( 135798 ) 2024/02/04 14:35:44 0 00 写真はイメージです Photo:PIXTA
● もしも取引先からの発注が止まったら? 製造業は「二つの問題」で苦しんでしまう
ダイハツ工業の認証不正により生産ラインが停止した問題の影響が、部品や金型などを供給する下請け企業に及んでいます。今般発覚した豊田自動織機の問題も同様です。
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こうした部品メーカーの多くは、大量に同じ部品(もちろん少量多品種もありますが)をつくることを前提に成り立っていて、量産技術にはすごくたけていますし、親会社が安定して大量に部品を発注してくれるからこそ、安価で良質の部品が生産できるのです。
ところが、ダイハツ工業の例のように、部品メーカーへの発注が止まったり大きく減少したりすると、二つの要因により、急速に経営が苦しくなります。
一つは収益やお金の問題。部品メーカーのような製造業は、設備投資に大きな投資が必要になります。安定して大量に発注があれば設備の減価償却も賄えますが、発注が止まるととたんに償却だけが残り、利益が大幅に減るということにもなりかねません。また、投資資金は、銀行からの借り入れの場合も多く、その返済にも影響します。
● 売り上げが立たなくても人件費は削れないため 製造業は赤字に陥りやすい
もう一つは人員の問題。製造業では、「1週間後にA部品を1万個納入してください」というような大量の注文がコンスタントに来ることを前提にして人員を確保しています。正社員だけでは足りないので、派遣会社と契約して派遣社員も多く雇っています。
製造業の生産ラインの自動化はかなり進んでおり、部品加工のほとんどの部分は機械が行いますが、それでも人手が必要な箇所はたくさんあります。そのため、発注が極端に多かったり少なかったり、あるいはダイハツ工業の例のように発注が止まってしまうと、人員が足りなくなったり余ったりしてしまうのです。
規模が大きい部品メーカーほど、人手不足を派遣社員で補っていることが多いので、発注が極端に減ったり止まったりすると、派遣契約を終了させて調整することになります。ところが人手不足の今は、契約を終了させると次に人手が必要になった時に派遣社員を確保することが難しい。そのため、発注があってもなくても、人員を雇い続けるところも少なくないのです。
売り上げが立たないのに人件費だけが出ていく。先ほどの減価償却費とともに売上高が一定しないと、製造業は赤字に陥りやすいのです。
● 1社依存は危険 長い付き合いでも油断は禁物
しかも、部品メーカーの大半は、親会社が株式を保有する子会社ではありません。実態は単なる系列関係です。協力会社と呼ばれる下請けさんです。
だから資本関係はまったくないけれど、規模が小さな会社ほど、発注先企業への依存度が高い。そのため、ゴーン社長時代の日産自動車が「ケイレツ」を壊した時、連鎖して窮地に追い込まれた中小部品メーカーが数多くありました。
1社依存は危険です。日々の経営に没頭している中小企業経営者には重い課題だと思いますが、仕事の発注元を複数確保していくことが重要です。
一方で、当社のお客さまはこんな経験をしています。そのお客さまは卸会社なのですが、仕入れ先のメーカーが、私のお客さまの卸先である小売店と直接取引をする “中飛ばし”をされたことがありました。メーカーが上場したため株主の目が厳しくなり、採算を改善するための決断だったのです。
その卸会社は、以前はそのメーカーとの1社取引でしたが、社長の英断によって、中飛ばしされる少し前に仕入れ先を複数確保するようにしていました。おかげで、“中飛ばし”されても事業を継続することができたのです。もし、英断がなかったら窮地に追い込まれていたかもしれません。
部品メーカーや卸会社の例からも分かるように、発注先も仕入れ先も1社に偏らないことが大事です。
とはいえ、発注先・仕入れ先を増やすためには時間がかかります。前回のBCPにも関連しますが、資金には余裕を持たせること。
そして、いくら長い付き合い・密接な関係であっても、取引先が突然態度を変えることを想定して準備をしておかなければなりません。「あの会社とは長い付き合いだから」と言って油断していると、ろくな結末になりません。
(小宮コンサルタンツ代表 小宮一慶)
小宮一慶
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