決心した(いまでも親指シフト、細々と対応している業者はあるし、いまだに執筆に使っている小説家もいる)。またQuarkは業界全体でInDesignが主流となり、それに揃える形にしたこと、MOはフロッピーと同様に急激に新品のドライブそのものが手に入りづらくなったこと、その代替となる外付けハードディスクやUSBメモリが大容量かつ激安、高速になったことにある。 

 

 

 つまるところ個々人の問題とはいえ外的要因がなければ日々の業務、なかなか移行しようにもしづらい、あるいはしたくない、という事情もあるように思う。 

 

 ちなみにフロッピーに限った話ではないが記憶媒体も当然劣化するし、腐る(とくに5インチ)。保存環境にもよるが買い置きが全滅、という事態もありえる。それでも使い慣れたものから離れるのはなかなか踏ん切りがつかない人、あるいは組織もあるだろう。 

  

「親指シフトも入力が速かったから使ったわけですし、MOもMacのFireWire(接続ケーブル、USB2.0より速かった)が速かったからMOだったんですよね」 

 

 彼はパソコン誌の編集者だったこともある。界隈の話だが、出版業界ではこのMOディスクが2000年代まで入稿の主役であった。 

 

「MO、230MBとか640MBは当時としては使いやすい容量だったように思います。雑誌のページごとに入稿するにはちょうど良かった。音楽関係や建築関係(CADなど)でMOを使っていたのもそういう理由でしょう。フロッピーもテキストだけ入稿するのにちょうど良かった。でも、いまやクラウドに上げるだけですからね」 

 

 1990年代初頭はフロッピー1枚のためにバイク便を頼んで印刷所まで走ってもらったことがあった。パソコン通信(インターネットではない)の環境のないライターの自宅の最寄り駅までフロッピー1枚を取りに行ったこともあった。 

 

 およそ30年前の話だが、そう考えればフロッピー、信頼性のある息の長いメディアだったと思う。思えば普及し始めた1980年代、データレコーダというカセットテープにデータを記録する装置で何十分も待ってパソコンゲームをしていたのがフロッピーによって数秒でゲームができるようになった、その感動の思い出だけが残ったということか。 

 

「ファミコンみたいな瞬時にデータを読んでくれるROMカートリッジもありましたけど、世代的にはパソコンゲームは「大人のゲーム」って感じでしたよね。それがフロッピーだと瞬時にできるって、すごく高価でしたけど、感動でしたね」 

 

 世代によってさまざまだろうが、記録媒体とはそういった思い出の記録であったようにも思う。もっとも、実務や生活だともはや厳しいというか、こうして社会的に退場を迫られてしまうのだろう。 

 

 海外でも数年前まで核ミサイル施設で8インチのフロッピーが使われていたとか、旧型の旅客機に3.5インチフロッピーが使われていたとか話題になったが、それも退役含め、徐々に改められてきた。 

 

 

 実際、フロッピーを使われて困る例もある。九州のある小さな個人の写真館についての話。 

 

「証明写真を撮ってもらったんですけどフロッピーで渡されたんです。なんですかこれ、って言ったら「うちはずっとこれで渡してるって」。もちろん現像写真はいただきましたけど、データはフロッピーでした」 

 

 話の主は20代の女性なので面食らったに違いない。店主は「うちはフロッピーしかない」だったとのこと。実際、官公庁や金融機関、医療福祉関係などが脱フロッピーできなかったのは「相手に合わせる」もしくは個人店主の一部のような「自分がそれしか使ってこなかったし、変える気も必要もない」という面もあったように思う。学校関係がいまだにFAXを使っているのと同様だろうか。 

 

 文部科学省の調査によれば業務にFAXを使用している学校は9割に及ぶ(2023年)。FAXの相手は保護者だけでなく民間事業者がもっとも多い70%ということで、学校指定のいわゆる「地元の制服屋さん」「地元の文具屋さん」的な、古くからの地元の指定業者や出入り業者が占める。確かに田舎のそうした店の多くは高齢者やその家族、そのまま継いだ方々で、昔からの方式でも何の問題もない、で来てしまっているのだろう。 

 

 しかし、近年は世代の問題ではないと、クラウド型業務システムなどを手掛ける企業のIT関係者(50代)はこう語る。 

 

「パソコンについてくのがやっととか、パソコンなんか使わないって感じの団塊世代(現在の70代後半)から上がほぼ現場の第一線から引退して、いまや60代すらパソコン第1世代ですからね。年寄りはパソコンができない、なんて過去の話になりつつあります」 

 

 例えば、高橋名人が64歳と考えれば確かにそうだ。むしろいまの60代技術者や趣味人が日本のホビーも含めたパソコン産業の礎を築き上げたと言っても過言ではない。 

 

「彼ら60代は20代でホビーパソコンに触れて、30代でWindowsに移行して、40代でIT全盛期、50代でスマホですから、「高齢者はパソコンが使えない」も、それこそ古い価値観のように思います。実際私の会社も経営陣は60前後とかで、それこそ「マイコン」世代ですから。パソコンが当たり前の時代の高齢者、の時代になりつつあります」 

 

 いつまでも「高齢者はパソコンが苦手だろ」という思い込みもまた「エイジズム」だろうか。思えば1980年代のホビーパソコン(いわゆる「マイコン」)およびビジネスパソコン普及期はともかく、Windows95を35歳の働き盛りで迎えた方々すら、彼の言う通り現在60代。もちろんパソコンが苦手という人もあるだろうが、それは世代の問題ではなく個人の問題だろう。 

 

「むしろ20代から下の若い世代のほうがパソコンを使えない、なんて人が多いようにも思いますよ。日常生活に限ればスマホやタブレットで済んでしまいますからね。デスクトップパソコンなんて業務や高度なゲームを除けば、それこそ人によっては触れずに済む時代ですから」 

 

 

 
 

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