( 140098 )  2024/02/17 13:09:38  
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写真提供: 現代ビジネス 

 

 川勝平太知事は昨年11月になって、田代ダム取水抑制案を認めることで、大井川下流域の水資源保全が解決したことをようやく了解した。ふつうであれば、公平公正を旨とする行政の役割から言えば、リニア議論を終息させる方向に舵を切るのだろう。 

 

【写真】静岡県副知事がリニア妨害を宣言…4年以上も前の‟亡霊”47項目を持ち出す 

 

 ところが、この期に及んでも、静岡県は、JR東海の南アルプストンネル工事静岡工区の着工を認めることはなく、リニア妨害を続けていくことを宣言したのだ。 

 

 その宣言の場となったのが、2024年2月5日に開いた静岡県のリニア問題責任者を務める、森貴志副知事、石川英寛・政策推進担当部長による記者会見である。 

 

 ただ記者会見は、川勝知事のリニア妨害のシナリオに沿った単なる「茶番劇」でしかなかった。 

 

 「茶番劇」だとはっきりと言えるのは、記者会見のテーマが、いまから4年以上も前の2019年9月30日、JR東海に示した『引き続き対話を要する事項』、いわゆる47項目のリニア協議事項を持ち出してきたからである。 

 

 【前編】『静岡県副知事がリニア妨害を宣言…4年以上も前の‟亡霊”47項目を持ち出す「衝撃の所業」』 

 

森副知事が47項目を説明(静岡県庁、筆者撮影) 

 

 それでは、あまりにもずさんな「茶番劇」の一部始終を明らかにしていく。 

 

 今回の記者会見で、森副知事は47項目を作成したいきさつなどを全く説明しなかった。 

 

 47項目の前に、県は2019年6月6日に、『大井川水系の水資源確保及び水質保全等に関する中間意見書』をJR東海に送っている。 

 

 中間意見書に対して、JR東海はすべて回答している。 

 

 JR東海からの回答を基に、県は9月12日に地質構造・水資源専門部会、13日に生物多様性専門部会を開き、それぞれの委員が意見を出している。 

 

 今回の会見では、その辺の事情をすべて無視しているのだ。 

 

 なぜ、2つの県専門部会の開催が重要なのか?  

 2日間にわたる県専門部会の意見をまとめたのが、9月30日の『引き続き対話を要する事項』、いわゆる47項目となったからである。 

 

 つまり、県が「金科玉条」とする47項目とは、単に委員たちの当時の意見に過ぎないのだ。 

 

 だから、今回の記者会見を開く前に、あらためて2つの専門部会を開き、それぞれの委員の意見を公開の場で確認した上で、「終了」と「未了」を決めなかったのかを筆者は尋ねた。 

 

 森副知事の回答は要領を得ていなかった。県のお手盛りで、今回の「成績表」をつくったのは明らかである。 

 

 47項目の委員の意見内容もあまりにも恣意的でしかないことを説明する。 

 

 いちばんわかりやすいのは、47項目の1つに「地下ダム」が入っていることである。 

 

 47項目のうち、「(4)突発湧水対応」の中に、「西俣上流部での流量減少対策として、地下ダムが技術的に困難とする理由の明示とともに、地下ダムではなく別の具体的な対策」として、「地下ダム」あるいはその代替案を求めている。 

 

 今回、どういうわけか、県は「地下ダム」を今後の対話の不要がなくなったとした。 

 

 もともと必要性のなかった「地下ダム」が、なぜ、47項目に入っているのか説明すれば、47項目のいい加減さを理解できるだろう。 

 

 まず、「地下ダム」は、実際のところは「突発湧水対応」としてではなく、「生態系保全」のために必要とされた。 

 

 「生態系保全」であれば、今回、県が不要としたことにも疑問が生じる。 

 

 

 当時の議論を簡単に振り返る。 

 

 「地下ダム」提案者は、地質構造・水資源専門部会の塩坂邦雄委員(株式会社サイエンス技師長)である。 

 

 「地下ダム」に前のめりだった塩坂氏は、生態系ではなく、地質の専門家として専門部会委員に任命されていた。 

 

 リニアトンネルが貫通する大井川上流部支流の西俣川の流量減少対策が話し合われた際、塩坂氏は「目先の代償措置で生態系は守れない。地下水枯渇の代償措置として地下ダムを提案する。 

 

 表流水の減少は周辺の生態系に影響を及ぼす。JR東海は地下ダムを考えるのか、そうでない場合は代替案を示すべき」などと、生態系保全のための「地下ダム」建設を求めたのだ。 

 

 そして47項目が決定される直前、2019年9月12日の地質構造・水資源専門部会で、塩坂氏は「地下ダムは日本に20カ所以上ある。生物や環境の修復ないしは復元のために地下ダムをつくったケースはない。日本で初の試みとなる」などとあらためて「地下ダム」の必要性を強調した。 

 

 おわかりのように塩坂氏は「突発湧水対応」などひと言も述べていない。 

 

 JR東海も、西俣川に建設する地下ダムのイメージ図を示した上で、「ダムの規模が小さいとしても、河川の自然環境を壊してしまい、絶対的な改変は避けられない。自然環境にさらなる影響を及ぼすから、一般的に行われたことはない」と真っ向から否定した。 

 

 塩坂氏は「地下ダムは環境に大きな負荷を与えない。これは生物多様性専門部会の協議になる。地下ダム以外の新たな代替案が示されなければ、この問題は解決しない」などと説明した。 

 

 これに対して、JR東海もあらためて「河川の中で新たな土木工事をやるという選択肢はない」とかわした。 

 

 このため、議論をまとめる森下祐一部会長は「生物多様性専門部会で議論してもらう」と逃げてしまった。 

 

 生物多様性専門部会は翌日の13日に開催された。 

 

 当然、森下部会長も出席したが、どういうわけか、「地下ダム」の議論は一切、なかった。 

 

 そもそも自然環境の代償措置で、自然環境に新たなダメージを与える取り組みが行われるはずもない。当然、「突発湧水対応」など無関係である。 

 

 ところが、生物多様性専門部会で全く議論されなかった「地下ダム」を県は47項目に入れてしまった。 

 

 単に塩坂氏の意見だから、「突発湧水対応」に入れたのである。これだけでも「地下ダム」があまりにも恣意的であると理解できるだろう。 

 

 つまり47項目とは、県専門部会委員の恣意的な意見に過ぎず、「地下ダム」同様にいい加減なものが含まれる。‟亡霊‟として棺の蓋をしておくべきだった。 

 

 だから、難波氏の意見を聞くべきだったのだ。 

 

 もし、現在の難波氏であれば、自身を含めて事務方職員がすべて交替したのだから、いっそのこと、今後、議論を行う専門部会委員すべて交替させるべきだと言うかもしれない。 

 

 そうすれば、国の有識者会議と同じ結論に到達できるかもしれないのだ。 

 

 「地下ダム」に代表されるように、いい加減な意見しか言えない専門部会を今後も続ける意味はなく、まさに税金のムダ遣いである。 

 

 これで県が専門部会を続ける目的は、単にリニア妨害でしかないことをはっきりとわかってもらえただろう。 

 

小林 一哉 

 

 

 
 

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