( 138963 )  2024/02/14 00:21:42  
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山本巧次郎被告(24) 

 

2022年8月に大阪府堺市で、当時20歳の女子大学生が、元交際相手の男(24)に刺殺された事件。2月13日、大阪地裁堺支部は、検察側の求刑通り男に懲役20年の判決を言い渡しました。 

弁護側は「被告は当時、精神障害の影響で刑事責任能力がなかった」と無罪を主張していましたが、大阪地裁堺支部は「精神障害はなく、完全責任能力があった」と断じました。 

 

【画像を見る】亡くなった大田夏瑚さん(当時20) 

 

事件現場(堺市西区) 

 

山本巧次郎被告(24)は、2022年8月に堺市西区で、元交際相手の大田夏瑚さん(当時20)を殺害した罪に問われていました。 

 

事件直後の被告の供述や目撃情報、遺体の状況などから考えられている、事件の構図は次の通りです。 

 

2020年から交際していた山本被告と大田さん。しかし事件の1週間前、大田さんが別の男性と外泊したことをきっかけに、2人は交際関係を解消しました。 

 

ところが事件当日、山本被告が復縁を求めます。携帯電話の履歴では、被告が大田さんに「位置情報変えてたら許さないからね!」「会いたいよ」などとメッセージを送り、大田さんは「別れてるんやからそんなこと言わないで!」と返信したことが確認されています。 

 

その日の夜、“置いていたスーツを取りに行く”という名目で、大田さんの自宅(集合住宅4階)を訪れた山本被告。そこで感情が爆発し、包丁で大田さんの両脚を10か所以上切りつけ、さらに右わき腹を刺しました。逃れようとした大田さんはベランダから飛び降り、路上で重篤な状態の中、周囲に助けを求めます。 

 

しかし階段を駆け下りた山本被告が大田さんに馬乗りになり、包丁で胸を複数回刺しました。刺し傷は心臓や肺に達し、大田さんはその場で失血死しました。 

 

事件の目撃者は裁判で、「救急車を呼ぼうとした際、振り返ったら被告が走ってきた。走ったままの勢いで、乗りかかるようにして被害者を刺した」と、当時の状況を証言しています。 

 

山本巧次郎被告(廷内スケッチ 1月29日の公判) 

 

事件直後、山本被告は「人を殺しました」「(殺したのは)元カノです」「捕まえてください、待ってます」と自ら110番通報。確保後の取り調べでは、“5回くらい刺した” “別れるくらいだったら死んで、自分ももういなくなった方がいい” “大田さんが窓を開けて、走って飛び降りた”という旨の供述をしていました。 

 

しかし今年1月に始まった裁判では一転。山本被告は「僕のしたことは間違いない」と起訴事実を認めたものの、犯行そのものや、自ら通報したこと、さらには大田さん宅を訪れたこと自体も「覚えていない」と供述していました。 

 

 

弁護側は、裁判所が選任した医師による精神鑑定に基づき、「被告は事件当時、『非定型精神病』の圧倒的影響下にあった。刑事責任能力は認められない」「錯乱状態で殺意もなかった」として、無罪を主張。 

 

一方の検察側は、「被害者が別の男性と外泊したことや、復縁を拒まれたことへの怒りから殺意を抱いた経緯は、通常心理として了解できる」「犯行後の通報や取り調べでも、自らの行動の意味などを理解し説明できている」として、事件当時の山本被告に刑事責任能力があったのは明らかだと主張。 

 

「動機は自己中心的で身勝手」「周りに助けを求める被害者に対し、馬乗りになり胸部を刺すという、憐憫(れんびん)の情すら感じさせない残酷な犯行」と糾弾し、懲役20年を求刑していました。 

 

裁判では被害者参加制度に基づき、亡くなった大田夏瑚さんの遺族も意見陳述。悲痛な言葉に、傍聴席からはすすり泣く声が漏れました。 

 

大田夏瑚さんの母親 

「成人式の日のことです。自宅の庭で、『記念にママと一緒に撮りたい』と言って、写真を撮ってくれました。これが最後の写真となりました」 

「体中にある刺し傷を見ました。胸には何か所も大きな刺し傷がありました。大きな穴のようでした。“殺意の痕”だらけでした」 

「私の願いはただひとつ、笑顔で可愛い娘を返してほしいです」 

 

大田夏瑚さんの妹 

「9月にはお姉ちゃんは、実家に帰ってくる予定でした。可愛いカフェに一緒に行く予定でした。帰ってきたのは、小さくなって骨壺に入った姿でした」 

「お姉ちゃんとの思い出はたくさんあります。思い出を生きる力に変えなければと、毎日苦しみながら頑張っています」 

「何ひとつお姉ちゃんと一緒にできない怒りを、どこにぶつければいいのでしょうか。生きることがこんなにつらいと思っていませんでした。大切な、大切な、私のお姉ちゃんを返してください」 

 

大阪地裁堺支部 

 

2月13日の判決で、大阪地裁堺支部(荒木未佳裁判長)は「被害者が別の男性と外泊したことや、復縁を望んだのに思い通りにならなかった怒りや絶望から犯行に及んだと、合理的に推認できる」「被告は犯行当時のことについて、自らに不都合な点だけ “記憶がない”と供述しており、不自然だ」と指摘。 

 

裁判所が選任した医師の精神鑑定については、「鑑定人の能力や公正さには何ら問題がないと認められる」としつつも、「犯行前後の被告に奇異・不合理な言動はなく、目的に沿った行動を取っている点などと照らし合わせると、相反の程度が大きい」として、鑑定結果は採用できないと判断。「被告には事件当時、精神障害はなく、完全責任能力があった」と断定しました。 

 

そのうえで「重傷を負った被害者を見て、悔い改めて思い直すどころか、かえって殺害を決意し、もはや何の抵抗もできない被害者に対し躊躇なく胸部を包丁で刺した。犯行態様が極めて悪質」「最後まで必死に生きようと助けを求めながら執拗に刺された被害者の絶望は想像を絶する」「裁判で謝罪や反省の弁は述べていたが、内実を伴っておらず、内省は深まっていないと言わざるを得ない」と指弾し、検察側の求刑通り、山本被告に懲役20年を言い渡しました。 

 

判決宣告の間、山本被告はまっすぐ裁判長を見つめ、時折うなずくように首を小さく縦に振っていました。 

 

被害女性への弔意を示すためか、黒いスーツに黒いネクタイを着用して判決宣告に臨んでいた裁判員もいました。 

 

(MBS大阪司法担当 松本陸) 

 

 

 
 

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