( 134441 )  2024/01/31 15:07:49  
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2023年は互いの国を行き来し合う「シャトル外交」を復活したが…(EPA=時事) 

 

 韓国で、いわゆる「元徴用工」をめぐり日本企業に賠償を命じる大法院(最高裁)判決が相次いでいる。1月25日には、元勤労女子挺身隊員らが「強制労働させられた」として日本の機械メーカー「不二越」に損害賠償を求めていた裁判の最高裁判決が下され、原告らに計21億ウォン(約2億3000万円)の支払いを命じる判決が確定。最高裁による判決はこれまで12件あり、いずれも日本企業側が敗訴している。1965年の日韓請求権協定で元徴用工らに対する賠償は解決済みとしてきた日本政府の立場と相容れない状況が生まれつつある。 

 

【写真】元徴用工裁判の確定判決が相次ぐ韓国・大法院 

 

 また、昨年末、韓国大法院は、元徴用工の訴訟で日立造船に賠償金5000万ウォン(約550万円)の支払いを命じる判決を下した。同社は1審、2審でも敗訴していたので、強制執行を避けるために裁判所に6000万ウォン(約660万円)を供託していたが、この1月24日、原告側弁護士は供託金の差し押さえが認められたと発表。これを受け、日本の新聞やテレビは「供託金が差し押さえられれば、日本企業に初めて“実害”が及ぶ」と報じた。 

 

 2022年5月に韓国で尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権が誕生して以来、岸田文雄首相と会談を重ね、そのたびに友好ムードが伝えられてきた。凍り付いていた日韓関係は雪解けの時期を迎えたと思われていただけに、これら一連のニュースで、冷や水を浴びせられたように感じた人は多いかもしれない。 

 

 ただ、これまでの元徴用工訴訟でも、韓国の裁判所は原告側の主張を認めてきたので、今回の判決もそれを踏襲しただけとも言える。韓国社会に詳しい作家の崔碩栄氏はこう語る。 

 

「今回の韓国大法院の判決は、1審、2審の判決を確認しただけなので、韓国世論では特に驚きも反発もなく受け取られている。むしろ、逆の判決が出ていたら、大きな話題になっていたでしょう」 

 

 過去の判例から考えれば、こうした判決が出るのは当然とも言える。そもそも尹政権は2023年3月に、元徴用工訴訟について、「韓国政府傘下の『日帝強制動員被害者支援財団』が肩代わりして、原告に賠償金を支給する」「係争中の訴訟についても、原告の勝訴が確定した場合は、財団が支給する」といった解決策を提示している。 

 

 

 しかも韓国内では特にこの件について注目されていないという。 

 

「今回の判決に対して、韓国世論は反応があまりにも静かです。野党が政権批判の材料として使う様子もなく、与党が“成果”として宣伝する様子もない。今、韓国では、城南市長時代の汚職で起訴された前回大統領選の候補者・李在明(イ・ジェミョン)の裁判や、大統領夫人・金建希(キム・ゴンヒ)のブランドバッグ授受疑惑、今年4月の総選挙に向けた与野党の公認候補選出など、国内問題が山積し、それどころではないとも言えます」(崔氏) 

 

 では、元徴用工問題は、尹政権の「解決策」が実行されることにより、収束に向かっていくのか。元朝日新聞ソウル特派員でジャーナリストの前川恵司氏はこう語る。 

 

「河野談話にしても日韓合意にしても、韓国はちゃぶ台返しを繰り返してきました。尹大統領がなぜ、元徴用工への賠償を韓国が肩代わりするまでに譲歩したかというと、韓国は米中対立の余波で、中国への半導体輸出が激減していて、経済的に窮地に立たされていたからです。 

 

 安倍政権時代に、(半導体製造に使われる)フッ化水素輸出の優遇措置を撤廃されたり、日韓スワップ協定(金融危機の際に通貨を融通し合う通貨交換協定)を拒否された影響も大きい。だから、これら制裁措置を撤廃させたいというのが、理由の一つ。もう一つは、京畿道南部の平沢市から龍仁市にかけて大規模な半導体工業団地を建設する計画で、そこに日本の素材メーカーを誘致することを望んでいるからです」 

 

 実際に日本側は、元徴用工訴訟の解決策の提示を受けて、フッ化水素輸出の優遇措置は2023年7月に再開し、同12月、日韓スワップ協定も8年ぶりに再開した。ここまでは尹大統領の望んだ通りに進んでいる。 

 

「尹氏はもともと親日でも知日でもなく、単純に利害で動く人だと見るべき。だから、日本から経済的利益を得たうえで、自身が絶体絶命の窮地に追われれば、李明博や朴槿恵のように人気取りのために反日に転向して、ちゃぶ台返しをする可能性は十分にあります」(前川氏) 

 

 日韓関係においては、歴史が繰り返される可能性は十分にある。 

 

取材・文/清水典之(フリーライター) 

 

 

 
 

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