( 135262 ) 2024/02/02 23:38:59 0 00 tamayura39 - stock.adobe.com
楽天の凋落が止まらない。 2023年1月から9月期の決算は5期連続の赤字、肝いりでスタートしたモバイル事業も黒字化にはほど遠い状況だ。そして投資家の大きな懸念材料となっている約9000億円の事実上の借金の償還が2025年までに続々と訪れる。
一部メディアでは、楽天グループ(以下、楽天)解体の可能性すらささやかれているが、その引導を渡すことになるかもしれない企業がある。
楽天のライバルと言えばAmazonというイメージが強いかもしれないが、2024年に楽天をさらなる業績悪化に追い込むかもしれないのは意外な企業だ。
その企業の正体はYahoo!(ソフトバンクグループのひとつ)で、より具体的に言うならば、Yahoo!が展開しているサービスのひとつである「Yahoo!ショッピング」だ。
筆者(田中謙伍)はAmazon日本法人に新卒入社し、現在はAmazonで商品を出品する企業のコンサルティング会社を経営している。本稿では、EC業界に長く身をおいてきた立場として、なぜYahoo!ショッピングが楽天の本丸である楽天市場のシェアを奪う可能性が高いのかを解説していこう。
現在ではさまざまなサービスを展開している楽天であるが、はじまりは1997年スタートの楽天市場である。
楽天にとっては原点であり、全てのサービスの土台にあるのが楽天市場だ。しかし、今後Yahoo!ショッピングによって危機に追い込まれるかもしれない。
「楽天の息の根を止めるのがYahoo!ショッピング」と言われているのを聞いて意外に思う人もいるだろう。
ただ、あくまで現状では楽天市場の方がYahoo!ショッピングよりも分がよい。流通規模も楽天市場は3兆円を越える規模であるのに対して、2023年のYahoo!ショッピングは1兆円弱の規模と言われており、2倍以上の差をつけている。
むしろYahoo!ショッピングの方が業績は深刻で、筆者が事業支援するメーカーもYahoo!ショッピングでは苦戦している。2021年、2022年のコロナ禍でのEC特需、PayPayバラ撒きなどで盛り上がったが、2023年は売上成長率の昨年対比率はほとんどの店舗がマイナスだった。
しかし、Yahoo!ショッピングを運営するソフトバンクグループ(以下、ソフトバンク)にとって、低調は想定内だと筆者は考える。
近年ソフトバンクはQRコード決済サービスのPayPayに自社のリソースをかなり投下していた。それを裏付けるように、Yahoo!ショッピングではここ3~4年ほどは機能改善、デザイン改善は行われていない。
逆に目立った動きといえば、PayPay関連の新規事業だ。
2021年10月に、Yahoo!ショッピングでのストア評価や商品レビューなどを基準に、ソフトバンクのYahoo株式会社(現在のLINEヤフー株式会社)が定める優良店のみが出店するショッピングモール「PayPayモール」を展開していた(2023年10月にYahoo!ショッピングと統合)。
つまり、2021年からの2年間、ソフトバンクはPayPayとPayPayモールの拡大に集中しており、Yahoo!ショッピングの機能開発などはその間ストップしていたのだと考えられる。
このソフトバンクの動きは、楽天が楽天市場の多くの社員を楽天モバイルに転籍させたり、新卒社員をほぼモバイル部門に配属した姿と重なる。
すでに成熟し安定した収益をあげているYahoo!ショッピングの優先度を下げてでも、ソフトバンクはQRコード決済にヒト・モノ・カネのリソースを集中投下していたと言われている。
今では世に浸透したQRコード決済だが、以前はキャッシュレス決済と言えばクレジットカードが主流だった。そして、そこで圧倒的王者だったのが楽天カードマンでおなじみの楽天だった。
そんな金融部門で楽天が優越していた状況に対し、ソフトバンクは、クレジットカードからQRコード決済へと、決済のスタンダードを変える戦争を起こしたのだ(正確に言えば市場を拡大した)。
なぜソフトバンクは、ここまで決済戦争で勝つことにこだわっているのか。
それはECと決済の両者の競争を制することが自社のシェアを伸ばすことにつながるからだ。かつて楽天は、楽天市場と楽天カードの両者を伸ばすことで自社の規模を拡大してきた。これが楽天経済圏の始まりである。
この「EC✕決済」の経済圏を今度はソフトバンクが制しにかかっているのである。具体的には国内のキャッシュレス決済をクレジットカードからQRコードに移行させることで、これまでのシェアの均衡をソフトバンクは崩しにかかったのである。
移行が生じたことによって、現在、楽天の中では好調だった楽天カードも業績が危くなり、楽天市場もその影響を受けて成長が鈍化し、楽天経済圏そのものが危ういという状況に陥っている。
現在、QRコード決済におけるPayPayのシェアは39%であるが、ソフトバンクの資金力を考えれば今後さらにそのシェアを拡大する可能性が高い。
Yahoo!ショッピングを含むネットショッピングもPayPay経済圏に新たに組み込み、かつての楽天と同様にポイント還元率を高めるポイントばらまきを行えば、楽天市場からYahoo!ショッピングを利用するひとは増加するだろう。
では、ソフトバンクは一体何を目指そうとしているのか。それは楽天経済圏のように「EC✕決済」で自社のシェアを伸ばすことではなく、それを遥かに凌駕する計画の実現である。
それが、PayPayの「スーパーアプリ」化である。スーパーアプリとは、簡単に言えば一つのサービスだけでなく、なんでもできるアプリのことで、これはアジア圏においてよく見られる形態だ。
たとえば、中国のWeChatはオンライン通話、オンラインショッピング、支払い、送金、タクシーの予約、チケット予約、税金の申請、オンライン診察、健康状態の証明など一つのアプリで複数のサービスが展開されている。
ほかにはマレーシアで生まれたGrabも、現在では配送・フードデリバリー・金融サービス・旅行予約・オンライン医療などの機能を有しており、マレーシアにとどまらず、インドネシア、シンガポールなど東南アジアにおける生活・ビジネスのインフラアプリとなっている。
では、ソフトバンクはどうか。
ソフトバンクは現在PayPay、Yahoo!ショッピング、出前館、Yahoo!トラベル、一休とそれぞれが分断されているものの、決済、EC、フードデリバリー、旅行予約など複数の機能を一つのアプリに集約すれば、今後スーパーアプリになるポテンシャルを秘めている。
このスーパーアプリ化により、ユーザーIDをデータ統合できるため、北海道で一休を使って高級ホテルに長期滞在をしている人は、ふるさと納税で高級な海鮮物を購入しがちである、よってこんなマーケティング施策を打とう、といったユーザーのデータを一元管理することによるメリットを享受できるようになる。
各サービスのユーザーIDの統合、それによる正確かつ細かいマーケティング施策。すなわちPayPayのスーパーアプリ化。これが次にソフトバンクが目指す姿である。
対する楽天も、策を講じてきた。
楽天市場、楽天カード、楽天モバイルなどEC、決済、通信など複数の事業を展開しており、単なる「EC✕決済」のシェアを大きくするだけはなく、楽天経済圏を作ろうとしてきた。
だが、現状ではさらなる野望であるスーパーアプリ化を巡っては、ソフトバンクがやや有利な状況である。
今後は、ソフトバンクであるLINE・Yahoo!・PayPayが連携した「LYP連合軍」による攻勢もはじまるからだ。
Yahoo!は2021年にLINEと経営統合、2023年に再編してLINEヤフー株式会社が誕生した。その結果、Yahoo!ショッピングではこれまでよりもモバイル事業と関係を密にしたサービスを展開していくことが予想される。
具体的には、LYP連合軍による経済圏によって共通してポイントを使用できるようなマイレージクラブを整備する可能性が高い。加えてLYP経済圏が保有するビッグデータを活用し、Yahoo!ショッピングの機能改善が抜本的に進んでいくだろう。
そしてここから楽天市場との真っ向勝負が始まる。Yahoo!ショッピングが本腰を入れてサービスの改善をはじめると、いよいよ楽天は土台から危うくなる。
では楽天はどのような戦略が考えられるだろうか、この答えは実は簡単だ。既存の顧客、特に長年楽天市場を愛用しているロイヤル顧客を大事にすることである。けれども、直近の動きを見る限りでは楽天の向かっている方向性は別のようだ。
言うまでもなく、楽天の強みは、楽天経済圏で共通して使用可能な楽天ポイントだ。ときにポイントのばらまきと揶揄されるほどに、ユーザーは楽天ポイントの恩恵を受けることができていた。
しかし、ここにきてモバイル事業への投資が響いているのだろう、自社都合でポイント改悪が続いている。
これまでに楽天が実施していたような手厚いポイントのサービスや出品者へのキャンペーンをソフトバンクが展開する可能性は高い。一方の楽天は改悪が続いている状況だ。ここにメスを入れなければ、ソフトバンクが楽天のパイを一気に奪うのは時間の問題になる。
「PayPayポイントのほうが貯まりやすいし、そっちのほうがお得じゃない?」と楽天経済圏のロイヤルカスタマーに思われた途端に、雪崩のようにソフトバンクに急激にシェアが奪われてしまうのである。
「楽天市場でモノを買う」という行為が、ポイント還元率以外にメリットを提供できなければ言葉通り「お金だけの関係だった」となってしまう。
|
![]() |