( 136045 ) 2024/02/05 13:12:48 1 00 静岡県知事である川勝平太氏がリニア建設を巡る問題で、JR東海との間で「事実と異なる発言」が相次いでおり、両者間での議論が混迷を極めていることが報じられている。 |
( 136047 ) 2024/02/05 13:12:48 0 00 川勝平太・静岡県知事
「事実関係について異なる点が多くある。事業や計画の内容は正確に認識した上で発言してほしい」──“異例の苦言”が行われても、知事はピントのずれた反論を重ねるだけだった。リニア建設を巡っての議論は、混迷の度合いを増す一方のように見える。
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それにしても、上場企業の専務が知事に“諫言”したという時点で、紛れもなく前代未聞のことだったに違いない。
テレビ静岡は1月24日、「リニアに関する川勝知事の主張や持論をJR東海が“訂正” 我慢ならず? 異例の反論会見を実施 静岡」との記事を配信し、YAHOO! ニュースのトピックスに転載された。
記事はネット上でも大きな反響を呼び、静岡県におけるリニアの建設問題が国民的な関心事になっていることを示した。なぜJR東海は異例の会見を開いたのか、そして、何を国民に訴えたのか、同社や関係者などの取材を通じ、改めて再現してみたい。
冒頭、JR東海の木村中・専務執行役員は会見を開いた目的について説明した。担当記者が言う。
「JR東海が問題視したのは、川勝平太・静岡県知事の発言です。年末年始に川勝知事はリニア計画について様々な発言を行いました。ところがJR東海によると、知事の発言は事実と異なる点が多く、誤解を与える内容になってしまっているそうです。実際、会見後に行われた記者との質疑応答で、川勝知事が事実と異なる発言を行うと、周辺自治体などから『あの発言は本当なのか?』という問い合わせが来ることを明かしました」
24日の会見で、JR側は5つの点を説明した。最初の第1点は「リニア中央新幹線計画の目的」を明確にするというもので、川勝知事に対する直接の反論ではなかった。
「JR東海が従前から説明していたことですが、リニアは東海道新幹線のバイパスであり、東京=名古屋=大阪という日本の大動脈輸送の“二重系化”が目的だと改めて明言しました。東海道新幹線は今年の10月に60周年を迎えますが、将来の経年劣化や、南海トラフ地震など巨大災害のリスクに備える必要があるそうです。さらにリニアが開業すれば品川・名古屋は最短で40分、品川・大阪間は最短67分で結ぶことができます。首都圏、中京圏、近畿圏が1つの巨大都市圏となり、日本経済の活性化に大きく寄与する可能性も改めて示されました」(同・記者)
大部分が地下を走るリニアは災害に強いと見られている。地震や豪雨が発生しても運行に支障がないケースも考えられ、災害発生時の移動手段としても期待されているという。
「第2点目から、川勝知事への“反論”が始まりました。これまでJR東海は『品川・名古屋間は2027年に先行開業』、『大阪までの延伸は2037年を目指す』との目標を掲げてきました。ところが静岡工区の建設が川勝知事の“反対”で全く進まないため、昨年12月にJR東海は『2027年』を『2027年以降』に改めた工事実施計画を国に申請し、国交大臣の認可も得ました。すると川勝知事は今年1月、『2027年という数字が消えたのだから、2037年の東京と大阪の全線開通が残された最後の期限』という、意味不明の主張を行ったのです」(同・記者)
どうやら知事は「2037年までに品川と大阪間を一括で開業すればいいのだから、まだ静岡工区の着工まで時間はある。静岡工区で工事が遅れても問題はない」と主張したかったようだ。
これにJR東海は、知事発言は「(2037年までに)品川・大阪間を全線一括で開業するという趣旨だと思う」と推測した上で、「私どもは品川・大阪間を一括して工事を進めるということは、資金的、経営的にあるいは工事施工能力として大変難しくできないと思っている」と釘を指した。
「先に品川・名古屋間を結んで開業し、収益を得ながら経営体力を回復する必要がある。回復の状況を見ながら順次、大阪まで延伸を行う──これがJR側の説明でした。そもそもJR東海は当初、リニアの大阪開業は2045年と予定していたのです。ところが政財界を中心に『1日でも早く大阪まで延伸すべき』との声が強くなり、JR東海は2016年、財政投融資を活用した建設資金3兆円を借り入れました」(同・記者)
財政投融資を活用することで、長期・固定・低利の貸付を受けることができた。しかも30年間は元本が据え置かれるという好条件だ。
「JR東海は当初、名古屋開業の後には、債務残高を一旦縮減するための時間を8年間置いてから名古屋・大阪間の工事に着手するという計画にしていました。しかし財政投融資を活用した建設資金を得たことにより、この体力回復期間を短縮。最大8年の前倒しが可能になりました」(同・記者)
第3点目は“部分開業論”だ。昨年12月、川勝知事は「品川・大阪間の2037年の全線開業を一刻も早く実現するため、開業できる状態になったところから開業していくべきだ」と主張した。
「JR東海は、『一部区間を限定的に開業する場合でも、車両基地や指令設備の整備が必要』と指摘しました。川勝知事の提案を実現するとなると、まず部分開業のため基地などを整備しなければなりません。そして名古屋まで開業させるためには、せっかく整備した基地を移転させたりするなど、二度手間どころか三度手間が頻発する事態になります。時間、労力、予算が重くのしかかるのは確実ですし、これで品川・名古屋間の開業がさらに遅れます。メリットがゼロどころかマイナスとなるのは確実で、JR東海は『大動脈の機能を発揮するためにも、東海道新幹線と交差する品川・名古屋が第一局面として行っていく最小単位』、『それ以外の短い区間を部分開業していくことは当社として考えていない』と断言しました」(同・記者)
第4点目はリニア実験線の延伸問題だ。川勝知事は昨年12月の会見で突然、「山梨県を走るリニア実験線は延伸され、山梨県駅と神奈川県駅に接続される。そうすれば営業が可能だ」などと発言した。
「なぜ川勝知事が『実験線の完成・延伸とは、現在の実験線を延伸し、営業線にすることだ』と断言したのか、真相はよく分かっていません。一部のメディアは2010年、国の審議会にJR東海が提出した資料を知事が誤読した可能性を指摘しています。JR東海も会見で同じ資料を使って知事が勘違いした可能性を示唆しました。実験線は1997年に18・4キロが完成し、2007年に42・8キロに延伸する工事が国の承認を得ました。川勝知事が誤読した可能性のある資料は2010年に作成されたもので、ここに延伸のことが明記されています。ただ、資料はどのように読んでも、『実験線の延伸』とは18.4キロを42.8キロに延伸することだとしか解釈しようのないものです。川勝知事の解釈は理解に苦しみます。なお、42.8キロへの延伸工事は2013年8月に完了しています」(同・記者)
川勝知事が資料にある「実験線の延伸・完成」を「実験線は神奈川県や山梨県の駅などに延伸され営業線となること」と理解したのなら、それは間違いなく誤読だ。単に18・4キロが42・8キロに伸びるという工事が「延伸」であり、実験線はすでに完成している。
最後の5点目は工事ヤード(作業場)整備の問題だ。国土交通省の有識者会議は昨年12月、静岡工区の工事が南アルプスの環境に悪影響を与えないよう、モニタリングを行いながら必要に応じて対応を見直すべき、などの提言を報告書にまとめた。
「ところが川勝知事は1月4日に行われた会見で、いきなりJR東海に噛みつきました。知事は『工事をしながらモニタリングするというが、工事ヤードすら整備されていない。船ができていないのに寄港地の研究をしているようなものだ』と批判しました。ところがJR東海側は今回の会見で、『作業ヤードの整備工事は知事の了承を得て進めてきたが、2020年に知事が了承せず、工事はストップしている』と指摘。『工事ヤードの整備が私どもの意向でストップしているかのような話があったが、そうではなくて知事からこのタイミングで了解が得られなかったので行えていない』と反論しました。川勝知事は、いわゆる“ブーメラン”を食らった格好です」(同・記者)
JR東海の会見を受け、川勝知事は1月29日の定例会見でJR側の「事実誤認」という指摘に対し、「データに基づいて申し上げている」などと反論した。
「川勝知事が事実誤認に基づく発言を行った際、JR側は毎回ではないにせよ、以前から県の事務方を通じ、タイミングを見定めながら間違いを指摘していたことも、JR東海の会見で明らかになりました。にもかかわらず、知事の発言には事実と異なる内容が含まれ続けています。これにJR東海は『困惑している』と憂慮を示したのです。ところが川勝知事は29日の会見で、『仮にJR東海から情報提供があれば、速やかに報告を受ける形に今までもなっているし、これまでもそうです』と反論しました」(同・記者)
川勝知事の反論は情報提供の問題だけではなかった。とても全部をご紹介する紙幅はないので、ごく一部をご紹介しよう。
「品川・名古屋間の開業も、結局のところは部分開業。ならば品川から甲府まで完成した場合、部分開業を議論したとしても不思議ではない」
「(部分開業ができない理由について)日本の大動脈を担うので、採算に合わないということだけでは説得力はない」
「2037年という期限が浮上するのは当然であり、恣意ではない」
「私は自分の考えをデータに基づいて申し上げているわけです。根拠を出して申し上げている」
「知事会見では、地元メディアから何よりも事実関係を確認しようとする質問が相次ぎました。そして最近の会見では顕著なのですが、川勝知事は真正面から答えません。はぐらかすというか、脇道に逸れるというか、質疑が噛み合わないことが目立ちました。質問と回答のキャッチボールがうまくいかないため、一部の記者は困惑を通り越し、少し厳しい口調で質問を重ねました。それでも川勝知事の姿勢が変わることはなかったのです」(同・記者)
質疑応答の最後で、川勝知事はリニア建設を促進するアイディアがあり、JR東海に呼ばれれば言う、と明言した。
ところが、記者が再三にわたってアイディアの内容を尋ねても答えない。「(JR東海が)相談に乗ってくれと言われれば、即座に相談に乗りたい」と煙に巻くような発言で会見は終わった。
「川勝知事は建設促進期成同盟会にリニアの早期整備の促進を約束しています。本当に早期の整備促進のアイデアがあるならば、それを世に示すべきではないでしょうか。なぜ「アイデアはある」とだけ話をして内容を言わないのか、理解できません。また、JR東海が部分開業は無意味だと説明を尽くしても、知事は『日本の大動脈を担うので、採算に合わないということだけでは説得力はない』と反論しました。それはつまり、民間企業であるJR東海の経営状態を無視しても部分開業すべきということなのでしょうか。はたまた、税金を投入すべきという主張なのでしょうか。いずれにしても知事はリニア建設に関するスキームを根本から覆す主張を繰り返しています。思わせ振りな発言や中途半端な提言は止め、まずはご自身の真意をしっかりと明らかにするべきでしょう」(同・記者)
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