( 137403 ) 2024/02/09 12:31:29 0 00 防犯カメラに写った青葉被告
2019年7月18日に、京都市伏見区の京都アニメーション第一スタジオにガソリンをまいて放火。社員36人を殺害し、32人に重軽傷を負わせ、殺人容疑などに問われていた青葉真司被告に、1月25日、京都地裁は死刑の判決を言い渡した。だが青葉被告は、大やけどを負い、いまや歩くこともできない。車椅子の彼がいかなる運命を辿るか、ご存知だろうか? 戦後でも「最悪」ともいわれる放火殺人事件の公判で、青葉被告は事実関係を認めたうえ「心神耗弱もしくは心神喪失状態にあった」と無罪を求めていた。
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しかし、京都地裁は「本件犯行当時、心神耗弱、心神喪失状態でもなかった」として責任能力があると判断した。「被告人の罪責は極めて重く、死刑を回避し得る事情を見いだすことはできない。死刑をもって臨むほかない」として、車椅子の青葉被告に「極刑」を言い渡した。
青葉被告は死刑判決の翌日に控訴した。まだ死刑判決が確定したわけではない。しかし、SNS上では《青葉真司は歩けない。歩けない死刑囚をどうやって刑場へ連れていくのでしょう》などと、青葉被告の判決が確定した場合、どのように執行されるのか注目されている。
青葉被告は、放火時に自身の服にも火が燃え移り、全身に「3度熱傷」という大やけどを負った。命はとりとめたが、法廷で見た青葉被告は、車いすに座ったままで立つことはできない。腕は動くが、指は曲がったまま。後頭部には、500円玉2個分ほどがはげている。
大阪拘置所のある刑務官はこう語る。
「拘置所に来た時は、刑務官らが食事を口に運び食べさせていた。トイレにも2人の 刑務官が付き添う。自分では、法廷でやっていたようなマスクの着脱ができるくらいかな。拘置所でこんなVIP待遇は経験がない」
そうなると、SNSにもあるように、判決が確定した際、実際にどう執行されるのかが大阪拘置所の刑務官たちも、気が気でないという。
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「死刑にはマニュアルはありません。過去の事例を参考に執行するようになっている。マニュアルがあると、情報公開や国会から請求があれば出さなければならないので、作成しないという意味ですが……。ただし、過去の事例からも、手順は決まっています」(前出・大阪拘置所の刑務官)
死刑囚は、刑場で立ったまま首に皮のついたロープがまかれ、執行される。立てない青葉被告をどのようにして執行できるのか、まだ判決は確定していないが、大阪拘置所の刑務官たちは緊張に包まれているという。
法務省のホームページに掲載されている《報告書「首に掛けられたロープ~日本の死刑と精神医療~」(要約・仮訳版)2009年9月 アムネスティ・インターナショナル》は、こう記している。
《この国(日本)で2006年1月から2009年1月までの3年間に処刑された32人のうち、15 人が60歳未満、17人が60歳以上だった。しかも後者のうちの5人が70歳台で、そのなかには車椅子で処刑場まで移動しなければならなかった77歳と75歳の2人も含まれていた。》
2人の高齢の死刑囚が車いす生活だったが、執行された事例があるのだ。
死刑制度に詳しい龍谷大学名誉教授・石塚伸一氏はこう語る。
「報告書にある一人は、刑務官が死刑囚の横にいき、立たせて首にロープをかけて執行したという情報を聞いている。異例の措置だったようで、精神的な負担が大きいと刑務官からクレームが出たそうです」
オウム真理教事件の麻原彰晃元死刑囚も立つことができず、車椅子で刑場に連れていかれたとの情報もある。
先の大阪拘置所の刑務官によれば、踏板の大きさやロープの長さなどから、刑場は死刑囚が立ったままでないと、執行が難しい構造になっているという。
「車いすのまま、踏板を落とすことは物理的に無理ではないか。刑務官が支えて立たせねばならないとなれば、とたんに刑務官の退職者や長期欠勤が増える」(前出の刑務官)
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石塚氏によれば、これまで死刑執行の際に、死刑囚の「受刑能力」が何度も論議されてきたという。
「死刑という刑罰の執行に耐えうるには、体力的に見た場合、刑場まで立って歩けないと、受刑能力がないと思います。青葉被告の体力的になことで論議になれば、車いすに座っての執行は絶対にやってはならない」(石塚氏)
刑事訴訟法第479条には《死刑の言渡を受けた者が心神喪失の状態に在るときは、法務大臣の命令によつて執行を停止する》と記されている。
青葉被告の裁判でも弁護側は「死刑は残虐な刑罰」「重度な負傷」と主張し、死刑の 回避も訴えていた。だが、判決では「執行機関が被告人の身体の状態等を考慮して判断すべき」として、判決には関係がないとした。
「一審段階とはいえ、青葉被告は確かに死刑判決を受けた。しかし今後、拘置所は 体力の回復のため、リハビリをしっかりと受けさせるべきです。死刑がもし確定した場合でも、体力が回復していることは十分考えられる。報道の範囲でしかわからないが、青葉被告はかなり重篤な負傷なので、受刑能力の有無については、慎重にも慎重を重ねて判断すべき。それは今、拘置所に収容されていて大丈夫かという点も含めてです」
と石塚氏は指摘する。
拘置所や刑務所で幹部を経験した元刑務官・坂本敏夫氏もこう語る。
「死刑という判決が確定した時は、執行されることが刑罰を受けることとなる。しかし、ケガや病気は当然、治療されなければならない。ただ、今から拘置所でそのような話が出るというのは正直、死刑執行というのは刑務官にとっては嫌なものなので、心情はわかります」
全国の拘置所では、死刑執行が決まると刑場の掃除をする頻度が急増するそうだ。拘置所によって多少違いはあるが、踏板に麻の布袋のようなものに重いものを入れ、3つのボタンを押して、落ちるかどうか、死刑執行のテストを繰り返すという。
「掃除が多くなると『近いんじゃないか』と拘置所には緊張が走る。刑務官の誰もがボタンを押したくないですからね。刑務官が車いすの死刑囚を抱えて立たせる、目の前で落ちていく……それはとんでもない精神的な負担なので、勘弁願いたいというのが正直なところ」(前出・大阪拘置所の刑務官)
一方、青葉被告の犠牲になった遺族の一人はこう語る。
「法律には詳しくなかったので、すぐにでも死刑になるのかと思っていました。まだ何年もかかると、検察の方から判決の時に教えていただきました。判決では『死刑を回避する余地はない、事情はない』とハッキリとおっしゃった。放火して重篤なヤケドを負ったのは青葉被告、本人の犯行です。車いすだからというのは理由にならないと思います。早く執行してほしいという遺族や被害者が大半です」
青葉被告の判決は、日本の死刑制度のあり方にも重大な問題を提起している。
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現代ビジネス編集部
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