( 139788 ) 2024/02/16 13:32:22 0 00 「歳出改革を継続すれば、差し引きで国民の負担は生じない」と強調した(時事通信フォト)
岸田文雄首相は、よほど“増税メガネ”と呼ばれたくないのだろう。2月6日の衆院予算委員会で、少子化対策の財源3.6兆円のうち、「子ども・子育て支援金」として1兆円程度を公的医療保険の保険料に上乗せして徴収する方針を示した。初年度の2026年度に約6000億円を徴収し、段階的に増額して28年度には約1兆円規模にするという。岸田首相は「粗い試算で、拠出額は加入者1人あたり月平均500円弱になる」と答弁した。新たに必要となる予算の財源として、税金ではなく、社会保険料を財源に選んだわけだ。
【写真】少子化対策「支援金」の徴収イメージ。公的健康保険料から広く集めることを狙う
この「1人あたり月500円」という表現には、多方面から批判の声が上がった。国民民主党の玉木雄一郎代表は、Xでこう述べている。
〈少なくとも保険料を直接負担する被保険者1人当たりの負担額を説明すべきで、協会けんぽで月1,025円、組合健保で月1,472円という試算もあります。年額で言うと2万円近い負担になる人も出てきます〉(2月6日午前11:59に投稿)
実際の負担額は、加入する医療保険や所得によって変わり、高齢者世帯と現役世帯でも大きく異なる。
NHKの報道(2月8日付)によれば、〈政府は世代間の負担割合について検討を進めた結果、当初の2年間は、現役世代を含む74歳以下の医療保険の加入者に対し、事業主の負担分も含め、全体の92%の負担を求める方向で調整を進めています〉と、財源のほとんどを現役世代が負担することになるという。
つまり、現役世代から支援金を徴収し、これから子どもを作る予定のある夫婦や、子育て中の夫婦を支援することで少子化を止めようとする政策だが、少子化問題に詳しい独身研究家の荒川和久氏は、まったく意味がないと断じる。
「まず、子育て支援をすれば出生率が上がるという因果関係は確認されていません。2007年に少子化担当大臣が設置され、民主党政権で子ども手当が拡充され、家族関係政府支出は1995年比で2倍にも増額したのに、出生数は4割減です。子育て支援を充実させても出生数は増えるどころか減る一方です。
子育て支援は、少子化だろうとなかろうとやるべきことですが、それと少子化対策とは全く次元の違うものです。子育て支援をすれば、子どものいる夫婦がもう1人子どもを産むかというと、そうはならずに、すでにいる子の教育費に回すだけになりがちです。少子化対策とは、子ども0人→1人という新たな出生増につながるものでないと意味はありません」(荒川氏、以下同)
少子化対策として集めた支援金を投入する“先”が間違っているというのだ。
もう一つの問題は、さらに深刻だ。政府の支援策で子育て中の世帯は恩恵を受けられるかもしれないが、独身の若い層や子育てが終わった世帯では、ただただ負担増になる。特に問題なのは、独身の現役世代の可処分所得が減ることだという。
「2023年6月に内閣官房から発表された『こども未来戦略方針』の中では、3つの基本理念の第一に『若い世代の所得を増やす』と掲げられています。この認識はまったく正しくて、今の少子化の原因は、若者の結婚が減っていることにあり、婚姻数の減少と出生数の減少は完全にリンクしています。
だから、少子化対策で大事なのは婚姻数を増やすことで、そのためには若者が結婚して子どもを持てるような経済環境、雇用環境を整えることが第一です。ところが、政府がやっているのは真逆で、ただでさえ重い社会保険料を増額して若者の実質賃金を減らし、ますます結婚できないようにしている。むしろ少子化を加速する政策と言えます」
婚姻数が減っているのは、今は価値観が多様化し、「結婚したくない」という若者が増えたからだといわれるが、それも額面通りには受け取れないという。
「“結婚したくない”という人は昔から一定の割合でいましたが、今は“結婚もしたいし、子どももほしいのに、できなかった”という不本意未婚がかなり増えています。そもそも晩婚化などは起きていません。20代で結婚できなかった層が、結婚を後ろ倒しにしたあげく、結局30代になっても結婚できないという、単純に20代での婚姻数の純減なんです」
価値観は多様化しているかもしれないが、昔と価値観が変わってしまったのは、経済的な理由が背景にあるのかもしれないのだ。
「今の若い層にとって、子どもを持つことは、高級車やブランドバッグと同じで、もはや手の届かない“贅沢”なものになっています。世帯年収900万円以上では、子のいる世帯数は昔とほとんど変わっていませんが、900万円未満のボリュームゾーンでは激減している。
大都市のタワマンに住めるような裕福なパワーカップルは子ども3人を育てている一方で、20代の若者の可処分所得の中央値が300万円にも満たないという現実があり、結婚や出産どころか日々の生活で精一杯なのに、そこからさらに子育て支援金など負担が増えるような政策はいかがなものかと思います。『若い世代の所得を増やす』という基本理念は一体どこにいったのか、と」
岸田政権がやろうとしている“少子化対策”は、極端な言い方をすれば、結婚できない貧乏な若者からお金を徴収し、すでに複数の子どもがいてタワマンに住んでいるパワーカップルを支援するという、格差を拡大しかねない政策なのである。
しかし、少子化対策の基本理念の第一に「若い世代の所得を増やす」とあるということは、政府与党も官僚も、問題の本質を理解しているということだ。それなのになぜこうした不可解な政策が通ってしまうのか。
「政府の本音を類推すれば、少子化対策と言いさえすれば、国民からいくらでも搾り取れる、増税できると思っているんじゃないでしょうか。少子化対策に効果があるかどうかは、もはやどうでもいいのでしょう」
少子化がさらに進めば、徴収額を増額する口実になるので、そのほうが都合がいいのかもしれない。
取材・文/清水典之(フリーライター)
|
![]() |