( 135519 )  2024/02/03 15:12:50  
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ユニクロ、SHEINを提訴 

 

 ユニクロは1月16日、同社商品「ラウンドミニショルダーバッグ」を模倣した商品の販売が不正競争防止法に違反するとして、SHEINブランドを展開する「Roadget Business Pte. Ltd.」「Fashion Choice Pte. Ltd.」「SHEIN JAPAN」の3社を東京地方裁判所に提訴したと発表した。模倣商品の販売停止、約1億6000万円の損害賠償、遅延損害金の支払いを求めている。ここでの損害賠償とは、模倣商品を安く提供されたことによって、ユニクロが得られたはずの売り上げを指すとみられる。 

 

【画像】ユニクロ「ラウンドミニショルダーバッグ」(全6枚) 

 

 プレスリリース内でユニクロは、「SHEINが販売する模倣商品の形態が当社商品の形態に酷似しており、模倣商品の販売がユニクロブランドと商品の品質に対するお客さまからの高い信頼を大きく損ねている」と説明している。 

 

 ラウンドミニショルダーバッグはユニクロの人気商品の1つだ。500ミリリットルのペットボトルが入る大きさを基準にデザインされ、長財布も収納可能。鍵などの細々としたものとスマホを分けられるように、内ポケットが2つ付いている。また、たくさんのものを収納することを前提に、バッグ自体を軽くしている。 

 

 人気のきっかけは、英国の女性がTikTokへ投稿した43秒の動画。見た目にはそれほど大きくない三日月形のショルダーバッグから、大ぶりなヘッドホン、カメラ、財布などが次々と取り出される動画は、86万回以上再生された。 

 

 この動画がSNSで拡散され、欧州各国で度々完売。欧州では「バナナバッグ」、中国では「ギョーザバッグ」の名称で親しまれるラウンドミニショルダーバッグは、LVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)グループが出資するファッション検索エンジン「Lyst」において、2023年1~3月の「最もホットな商品」1位に選ばれた。その後、日本のメディアでも取り上げられて、国内でも人気に火がついた。 

 

 

 Lystの発表資料によれば「同バッグは20米ドル以下で売られており、われわれのランキングに登場したアイテムで史上最安値」で、日本での販売価格は1500円となっている。ユニクロのプライスラインだと1990円では高いと感じてしまう人も多いと予測し、買ってもらいやすい価格の限界安値として打ち出したそうだ。世界的なインフレが続く中、誰でも手に取りやすい価格設定というのもヒットした理由の1つだろう。 

 

 ちなみにラウンドミニショルダーバッグは22年、コロナ禍で大ヒットしたPRADAのナイロンバッグ「Re-Edition」に影響されたとも言われている。「消毒液を持ち歩く」という新たなニーズを満たしたRe-Editionがヒットすると、The Rowなど多くのブランドがこのタイプのバッグを発売した。  

 

 ユニクロのラウンドミニショルダーバッグは、今、ミレニアル世代が欲しい「It Bag(イット・バッグ)」(シャネル、エルメス、フェンディなどの高価なデザイナーハンドバッグの定番でベストセラーになっているカバンの総称)とも称されている。これは「quiet luxury(クワイエットラグジュアリー)」というトレンドが関係しているのではないだろうか。 

 

 「静かな高級品」と直訳されるこのトレンドは、ブランドアピールを控えめにした高級品という意味で、ロゴマークのないハイブランド品を指す。「品質」と「実用性」に重点を置き、価格やステータスを重視する考え方とは対極に位置する。 

 

 ラウンドミニショルダーバッグも、見た目以上にたくさん入り、軽くて持ち運びやすい。半円形の形は体にフィットしやすく、スマートな見た目で色も選べて、手に取りやすい価格ときている。「令和のバーキン」とも呼ばれる所以である。 

 

 今回の訴訟問題を考える前に、SHEINについて簡単に説明しよう。SHEINは、08年にITエンジニアだった許仰天(クリス・シュー)が創業した南京希音電子商務からスタート。12年から現在のアパレルEC事業の本格展開を開始した。店舗を持たないSHEINはECサイトと公式アプリを通じて、約150以上の国と地域(23年3月時点)でサービスを展開している。 

 

 安価でトレンドアイテムが手に入ることから、ミレニアム世代を中心に支持を集めているSHEIN。レディースファッションをメインに、アクセサリーやランジェリー、シューズ、バッグ、美容グッズ、生活雑貨類など幅広いジャンルを取り扱い、毎日6000点以上もの新商品を投入。計60万点以上という、圧倒的な品ぞろえの多さが特徴だ。20年には約100億ドル(日本円で約1兆4700億円)、21年には約157億ドル(同約2兆3000億円)近い売り上げを計上したとも言われている。 

 

 筆者の推測だが、SHEINは取り扱い点数の多さや商品開発までのスピード感からして、中国国内にいくつもある巨大卸売り市場の商品を、EMS(国際郵便の1つ)やFedEx(世界大手の物流企業)などの宅配便を使い送付。一般消費者に「個人輸入」という形で届けることで関税を免れ、他の大手チェーンより安く提供できているのだろう。日本国内向けの場合、課税価格が1万円以下の輸入であれば、関税及び消費税が免税されるのである。 

 

 このようにSHEINは、世界のアパレルの生産工場が集まる中国・広州の巨大卸売り市場を、まるで自社の倉庫や店舗のように活用。商品集荷から出荷においては、郵便や物流といった他社のインフラを利用している。自社で倉庫や店舗、輸送コストを負担せずとも、ラストワンマイルまで商品を送り届けられるサプライチェーンを築けている点も特徴だ。 

 

 

 SHEINは、今回のユニクロからの訴訟以外にも、さまざまな国で多くのブランドから訴えられている。ルイ・ヴィトン、ラルフローレン、ステューシー、ドクターマーチン、無印良品、H&Mと枚挙にいとまがない。すでに和解が成立しているケースもあるようだが、商標権侵害や模倣品販売が後を絶たないのは、中国の巨大卸売り市場を背景にしていることに起因していると考えられる。 

 

 そもそも中国各地にある巨大卸売り市場は、中国国内小売り店向けに存在している。東南アジアやアフリカ辺りから、バイヤーが買い付けにも来る。一般消費者への小売りはしないのが基本だが、中には小売りをしてくれる店もある。ただ、市場そのものの規模感が日本とは全く違う。 

 

 なかなか公式なデータが見つからないのだが、上海市の七浦路にある市場でも大小6500店舗、1日当たりの来場者数は10万人、同出荷量は200~300トン。それが広州の市場ともなると約30万平方メートル(東京ドーム7個分)の広さに、大小3万社以上、62の専門市場で構成される。総従業員数は30万人、年間取引高が約4兆円の規模だという。はたして、大小3万もの会社が企画、生産、仕入れている商品に、どれだけガバナンスやコンプライアンスが効いているのか。 

 

 ネットなどで売れていると思わしき商品を小ロットで生産できるところもあれば、外国企業がオーダーして残った生地や付属品を使って生産された商品、発注オーダー以上に増産されてしまった商品、外国基準で不良品となった商品など、いわくつきの商品も流通していると推察する。私が上海に駐在していた頃の話だが、ローカルの洒落っ気のないバイク便のお父さんが、裏原のかっこいい憧れブランドのジャンパーを着て配達している姿に出くわしたりもした。 

 

 上記を踏まえて、1日6000点以上の新作商品が登場するSHEINに、ガンバナンスやコンプライアンスを求める方が難しいのだ。現在は、総取り扱い商品数から、商標、意匠侵害、模倣商品として訴えられる件数を算出して、ロス率として見なしているのかもしれない。 

 

 その一方で、SHEINは表参道にショールーミングストアを展開したり、若手デザイナーブランド立ち上げ支援プログラム「SHEIN X グローバル デザインコンテスト」を開催したりしている。それはまるで、多くの訴訟問題を抱えるマイナスイメージを払拭するかのような取り組みに見えなくもない。 

 

 

 SHEINはECサイトと公式アプリに加えて、X (旧Twitter)、Instagram、LINE、YouTube、Snapchat、TikTokなどの各プラットフォームを通じて積極的に情報を発信。Instagramのフォロワー数(1月30日時点)は公式アカウントが3161万人で、日々さまざまなスタイリングが写真や動画で紹介されている。  

 

 20年12月からは日本語サービスの提供を開始し、Instagramの日本版公式アカウントのフォロワー数(1月30日時点)は73.6万人にのぼる。先にも述べたようにECサイトやSNSに特化して情報発信していることから、日本でもミレニアム世代を中心に多くの支持を集めている。 

 

 ミレニアム世代は雑多なコンテンツを見ながら気になったものをタップする習慣ができており、特に目的がなくても投稿を流し見して楽しむ。「ググる→販売サイトへ」というのは、ひと昔前のやり方なのだ。今はSNSが主流で、例えば「Instagramのリール投稿を見ながらダイレクトに販売サイトへ」という流れが増えてきている。 

 

 米国ではこうしたSNSの影響により、深刻な社会問題が起きているとの指摘がある。米ピュー・リサーチ・センターの世論調査によると、TikTokで定期的にニュースを見る人の割合は14%。18~29歳の若者では32%に跳ね上がる。誤解や誇張も入り交じる若者中心の発信が、国民の実感を左右する「ティックトック・エコノミクス」に、無視できないほど大きな影響を与えているのだ。 

 

 大きな影響力を持ち、発信者側でもある若者たち。彼・彼女らの多くは、社会的な倫理観を日々の生活から身に付けていく(残念ながら教育からではない)。そうした中で、ガバナンスやコンプライアンス、ましてや商標、意匠侵害、模倣商品に対する意識が低いままであれば、模倣商品を気にすることなく買い続けたり、情報発信したりするかもしれない。 

 

 

 
 

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