( 135454 )  2024/02/03 14:03:19  
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EVのイメージ(画像:写真AC) 

 

 ライフサイクルアセスメント(LCA)は、製品が製造されてから廃棄されるまで、その製品が外部環境に与える影響を評価する方法である。 

 

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 これまで、バッテリー電気自動車(BEV)に対する社会一般の評価は、温室効果ガス排出削減という点で環境性能が高いというものだった。これは、BEVが内燃機関車(ICEV)のように走行時に排ガスを出さないことを考えれば、当然の結論だった。 

 

 しかし一方で、LCAに加えたらどうなるだろうか。BEVにとって、LCAは果たしてどのような意味を持つのだろうか。これは、BEVに関心を持つすべての人にとって重要な問いだった。 

 

 BEVが製品として広く流通してから10年以上が経過したが、この点に関する詳細な議論はほとんど行われていない。研究者レベルでの議論は見られるが、消費者レベルでの議論はほとんど見られない。なぜなら、BEVにとってLCAはリスクが高く、ネガティブなイメージに直結しかねないからである。 

 

 そんななか、ミシガン大学とフォードが2022年、共同で興味深い研究を行った。ICEV、ハイブリッド車(HEV)、BEVの製造段階から使用、廃棄に至るまでの温室効果ガス排出量を包括的に評価したLCAリポートである。 

 

温室効果ガスの累積排出量と走行距離の比較(画像:ミシガン大学、フォード) 

 

 リポートによると、製造段階での温室効果ガス排出量については、ICEVとHEVの環境負荷に大きな差はなかった。これは、構成部品の原材料や製造方法に大きな違いがないためと考えられる。 

 

 しかし、BEVに目を向けると、温室効果ガス排出量は、主にバッテリーの製造工程で突出して多い。要するに、バッテリーの原材料となる希少金属の採掘・精製や、バッテリーそのものの製造に大量のエネルギーが消費されていることを証明している。BEVの製造段階における環境負荷は、軽いどころか重いのである。これはLCAの偽らざる結果である。 

 

 一方、実際にクルマが走りだすとどうなるか。走り始めは、BEVとはいえ製造時の環境負荷はLCAから必ずしもよくない。しかし、走行距離が伸びるにつれて評価は変わってくる。 

 

 LCAでは、走行距離が1万マイル(約1万6100km)を超えると、BEVがHEVやICEVを上回る。その後、走行距離が長くなるにつれて、BEVは温室効果ガス削減による環境負荷低減量の点でICEVやHEVに差を付けていく。 

 

 要するに、BEVは走行距離が長いほど、LCAが高くなるということだ。全体として、BEVはやはり優れた環境性能を持っているのだ。 

 

 

2024年1月23日発表。主要11か国と北欧3か国の合計販売台数と電気自動車(BEV/PHV/FCV)およびHVシェアの推移(画像:マークラインズ) 

 

 しかし、このリポートに穴がないわけではない。欠けている基準は、BEVに供給される電力の供給源である。 

 

 ここで、主要各国の発電量に占める再生可能エネルギーの割合を調べてみよう。ここでいう再生可能エネルギーとは、水力、太陽光、風力などである。現在、再生可能エネルギーのシェアが最も高いのはカナダで約66.3%である。これは、全発電量の約60%が水力発電によるものであることが大きく影響している。豊富な水資源と山に恵まれた国ならではである。 

 

 一方、欧州諸国の電力供給量は一般的に35%から40%程度である。一方、米国や日本は18%程度である。 

 

 注意しなければならないのは、温室効果ガス排出量がゼロに近いにもかかわらず、このデータでは原子力を再生可能エネルギーとしてカウントしていないことである。 

 

 原子力発電が環境負荷低減に有効であると評価するならば、全発電量の70%以上を原子力発電で賄っているフランスの評価が突出して高くなる。 

 

 これらの調査結果から、カナダで長年使用されているBEVは、LCAの観点からは世界で最も高い評価を受けている。原子力発電も評価基準に含めれば、フランスも優位に立つだろう。 

 

 しかし、「それなら、評価基準を発電施設の建設や維持管理、さらには廃棄にまで拡大したらどうなるのか」と意地悪なことをいう人もいるかもしれない。 

 

 この場合、評価基準は際限なく拡大せざるを得ない。そもそも、水力発電ダムや原子力発電所の建設・運営コストは、BEVのLCAにどこまで含めることができるのだろうか。この問いに対する答えを見つけるのは容易ではない。 

 

2024年1月23日発表。主要メーカーの電気自動車(BEV/PHV/FCV)販売台数推移(画像:マークラインズ) 

 

 これまで、EVシフトの多くは国家主導で進められてきた。そして、多額の補助金が注ぎ込まれてきた。 

 

 正直なところ、EVシフトの背景には、少なくとも自国の自動車産業を成長させ、世界的なシェアを拡大しようというもくろみが垣間見えた。つまり、 

 

「純粋に環境問題を改善する」 

 

ことが目的ではなかったのだ。ただ、そうした時代は過去のものになろうとしている。 

 

 思惑はどうあれ、巨額の資金をともなう大規模なビジネスとして始まったEVシフトは、今後、レベルは違えど世界中で加速していくことは間違いない。どの国でも、BEVは目先の環境性能だけでなく、LCAの観点から公平に評価されることになる。 

 

 BEVの評価は、LCAの観点から評価されて初めて公正なものとなる。その過程で、より効率的なBEVの使い方が確立できれば、それは理想的な道である。 

 

泉圭一郎(自動車業界ウォッチャー) 

 

 

 
 

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