( 135748 ) 2024/02/04 13:39:46 0 00 物流トラック(画像:写真AC)
「『今月まだ20回しか手積み・手降ろしをしていません。毎日入れてください』って、ドライバーからいわれるんですよ」
【画像】えっ…! これがトラック運転手の「年収」です(計14枚)
運送会社A社の配車担当者は、苦笑する。
手積み・手降ろし(以下、手荷役)は、一般的に運送会社からもドライバーからも嫌われている。
ドライバーからすれば、手荷役は体力的にも時間的にも負担が大きい。運送会社にとっても、ドライバーが手荷役を嫌うことで、配車に慎重になる。フォークリフトによる荷役に比べ、手荷役は時間がかかるため、特に「物流の2024年問題」で残業が厳しく制限される将来においては、売り上げ減少の原因になりかねない。
手荷役がなければ4件の配送が可能であった会社が、手荷役のために3件、あるいは2件の配送しかできなくなる可能性があるからだ。
では、A社のドライバーは、なぜ手荷役を望むのか。理由は簡単で、A社はドライバーに手荷役手当を1件につき3000円支給しているからだ。
A社は2024年問題対策として、すでに時間外労働を制限している。これまで残業で稼いでいたドライバーは、A社では固定給に手荷役手当を上乗せして稼ぐようになった。
そんな運送会社は近年増えつつある。「手荷役を廃し、フォークリフト等による荷役を行うべし」が時代の流れである。これは岸田内閣が推進する「物流革新」政策にも明記されている。
しかし、もちろんすべての貨物をフォークリフトで扱えるようにパレット化できるわけではない。荷主の立場からすれば、パレット化することで余計なコストや手間がかかったり、業務プロセスの変更や商品そのものの設計の見直しが必要になったりすることもあるのだ。
A社の配車担当者は、
「扱う貨物の都合上、手荷役を排除できない荷主も一定数存在します。当社はあえて、手荷役を行っていることを明言して、他社との差別化を図っているわけです。とはいえ、いただくべきもの、つまり手荷役料金はしっかり請求しますが」
と続けた。
「標準的な運賃」(画像:国土交通省)
2024年1月11日、ようやく国土交通省から「標準的な運賃」の素案が発表された。「ようやく」と書いたのは、2023年10月に岸田内閣が発表した「物流革新緊急パッケージ」では、2023年内に発表されることになっていたからだ。
今回発表された「標準的な運賃」は、もちろん距離・時間・車種ごとに設定された運賃単価を引き上げるものである。加えて特徴的なのは、速達割増、積込料・取扱料、利用運送手数料が設定されたことだ。
積込料・取扱料については、従来の「標準的な運賃」では、「積込み、取卸しその他附帯業務を行った場合には、運賃とは別に料金として収受」とだけ記されていた。しかし、今回の「標準的な運賃」では、具体的な料金が図のように設定された。
2時間を超えた場合の割増料金は、岸田内閣が推進する「物流革新」の一環として策定された「物流の適正化・生産性向上に向けた荷主事業者・物流事業者の取組に関するガイドライン」(2023年6月公表)の「荷待ち・荷役作業等時間2時間以内ルール」に基づくものだろう。
運送会社(ドライバー)に手荷役を強要し、かつ作業時間を2時間以内に収められない荷主は、貨物自動車運送事業法の「働きかけ」「要請」「勧告・公表」の対象となるばかりでなく、割増賃金も支払わなければならない。このあたりの文脈は運送会社にとっては歓迎すべきことだろう。
一方、フォークリフトやユニック(クレーン)などのマテハン機器をドライバーが使用する自主荷役は、手荷役に比べて割高なのが悩ましい。フォークリフトやユニックの使用には資格が必要であり、「資格作業だから作業単価が高い」という理屈は成り立つが、ドライバーの肉体的・精神的負担が大きいのは手荷役だろう。
さらに、単価の問題もある。大型車の場合、30分以上1時間以内の手荷役の場合、「標準的な運賃」では4520円となる。筆者(坂田良平、物流ジャーナリスト)の個人的な感覚としては、「もっと高くてもいい」と思うが、これをちまたの運送会社や荷主がどう受け止めるかだろう。
物流トラック(画像:写真AC)
手荷役をなくす方向は望ましい。そして、荷主が運送会社(ドライバー)に手荷役を要求するのであれば、その対価を支払うことを要求するのも望ましい。また、運送会社にとっても、他社との差別化として「手荷役大歓迎」をアピールし、
・売り上げアップ ・ドライバーの待遇改善の原資
につなげるのも望ましい。ただし、これらにはいくつか条件がある。まず、無償のサービス労働としての
・手荷役 ・自主荷役 ・棚入れ等の行為
を排除しなければならない。そのためには、荷主の摘発も必要だが、手荷役・自主荷役を無償で行う運送会社も摘発されなければならない。
もうひとつ、ドライバーに選択の権利を与えることも非常に重要だ。筆者は20代前半の頃、手荷役しかできないトラックドライバーとして働いていたが、50代になった今、その仕事はもうできないと感じている。
運送業界の高齢化は著しい。統計によると、40歳未満の運送業界就業者は全体の
「23.9%」
にすぎないが、50歳以上の労働者は48.8%を占めている。つまり、手荷役に重点を置くことで他社との差別化を図ろうとしている運送会社は、若年就業者を中心とした企業にならざるを得ないということだ。
2024年問題とは、非効率がはびこる運送業界を一掃し、生産性を向上させようとする政策である。ここでいう非効率とは、無償の手荷役など、運送会社やドライバーに犠牲を強いる業務や商習慣も含む。
しかし、こうしたあしき慣習が一掃され、ドライバーは
・車上渡しが基本である ・運転以外の業務は基本行わなくていい
という世界が実現すれば、それはそれでドライバーにとって生き残ることが難しく、悩ましい世界なのかもしれない。
坂田良平(物流ジャーナリスト)
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