( 134346 )  2024/01/31 13:25:30  
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萩生田光一氏(左)と当選確実の候補者名に花を付ける岸田文雄首相(自民党総裁)=2021年10月31日の午後、東京・永田町の同党本部 Photo:JIJI 

 

 世間を揺るがす「自民党派閥の政治資金パーティー問題」をはじめ、日本では「政治とカネ」を巡る問題が後を絶たない。筆者の見立てでは、その理由は「地元での集票活動」にカネがかかりすぎることである。悪癖を断ち切るためにも、日本の政治家は全員が「落下傘候補」となり、「地縁・血縁なき選挙区」から立候補すべきだという大胆な説を提唱したい。(立命館大学政策科学部教授 上久保誠人) 

 

● 「パー券問題」は果たして 政治家だけの責任なのか 

 

 自民党内の派閥における「政治資金パーティー問題」が新たな展開を迎えている。 

 

 1月19日には、東京地検特捜部が安倍派・二階派の会計責任者を政治資金規正法違反(虚偽記載)の罪で在宅起訴。岸田派の元会計責任者も略式起訴した。 

 

 これを踏まえ、自民党の「政治刷新本部」が1月25日に「中間とりまとめ」を決定。「派閥による政治資金パーティーの禁止」など、政治資金の透明性を高めるルールを盛り込んだ。 

 

 ただし、原案に含まれていた「政策集団の事務所閉鎖」に関する文言は、最終的には削除された(参考:TBS NEWS DIG)。「派閥解消」を明言せず、逃げ道を残した自民党には、国民から厳しい目が向けられている。 

 

 各派閥の対応を見てみると、岸田文雄首相は自ら率いてきた岸田派の解散を既に表明済みだ。最大派閥・安倍派と二階派も解散する方針を固めた。 

 

 一方、「パー券問題」とは直接関係がない森山派は解散を決めたものの、森山裕総務会長は新たな政策集団を立ち上げる考えを示した。茂木派も政策集団への移行を検討している。麻生派は派閥を存続する方針だ。 

 

 いわば、派閥の先行きは会長の判断に委ねられている状況である。このことについて不信感を持っている国民も多いだろう。しかし筆者の見立てでは、今回のような「政治とカネ」の問題は、実は「政治家だけ」が悪いわけではない。国民にも責任の一端がある。 

 

 選挙でそうした政治家を選んだのは、われわれ国民なのだから。 

 

 

● 「政治家の利益誘導」に屈する 国民にも問題アリ 

 

 そもそも「政治資金パーティー」とは、政治資金を集める目的で、会費を徴収して開催される宴会だ。政党は会費を集めるために、さまざまな一般企業や団体に接触する。各企業・団体のメンバーは、自民党からの見返りを期待して券を購入し、パーティーに参加する。 

 

 そうして政党との関係を強固にした企業・団体は、選挙の際に大挙して票を投じるようになる。いわば、選挙で票を集める「集票マシーン」と化すわけだ。パーティーの他にも、企業・団体の会合に政治家が出向いてあいさつをするなど、集票マシーンを作る方法はさまざまだ。 

 

 自民党にとっての集票マシーンの一つが、故・安倍晋三元首相の銃撃事件を機に問題視された旧統一教会だった(本連載第309回)。票を得るためならば、反社会的な宗教団体とも関わるのが政治家の実態なのである。 

 

 日本の政治家は、選挙で票を得るためならば、誰の所にでも、どんな団体にでも訪ねていく。どんなことでもする。勝つためなら何でもありだ。この「利益誘導」に屈して、資質に問題のある政治家に一票を投じる国民は確かに存在する。 

 

 筆者はかねて、こうした「何でもあり」の選挙の在り方を「日本型どぶ板選挙」と呼んで批判してきた。「どぶ板選挙」が行われている背景には、選挙制度改革前の日本で長年採用されていた「中選挙区制」がある。 

 

 簡単に説明すると、中選挙区制とは1つの選挙区で3~5人が当選する制度である。各党は落選者が出る事態に備えつつ、より多くの議席を獲得するために、複数名の候補者を立てることが可能だった。かつての自民党は、同じ選挙区に原則2人の候補者を立てており、他党の候補者に加えて党内でも競い合っていた。 

 

 その結果、政策に違いのない自民党候補たちが“同士討ち”を行うことになった。勝敗を分けるカギとなったのが利益誘導の多さだった。 

 

 各候補は“同士討ち”に勝利すべく、地元での活動に躍起になった。具体的には、個人後援会、支援団体、その他各種団体、地方自治体、地方議会議員などとの連絡や要望等の吸い上げ、中央官庁への陳情の媒介、冠婚葬祭への出席などであった。 

 

 地元だけでなく、議員の東京事務所でも、有権者向けの国会見学や東京見物などのツアーコンダクターのようなこともしていた。経費の大部分がそれらに費やされ、金額的負担も莫大であった。 

 

 

 議員たちは、これらの利益誘導のための政治資金を確保するために散々苦労していた。その結果、さまざまな「政治とカネ」の問題が起こってきたのだ。 

 

 それだけでなく、中選挙区制には別の弊害もあった。1つの選挙区に複数候補を擁立できることから、大規模政党である自民党が単独過半数を容易に獲得できるようになり、政権交代が極めて起こりにくくなったのだ。 

 

 その結果、政治の緊張感が失われ、議会運営の硬直化を招いた。自民党内では公然と派閥が結成され、時として対立する動きが過熱していった。 

 

 ただその後、90年代前半に入ると、選挙制度改革(小選挙区比例代表並立制の導入)や政治資金制度改革がなされ、選挙は利益誘導よりも政策を競うものに変化した(本連載の前身『政局LIVEアナリティクス』の第27回)。故・田中角栄元首相のように、強烈なカリスマ性と権力を持つ一方で、裏金を巡る大問題を引き起こす“巨悪”も現れなくなった。 

 

● 選挙制度を改革しても 「政治とカネ」の問題が続く理由 

 

 だがそれでも、政治資金規正法違反が起こり続けたのは周知の通りだ。整備されたはずのルールの「抜け道」を探し、裏金作りが横行した。閣僚の辞任も常態化した。挙げ句の果てに、今回の「パー券問題」まで発生した。 

 

 制度改革を行ったにもかかわらず「政治とカネ」の問題が続くのはなぜか。 

 

 海外に目を向け、選挙制度改革のモデルとなった英国との「スキャンダルの起こり方」の差異を読み解くと、いくつかの原因が見えてくる。 

 

 2009年に英国で起こった「下院議員経費スキャンダル」は、地元を離れて首都ロンドンに宿泊する議員が宿泊料を経費として請求できる制度(当時)を悪用したものだった。 

 

 英国の議員たちはこの制度を駆使し、高級家具の購入、田舎の大邸宅の堀の清掃、鴨小屋の設置、クリスマスツリーの電飾代、ガーデニング費用、ポルノビデオのレンタル料金などに経費を流用。結局、閣僚を含む労働党88人、保守党71人、自民党10人、その他政党4人の議員の関与が明らかになった(第28回)。 

 

 この事件で注目すべき点は、主に三つある。一つ目は、この問題が「議会のあるロンドンで使われる経費」に関して起こったということ。二つ目は、政治資金ではなく「私的な生活費・雑費」に経費が流用されたことである。三つ目は、流用の目的が「生活費・雑費の補填」であり、日本と比べて金額の規模が微々たるもので済んだことだ。 

 

 

● 政治家は、選挙で落ちたら タダの人 

 

 一方の日本では、国会議員の活動の多くは地元で行われる。先述した「集票マシーン」も、各議員の地元で作られることが多い。「地元対応のための政治資金」は巨額となり、捻出するために議員が奔走している。選挙制度改革後も、地元の支持者が投票と引き換えに、政治家にさまざまな便宜を図ってもらう構図は色濃く残っている。 

 

 良くも悪くも、これらが英国との違いである。英国の肩を持つつもりはないが、日本で「政治とカネ」の問題が後を絶たず、かつ大規模化しやすい要因はここに集約されるのではないか。 

 

 だが、日本における90年代の選挙制度改革では「議員の地元活動」については一切是正されなかった。それどころか、小選挙区制によって選挙区が小さくなったことで、議員と地元の関係はより密になった。その状況下で政治資金規正法が改正されたことで、選挙基盤の弱い国会議員は資金集めがより難しくなった。 

 

 特に非世襲や若手の議員は、政治資金のやりくりに苦しんでいたはずだ。だからこそ、派閥や地元の指示に従い、抜け道を探して裏金を受け取るなどの行為に走らざるを得なくなったといえる。 

 

 なぜ地元活動は是正されなかったかというと、「政治家は、選挙で落ちたらタダの人」だからだ。政治家が急に「国会の活動を優先する」「これまで便宜を図ってきたことをやめる」と言い出して、地元の支持層との関係性を弱めようとすると、地元の猛反発を受けかねない。集票力が一気に弱まることが懸念される。 

 

 だからこそ政治家は、この構図に問題があると痛感しつつも指摘しづらかったのだろう。政治に関心がなく、実態を知らない国民も一定数存在するため、世論が「議員の地元活動」を疑問視することもなかった。筆者が先ほど「国民にも責任の一端がある」と述べた理由はここにもある。 

 

 スキャンダルが起こる度に、国民が議員個人を徹底的にバッシングし、議員が辞任したら「撃ち方やめ」を繰り返すだけでは、本質的な問題は解決しないのだ。どうすれば政治家が地元活動に頼らず、カネのかからない政治ができるのか、国民の側も考えなければならない。 

 

 もし今後、「パー券問題」に対する国民の批判が激化し、仮に自民党の全派閥が解散を余儀なくされたとしても、地元活動にカネがかかる構図は変わらない。この構図がなくならない限り、たとえ新たな政治資金規正法ができたとしても、政治家は抜け道を探し続けるだろう。 

 

 

 
 

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