( 138773 )  2024/02/13 14:23:07  
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写真提供: 現代ビジネス 

 

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今期の業績予想で連結売上高は43・5兆円、純利益は4・5兆円。世界で最も多くの自動車を販売するトヨタが、どこかおかしい。グループで相次ぐ不正は経営のプロたちの目にどう映っているのか。 

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【写真】上海モーターショーで「日本車のガラパゴス化」が鮮明に…どうする、トヨタ? 

 

 トヨタの何がいったい問題なのか。前編記事『日本製鉄、元グーグル日本法人社長が率直に語る「トヨタグループ」不正問題の本質』より続く。 

 

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 アップルのiPodが出てきたとき、ソニーのウォークマンの担当者たちは、「電池を長持ちさせればいい」「音質を良くすればいい」「防水機能をつければ勝てる」と問題の本質を見誤った議論に終始し、その結果、iPodに完敗。ソニーは長い低迷の時代を過ごした。 

 

 「これからの自動車産業では、ソフトウェアやクラウドコンピューティング、人工知能などが基幹技術になっていくし、その分野ではテスラが圧倒的です。同じ自動車というカテゴリーですが、テスラの作るEVとトヨタの車はまったくの別物といっていいでしょう。 

 

 豊田氏はたしかにグローバルで戦える数少ない日本人経営者には違いありません。しかし、どこまでいってもガソリン車時代の人です。豊田氏もそこに気づいているから社長の座を譲ったのでしょうが、会長として院政を敷いているように見えるのはやや残念です。 

 

 ただ、日本経済のためにトヨタにはがんばってほしいと願っています。販売台数を世界一にした豊田氏の手腕はすごいものですが、現在、自動車産業で起きている変化はその手腕だけでは対応できないほどドラスティックです。これからの車は『車屋』には作れない。そのことはトヨタ自身も私たちも自覚する必要があるでしょう」(辻野氏) 

 

 元ペンタックス社長の浦野文男氏(80歳)は、一連の不祥事にガバナンス不全を指摘する。 

 

 「ペンタックスも私が社長に就任する以前は、基本的に同族経営で、表面的には『大家族主義経営』を標榜していました。しかしその実態として、経営陣が間違っていると従業員が思っても、オーナー家の顔色を窺って、誤りを指摘できないという雰囲気がありました。 

 

 トヨタもそれに近い状態ではないでしょうか。豊田さんは、創業家出身で、しかもただの世襲とは違い、経営能力も高い。カリスマ性があり、結果も残してきた。彼が社長に就任した前年の'08年にはリーマン・ショックがあり、71年ぶりに連結営業赤字に転落していましたが、見事にV字回復させました。'10年に米国で大規模なリコール問題が起きたときには、向こうの議会に乗り込んで堂々と説明し、事態を収束させた。そんな経営者は他に見当たりません。私もあの姿を見て、立派な経営者だと感心しました。 

 

 

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 ただ、豊田氏があまりに偉大だったため、彼の言う通りにすればいいという雰囲気がグループ全体を覆い、従業員が自分で判断して行動するという意識が失われていったのでしょう。相次ぐ不祥事を、グループ各社の経営層が誰も止められなかった原因はそこにあったのではないでしょうか。豊田さんが優秀であるがゆえに、不祥事が起きたとすればなんとも皮肉なことです」 

 

 豊田氏は、1月の会見で「創業の原点を見失っていた」と認め、トヨタグループの原点は「多くの人を幸せにするためにもっといいモノをつくること」として、「次の道を発明しよう」という新しいビジョンを定めた。 

 

 「豊田氏がやるべきことは、まさにこの原点回帰に尽きると思います。トヨタグループには、一致団結して成功した歴史と経験があります。新たな企業文化を一から作るには時間がかかりますが、元々あるなら思い出せばいい。豊田氏が先頭に立って原点回帰を進めれば、必ずトヨタグループは再び信頼を取り戻せると思います」(浦野氏) 

 

 しかし、原点回帰するまでにはいくつものハードルがあると指摘するのは、元カルビー社長の中田康雄氏(80歳)だ。 

 

 「これまでの日本の優良企業では『顧客第一』が目標でした。その前提となる『品質第一』を追求し、顧客満足につなげていくという組織風土でした。しかし、この20年ほどで『株主第一』という新自由主義的な発想が浸透し、品質よりも『売り上げと利益が第一』となってしまった。トヨタの問題もこれが根っこにあると思います」 

 

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 そもそもトヨタグループの一連の問題は、開発スケジュールがあまりにタイトだったことが根本原因として挙げられる。 

 

 「タイトなスケジュールがなぜ必要だったかというと、商品をリニューアルすることで売り上げを最大化させようとする考え方があったからです。毎年どこかをマイナーチェンジして、目新しさを演出し、売り上げを伸ばす。しかしこれは本質的な商品開発ではありません。 

 

 こうした開発が組織からゆとりを奪い、従業員が潰され、組織的な不正につながった原因といえるでしょう。トヨタはもう一度、品質保証に軸足を戻し、顧客第一主義という原点に戻って経営を建て直さない限り、復活は厳しいのではないでしょうか」(中田氏) 

 

 すかいらーく創業者の一人、横川竟氏(86歳)は長年、トヨタ車を愛用してきた。しかし、今年1月に納車されたレクサスに乗って、同社の異変を感じ取ったという。 

 

 「'71年にコロナを買って以来、トヨタ車しか乗ってきていません。しかし、今回のレクサスは明らかに顧客目線ではないと感じました。私は、'10年のリコール問題で矢面に立つ姿を見て、豊田章男さんのことを日本でナンバーワンの経営者だと思ってきました。しかし、そこが彼のピークだったのかもしれません。 

 

 新しいレクサスの運転席はたしかによくできています。しかし、後部座席が大変乗りにくく、顧客目線を欠いていると感じました。レクサスは社用車として使われることも多い車種です。ならば、後部座席にお客さんや経営者が乗るはずですが、彼らの乗り心地について考えられていないのです。 

 

 つまり、これは乗る人のために作られた車ではない。トヨタが儲けるために作られた車だと感じました。商売は消費者の生活を豊かにするためにやるものです。ところが今回、私は1700万円のレクサスを買うことで豊かさを感じられていない。このままではテスラに抜かれてしまうと危惧しています」 

 

 財界の大御所たちから届く叱咤激励の数々。豊田章男会長に届くか。 

 

 「週刊現代」2023年2月17日号より 

 

あわせて読みたい。「上海モーターショーで「日本車のガラパゴス化」が鮮明に…!  この残酷な現実をトヨタはどう受け止めるのか」はこちらから。 

 

週刊現代(講談社) 

 

 

 
 

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