( 135302 ) 2024/02/03 00:13:46 0 00 (※写真はイメージです/PIXTA)
日本の人口減少は長らく大きな課題になっていますが、このペースで人口が減り続けた場合のリスクは想像以上に深刻です。本記事では、『松本大の資本市場立国論』(東洋経済新報社)から、著者の松本大氏が人口減少に危機感を持つべき理由を解説します。
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人口が減少し続ける限り、日本にとっていいことはひとつもありません。
仮にこのまま日本の人口が減り続けたとしたら、どうなるでしょうか。少し想像力を働かせて、考えてみましょう。
国立社会保障・人口問題研究所が発表している、日本の将来推計人口は、2022年が1億2494万人ですが、年々減少傾向をたどり、2056年には1億人を割り込み、9965万人まで減少します。さらにその先、2070年の日本の総人口は、8700万人です。
GDPの3分の2は個人消費ですから、人口減少はそのままGDPの縮小へとつながります。人口減少が止まらない国でGDPを伸ばすのは、極めて難しいのです。
いまはまだ世界第3位という経済規模なので、一応、日本は経済大国のひとつとして、それなりのプレゼンスを持っています。でも、将来的にGDPが減り続け、世界第10位、第20位などというようにランクダウンしていったら、果たしてどうなるでしょうか。
国際社会における日本のプレゼンスはさらに低下し、誰も日本の言うことに耳を貸さなくなってしまいます。
これは地政学的に考えると、日本にとって非常に高いリスクにつながります。
欧州自由主義国家のなかで、ロシアと約1300キロメートルもの長い陸上国境を持つフィンランドや、フィンランドのお隣の国であるスウェーデンは、2022年2月に勃発したロシアによるウクライナ侵攻によって、同国の領土拡大に対する危機感を募らせ、西側資本主義国家の軍事同盟であるNATO(北大西洋条約機構)への加盟を申請しました。
特にロシアと長い陸上国境を持つフィンランドの危機感は、相当のものと想像されますが、彼らの恵まれている点は、自分たちの近くに同じ政治思想を持つ国々がいるということです。
一方、日本はどうでしょうか。日本は四方を海に囲まれているため、隣国と陸上国境を持つ国々に比べ、地政学リスクに対する意識が希薄かと思われますが、極めて至近距離にロシア、中国という独裁国家がいて、さらにときどき日本海に向けてミサイルを撃ち込んでくるような、ならず者国家も存在しています。
ロシアと中国は、昔の帝国時代に近い発想で、物理的な領土の拡大に熱心であるのと同時に、すでに日本の北ではロシアとの間で北方領土、南では中国との間で尖閣諸島の実効支配をめぐる問題を抱えています。ロシアが少し手を伸ばせば北海道、同様に中国なら沖縄に手が届きます。
そういう極めて怖い状況のもとでわたしたちは生活しているわけですが、もし、このまま日本の経済力が低下し続け、国際社会でのプレゼンスが失われると、有事に巻き込まれたとき、十分な軍事的サポートが期待できなくなる恐れがあります。
やはり、同じ資本主義・自由主義国家の間で、「日本がなくなったら困る」と思わせておけるだけの経済力は維持しなければなりません。
人口減少に伴う日本の経済力低下は、わたしたちの身近な生活にも、さまざまな悪影響を及ぼします。
まず、円安が進むでしょう。2022年10月に一時的に1ドル=151円という円安局面があった後、2023年1月にかけて円高へと転じましたが、6月末にかけて再び円安が加速しています。
ひょっとしたら、10年後、20年後には1ドル=200円という、超円安時代が到来しているかも知れません。
ここまで円安が進むと、日本企業のドル建ての時価総額が大幅に目減りするため、外国企業から見ると、とても買収しやすくなります。
日本企業が外国企業に買収されたら、日本の優れた技術が海外に流出してしまいます。ますます日本企業の国際的な競争優位性が劣後して、日本企業の没落に歯止めがかからなくなります。
それは、日本企業で働いている大勢の人たちの生活水準の低下につながります。
しかも円安ですから、日本が海外から輸入している資源・エネルギー、原材料、食糧などの円建て価格が大きく上昇します。給与が下がる一方で物価水準が上がったら、わたしたちの生活水準は大幅に低下します。
そうなると、今度は人心の荒廃が始まります。
日本人は世界のなかでも、比較的品位があって、自分の欲求を前面に出すことなく、人に譲ることのできる人が多いという印象を受けますが、これは日本が戦後、経済が成長して豊かな時代を過ごしてきたからです。
経済的な豊かさが高じると、ゆとりが生まれます。そのなかから芸術や文化も生まれていきます。
それが逆にどんどん失われるような状態になると、恐らくモラルすらもどんどん失われていくでしょう。街にはゴミがあふれ、国全体がスラム化するなんてことも、十分に考えられます。
どうでしょう。少しは危機感を持っていただけたでしょうか。
人口の大幅な減少は、一国を亡ぼす恐れすらあるのです。だからこそ、何が何でも人口減少に歯止めをかけなければなりません。
そのために、さまざまな施策を講じる必要があるのですが、実際に人口減少に歯止めがかかったとしても、そのときに生まれた子供たちが大人になって、実際に経済活動に参加するようになるには、20年の歳月を要します。
だからこそ、この20年の間に何をするかによって、日本経済の明暗がはっきり分かれてくるのです。まさに、これからの20年は、日本経済にとって勝負の期間といってもいいでしょう。
※書籍の『松本大の資本市場立国論』は、すべての漢字にルビ(読み仮名)が振ってあります。著者の松本大氏が、専門用語の漢字が多く、経済の本を読むことを敬遠していた人にこそ、この本を手にとって欲しいと思っているためです。ルビを振ることで、意味がわからない言葉や専門用語をスマートフォンの音声検索で調べることもできます。漢字にルビを振るという小さなことで、読者が広がり、日本がよくなることへの願いが込められています。
松本 大
マネックスグループ会長
※本記事は『松本大の資本市場立国論』(東洋経済新報社)の一部を抜粋し、THE GOLD ONLINE編集部が本文を一部改変しております。
松本 大
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