( 137743 )  2024/02/10 13:01:53  
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 岸田文雄首相が見通しを語った少子化対策の「支援金」制度に批判が集まっている。事実上の増税なのに税金をあえて使わない姑息さにもウンザリする声も国民からは漏れている。元プレジデント編集長で作家の小倉健一氏がこの問題を切る。「実質賃金にはダンマリを決め込んでいる中で、完全なる愚策であることは火を見るより明らかだ」ーー。 

 

 岸田文雄首相は、1月6日の衆議院予算委員会で、少子化対策の財源に充てる「支援金」制度について、1人あたりの負担額が平均で月500円弱になるとの見通しを明らかにした。2026(令和8)年度から実施するというこの「支援金」制度は、企業や個人が支払う公的医療保険に上乗せして徴収するものである。徴収額は2026年度が約6000億円で、2027年度は約8000億円、2028年度は約1兆円と段階的に引き上げるのだという。 

 

「支援金」「公的医療保険」と耳慣れない言葉がでてきたが、まず、「公的医療保険」とは何かだ。公的医療保険制度とは、国民全員に加入が義務づけられている医療保険制度のことで、国民健康保険(自営業、専業主婦、年金生活者、無職、フリーランスなどが対象)・健康保険(企業に属する人とその扶養家族)・共済組合(公務員とその扶養家族)・後期高齢者医療制度(75歳以上)等の種類がある。 

 

 国民全員に加入が義務付けられていることから、この制度によって支払われるものは「税金」の一種である。これに上乗せして支払うという「支援金」も税金である。 

 

税金と呼ばないのは、「増税メガネ」と岸田首相が呼ばれたトラウマから、「増税」ではないと政府が強弁するためのものだ。 

 

 岸田首相は、2028年度の負担額について「粗い試算として、加入者1人あたり月平均500円弱と見込まれる」と説明した。「歳出改革と賃上げにより、(国民に)実質的な負担は生じない。『子育て増税』との指摘はあたらない」と述べている。月500円弱という言葉に、「負担感はないのですよ~」と言いたいのだろう。いずれにしろ「子育て増税」に他ならない。 

 

<日本総研の西沢和彦理事の試算によると、医療保険の加入者(家族を含む)1人あたりの支援金の平均額は協会けんぽでは月638円となる。健保組合は月851円、後期高齢者医療制度で月253円になるという。所得が高い人はこの負担額がさらに増える>(日経新聞、2月7日)のだという。 

 

 現在、内閣官房副長官(官邸の実務を取り仕切る政府高官)を務める村井秀樹氏は、かつて(2017年)、小泉進次郎氏らとともに「こども保険」と呼称する増税プランをぶち上げた経緯がある。このプランは、年3400億円を増税して、幼児教育や保育の無償化をするという内容で、当時の報道では、<この構想には自民党内からも「子どものいない人、子育てを終えた人には保険料負担への見返りがなく、保険と呼べない」「子育てはリスクではなく、リスクに備える社会保険の理念にそぐわない」との批判が出ている。事業主負担が膨らむのを嫌う経済界からも、警戒する声が上がっている>(毎日新聞、2017年5月17日)と酷評されている。今回、村井氏のプランと比べて約3倍もの増税となっている。 

 

 改めて2つのことを確認しておく。 

 

 

 1つ目。国民負担率(国民の所得に占める税金や社会保険料の負担の割合)が1%増えると、潜在成長率がマイナス0.11%となり、さらには家庭の可処分所得も大幅に下がることがエコノミストの調査(T.Nagahama,2023)によって明らかになっており、また他の先進国と比較して日本の負担率は突出して上昇率が高い。簡単に言えば、国民負担が高くなれば、経済成長はできなくなり、国民負担が減れば経済成長ができる。それだけのことである。 

 

 2つ目。「子育て支援」では、出生率は上がらないことだ。急激に落ち込んだ出生率を上げるための「異次元の少子化対策」として「子育て支援」のプロジェクトが始まったが、出生率と子育て支援には関係が薄い。出生率が、何歳で結婚するか、そして結婚する割合によって9割が決まるためだ。つまり、日本の出生率の原因は、晩婚化と未婚率の上昇が原因ということであり、熱心に子育て世代にお金をばら撒いたところで、どうにもならない。Jリーグ観戦の子育て世代の優先入場が、子育て支援のプランに含まれて、笑い物になったが、Jリーグだけでなく、あらゆる子育て支援は出生率の上昇に意味をなさない。 

 

 以上のことから、一連の岸田首相の「異次元の少子化対策」なる「子育て支援」は、完全なる愚策であることは火を見るより明らかだ。ずいぶん気前よくばら撒いておいて、増税するのだから、納税者は怒って当然だ。 

 

 もっとも意味不明なのは、少子化対策でもっとも大事な未婚の若い世代が、税金をとられるだけという制度設計だ。お金がなくて結婚できない人もいるというのに、彼らからさらにお金を奪うことになる。年収が数百万円の若い世代にとっては、少額であっても、生活は困窮することになる。子育てを全世代で支援するという理念そのものがおかしいということになる。 

 

 さて、問題はさらに起きている。この年1兆円への認識だ。日本の予算は約100兆円強なのだから、この1兆円は、1%弱の増税になる。さきのデータにもとづけば潜在成長率がマイナス0.11%弱のマイナスになる。ドイツにGDPを抜かれてしまった日本は、政府によってまた足を引っ張られ、凋落をしていく計算になる。莫大な増税だ。 

 

 しかし、岸田首相は「賃上げと歳出改革で社会保険負担の軽減を生じさせ、その範囲内で支援金制度を用意する。よって実質的な負担は全体として生じない」などとふざけた説明をしている。つまり、賃上げがあるから大丈夫だと言っているわけだが、岸田首相が政権をとってからというもの、実質賃金は、下がり続けている。 

 

 

<厚生労働省が6日発表した2023年の毎月勤労統計調査(速報、従業員5人以上の事業所)によると、1人あたり賃金は物価を考慮した実質で前年比2.5%減った。2年連続で減少した。マイナス幅は1.0%減だった22年からさらに大きくなった。20年を100とした指数で見ると97.1で、唯一100を下回った22年からさらに低下した。比較可能な1990年以降で最も低かった>(日経新聞、2月6日)のだから、もはや岸田首相の強弁は虚偽に近いものを感じる。 

 

 実質賃金が下がっていて、名目の賃金が伸びているとき、国民の生活はよくなっているか、いないか? 

 

 当然、手取りが減って、苦しくなっているのである。国民生活にダメージを与え続けておきながら、さらに、名目賃金は伸びているのだから「実質負担はゼロ」というのは、完全に誤った認識であり、おそらく、わかっていて主張をしているのだから、「詐欺」でしかない。 

 

 春闘という民間契約に対して、口先介入を繰り返し、国民の生活を豊かにする「実質賃金」にはダンマリを決め込んでいるわけだ。 

 

 本当に、この政権は終わっている。裏金問題や能登地震で、本質が見えにくくなってしまっているが、実態は、ただの増税政権であり、日本経済と日本国民の生活をぶっ壊し続けているのである。 

 

小倉健一 

 

 

 
 

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