( 135464 )  2024/02/03 14:16:58  
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会話が通じない「落とし穴」になりがちな、日本語の興味深い例をご紹介します(写真:よっし/PIXTA) 

 

スマホ社会の現代日本。 

若者たちは黙々と動画やゲームの画面と向かい合い、用事は絵文字を含む超短文メールを素早く打つばかり。 

時間を割いて他人と会って話すのは「タイパが悪い」とすら言う彼らと、「生きた」日本語の距離がいま、信じられないくらい離れたものになっています。 

言い換えるならそれは、年配者との間の大きなコミュニケーションの溝。  

「日本人なのに何故か日本語が通じない」という笑えない状況は、もはや見過ごせませんが、「その日本人同士と思うところが盲点」と話すのは、言語学者の山口謠司氏。 

 

【図で簡単にわかる】間違えて覚えがちな言葉 

 

『じつは伝わっていない日本語大図鑑』と題された一冊には、日本人ならハッとする指摘が満載。 

 

その中から、会話が通じない「落とし穴」になりがちな日本語の興味深い例を紹介してみましょう。 

 

■聞き間違い、覚え間違い、カン違い 

 

 ずっと後になって、自分が言葉を間違えて覚えていたことがわかり赤面した、などという経験は、多くの人にあるのではないでしょうか。 

 

 いえ、気づけばそれでいいのです。 

 

 正しいほうに修正できたのですから。 

 

 救済すべきは、いまだ間違いに気づかず、使い続けている人々のほう。 

 

 あなたは大丈夫ですか?  

 

 ちょっと恥ずかしいミスが、会話を滞らせていることがあるやもしれません(相手がすぐに正してくれるとは限らないし、黙ってあなたの日本語に疑問を呈しているということも考えられます)。 

 

 小さい言葉のミスが、人間関係にほこりのように挟まって、いつかややこしい事態を招いたり、トラブルの種になることだってないとは限りません。 

 

 たとえば、「一姫二太郎」という言葉。 

 

 日本人が、意味を間違えて捉えがちな代表的言い回しです。 

 

 「姫」は女の子を指し、「太郎」は男の子。この言葉は、子供を産む順番についての理想を教えてくれています。すなわち、最初に女の子を産んで、ややあって次に男の子を産むのがいいよね、という意味です。 

 

 なぜならば、産まれたばかりの男の子は一般的に体が弱くて病気にもかかりやすい。その分、育児が大変。それに比べると、女の子は丈夫にスクスクと育ってくれて、手が掛からなくて済む。それゆえ、母親は初めての育児をなんとかこなすことができ、その経験が次の男の子の育児に余裕をもたらす、というわけですね(※諸説あります)。 

 

 

 日本人の経験に基づいた古くからの言い伝えですが、これを「女1」+「男2」で、子供が3人いると捉える人がけっこういるのは、どうしたことか……。 

 

 もしも子供が3人いるお父さんが、「うちは一姫二太郎なんですよ」と言ったなら、相手は「計2人」と思ってしまい、やがてその誤解のままに関係が続く……という気持ち悪いことにもなりかねません。 

 

 また、以前「〇〇さんの琴線に触れて激怒された」と嘆いた人がいました。 

 

 「逆鱗(げきりん)に触れて」の誤りですが、学生に行ったアンケート調査では、同様の混同以外に、そもそも「琴線に触れる」を「人の怒りに触れる」という意味で使っていた人が7割以上も。 

 

 琴線とは、感動する微妙な心情を指し、激怒とは無縁です。  

 

 言葉は――相手を理解し、自分の考えを説明するためのものですから、それが正しく発信できないということは、生きる力を自ら減じているようなものです。 

 

■もしかしたら誤って覚えているかも… 

 

 ここに、誤りがちな例をいくつか挙げてみますので、頭のなかにある記憶と照らし合わせてみてください。 

 

【誤りが多い例】 

1 正➡馬子にも衣装 誤➡孫にも衣裳 

2 正➡渡る世間に鬼はない 誤➡渡る世間は鬼ばかり 

 

3 正➡餞(はなむけ)の言葉 誤➡花向けの言葉 

4 正➡取りつく島がない 誤➡取りつく暇がない  

5 正➡図に乗る 誤➡頭に乗る 

6 正➡的を射る 誤➡的を得る 

   (※正しいほうの意味は、記事の最後に) 

 さらに、四字熟語でも、こんな誤りをする人が大勢います。口から音で発するときは誰にも気づかれませんが、字で書くと“覚え間違い”があらわになりますから注意しましょう。 

 

 たとえば、次の4つは、その代表例です。 

 

■間違えて覚えやすい「四字熟語」 

 

★正➡一心同体 誤➡一身同体 

 ポイントは――「こころ」か、「からだ」か。正解は「心」なのですね、この場合。 

 

 「一身」は、自分(の身体)、あるいは1人の身体。 

 

 「一心」は、心と心を合わせること、一致させること、です。 

 

 したがって、意味は「異なった2つの心が、つまり2人が心を合わせて同じ体のようになって、強く固く結びついたさま」となります。 

 

 

★正➡絶体絶命 誤➡絶対絶命 

 「絶対」は、「必ず」「何が何でも」「どうしても」などの意味で使われますが、「絶対絶命」というのは間違いです。 

 

 「絶命」は死ぬということですから、「何が何でも死ぬ」とでもいうような感じになってちょっと変。 

 

 体という字を用いる「絶体絶命」は、「体も命も極まるほどの、とうてい逃れられない困難な状況に置かれていること」を表す、重みある言葉なのです。 

 

★正➡危機一髪 誤➡危機一発 

 

 「一髪」とは、髪の毛1本のこと。 

 

 あまりに細くて幅もなきがごとくで……それほどのわずかな距離まで危険が差し迫っている!  という意味。 

 

 ぎりぎりの危ない瀬戸際を表していますから、「一発」では意味をなしません。 

 

★正➡単刀直入 誤➡短刀直入 

 ふつう「タントウ」と聞くと、短い刀のほうを思い浮かべる人も多いと思いますが、正しいほうの「単刀」の「単」とは、1つ、あるいは1人の意。 

 

 すなわち、たった1人で刀を持って、という意味になります。 

 

 具体的には、たった1人で敵陣に斬り込んでいくということで、そこから転じて、よけいなことを言わずにまっすぐ話の核心に向かうことを表します。 

 

 前置きや遠まわりもなしに問題の要点をずばり突く、そういう場合に使われる言葉です。 

 

 では、覚え間違いによるコミュニケーションのトラブルを防ぐには、どうしたらいいでしょうか。 

 

■恥をかいたことをプラスに変えて 

 

 他人に指摘されても不快に思わないこと。むしろ感謝を。間違えて印象に残ることでもっと頭に残ります。 

 

 そのほかの留意点としては――、 

 

●音だけで早トチリはしないこと 

 名古屋の名物鰻料理「ひつまぶし」と「ひまつぶし」。 

 

 落ち着いて考えれば、鰻が暇つぶしをするわけもなし。 

 

 また、上手な者も時には失敗する意の「上手の手から水が漏れる」という言い回しを、あの映画の「ジョーズ」の手と勘違いしていた人も。音だけで勝手な思い込みをしないように。 

 

●あやふやな使用はしないこと 

 部長を飲み会に誘う際「枯れ木も山の賑わいですから、どうぞ」。 

 

 

 これは失礼では済まない。また、おめかしした孫を連れている上司に街でばったり会い「“さすが孫にも衣装”ですね」と言うのもアウト。 

 

 十分気をつけるべき。 

 

 【誤りが多い例:正しいほうの意味】 

 

① 正➡馬子にも衣装 誤➡孫にも衣裳 

 「マゴ」という音だけを聞けば、すぐに「孫」と思うのは無理もありません。ここでいう「馬子」とは、馬をひいて人や荷物を運ぶ仕事をする人のこと。 

 

 今はもうなくなった職業ですが、でこぼこ道や坂道でもヨイショ、ヨイショ。着ているものも質素で、きっと汗まみれだったことでしょう。 

 

 そんな人でも、着るものを見栄えよくして、外見を美しく整えれば、立派に見える、というわけです。 

 

 誰でも外だけでも飾れば、それなりに見える――。中身については何も言っていないのがミソではありますが。 

 

② 正➡渡る世間に鬼はない 誤➡渡る世間は鬼ばかり 

 「渡る世間は鬼ばかり」は、橋田壽賀子氏の脚本によるテレビドラマのタイトル。 

 

 あまりにも長く続いた高視聴率の長寿番組だったため、多くの人の頭のなかに、こちらのほうがこびりついてしまっているようですが、正しくは「―に鬼はない」です。 

 

 厳しい世の中で生きていくのは大変なこと、他人は冷たそうに見えるし、自分のような者を助けてくれそうにない……そう思っている人もきっと多いはず。でも、実は世間はそうではありません。 

 

 困っている人を助けたり、慈悲深い心を持っている人はどこにでもいるもの、という意味を持つ言葉です。 

 

 他の言葉の意味も確認していきましょう。 

 

■まだある、間違えやすい日本語の答え 

 

③ 正➡餞(はなむけ)の言葉 誤➡花向けの言葉 

 「餞」は、「馬の鼻向け」の意を持ちます。 

 

 その昔、旅立つ人が乗る馬の鼻を行くべき方向へ向けて、去る人を見送ったという習慣から来ている言葉です。やがて、見送る人たちが去る人の旅立ちや門出の際に、品物やお金や詩歌などを贈るというならわしに変化していきました。 

 

 学校の卒業式などで卒業していく生徒たちに「餞の言葉」が贈られるのはよく見受けられるシーンです。 

 

 その際、花束の贈呈などもあったりしますが、その「花を向ける」ではないので、間違えないように。 

 

 

 
 

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