( 140173 ) 2024/02/17 14:28:52 0 00 慶應義塾大学理工学部(写真:TTwings / PIXTA)
2024年2月12日、慶應義塾大学の理工学部の入試が実施されました。
難関私立大学である慶應大学の入試問題ということで、多くの受験関係者から注目が集まっていたのですが、英語で驚きの入試問題が出題されました。
【画像】慶應の理工学部で出題された、村上春樹作品の英訳問題
■村上春樹の紀行文の英訳が出題
なんと、「村上春樹の書いた紀行文を英訳しなさい」という問題だったのです。
慶應大学の理工学部では、2022年度入試まで、英作文の問題自体が出題されていませんでした。
ところが昨年の入試から英作文の問題が出題され、一見するとそこまで高い英語力を求められなそうな学部でも、「英語表現の能力が求められるのか」と多くの受験関係者を驚かせていました。
「でも、さすがに毎年は出題されないのではないか? 2022年度だけの傾向で、今後は英作文が出題されないのでは」という見方もあった中で、なんと今年は去年より難しく、あの村上春樹の文章の英訳を求める問題が出題されたということで、大きな衝撃がありました。
今回、この問題を多くの東大生たちと一緒に解いてみました。その結果見えてきたことを、みなさんにシェアしたいと思います。
実際に出題された問題は以下の通りです。
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どうでしょうか? 日本語でも意味がよくわからないという人も多いと思います。
実はこの問題、下線部分自体を直訳で英語に直すのは、そこまで難しいことではありません。下線部分の日本語を見てもらえればわかると思うのですが、語彙的にはあまり難しい表現がないからです。「この単語、どうやって英語に直せばいいんだ?」と思うようなものはほとんどないと言えます。
■日本語の解釈が求められる問題
しかし、この問題は紛れもなく難問です。なぜ難しいのかと言えば、それは「日本語の解釈」が求められるからです。この問題は、下線部分以外にも、しっかりとその前後の文が書いてあります。ということは、その部分をきちんと読んで、下線部に書かれた日本語がどういう意味なのかをきちんと日本語で考える能力も求められます。
例えば、下線部に書いてある「引き戻される」という日本語は、どう訳していいのか悩むポイントになります。
「引っ張って戻される」という意味なら「pull back」などと表現できるのですが、ここで書かれていることが本当に物理的に引っ張って戻されると解釈するべきなのか、それとも比喩表現として言っているのかを解釈する必要があります。
ここは、東大生の中でも意見が分かれるポイントでした。とある東大生は、前後の文章を読むと、「故郷に呼び戻される」というような内容なので、物理的に誰かから引っ張って戻されているのではなく、自然と意識が戻されるということを示していると解釈していました。
物理的と解釈すると、この問題はこんな回答になります。
Some can't help being dragged back home again and again, and some on the other hand feel for good that they may no longer go there.(東大生Aの回答)
「being dragged back」で、「引っ張って戻される」という意味ですね。「can't help」=「せずにはいられない」という表現を使って、「故郷に引き戻される」を「引っ張って戻されざるをえない」という回答を作っています。なかなか面白い回答ですね。
それに対して、「これは全体の文脈で見れば、故郷のことをいつも『意識』しているかどうか、というのを『引き戻される』と言っているのだから、ここは『いつも思い出される』くらいの解釈でいいはずだ」と言っている東大生がいました。その東大生は、「remember」という英単語を使ってこんなふうに回答を作りました。
Some always remember their hometowns, whereas some think they couldn't come back. (東大生Bの回答)
シンプルで、緊張状態かつ時間のない試験会場で答えを作るのであれば、これくらいの回答になるのではないかと思います。
■「引き戻される」をどう解釈する?
ただし、「引き戻される」を「remember」で解釈してしまう回答は、もしかしたら減点されてしまう可能性があります。なぜなら、下線部の後ろにこんなことが書いてあるからです。
「両者を隔てるのは、多くの場合一種の運命の力であって、それは故郷に対する想いの軽重とはまた少し違うものだ。」
ここで「想いの軽重とは違う」と書いていることから、ここは物理的なものだと解釈してもいい可能性があるのです。
また、最初の具体例(新幹線で東京に戻る、の部分)をみると、こちらも実際に「想い」ではなく「物理的」に自分の身体が故郷に引き戻されるかどうかという話をしているので、やはりここは、「物理的」と解釈した東大生Aの回答のほうが正しいのではないかと考えられます。(他の人の回答はこちらをご覧ください)
いかがでしょうか? 「引き戻される」の解釈だけでこんなにいろんなことが考えられることからもわかるように、この問題は、英語の問題かと思いきや、文章の解釈・文学的な思考が求められる国語の問題だったと言えます。
これからの大学入試では、英語の文章を読む力だけでなく、表現したりする力や、そもそも日本語の読解力も求められるようになると言えます。今後も大学入試の変化に目が離せませんね。
西岡 壱誠 :現役東大生・ドラゴン桜2編集担当
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