( 140451 )  2024/02/18 13:22:16  
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自民党の麻生太郎副総裁が上川陽子外相に対して差別的な発言をしたことが物議を醸している。

その発言は、女性外相を容姿や年齢で評価することの問題や、ルッキズム(外見至上主義)の象徴、および麻生氏の過去の女性蔑視の発言と結びついて話題になっている。

麻生氏はこれまで何度も批判されてきたが、変わろうとせず、メディアもその発言を許してきたことも指摘されている。

上川氏は、麻生氏の発言について「ありがたく受け止める」と述べるなど、問題に直面しながらも抗議を避ける姿勢を見せている。

(要約)

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記者会見する上川陽子外相=2024年2月6日午後、外務省 - 写真=時事通信フォト 

 

自民党の麻生太郎副総裁は、上川陽子外相の容姿について「そんなに美しい方とは言わない」「おばさん」などと講演で触れた自らの発言を5日後に撤回した。ジャーナリストの浜田敬子さんは「これまでも差別的な発言を繰り返してきた麻生氏にはもう何を言っても無駄だろう。ただ、次期首相候補として名前が挙がる上川氏には、問題発言に対してどんな形であれ、抗議してほしかった」という――。 

 

【写真】麻生氏の発言を長年「麻生節」として許してきた政治メディアの責任も大きいのでは 

 

■褒めているのになぜ「おばさん」呼ばわり? 

 

 麻生太郎自民党副総裁の上川陽子外相に対する差別発言は大きな物議を醸したが、改めてこの発言は何が問題だったのかを考えてみたい。この問題には2つの側面がある。麻生氏の政治家としての資質の問題と、差別を受けた時の女性側の対応についてだ。特に今回は差別発言の対象となったのが、次期首相候補として名前が挙がる大臣だったというだけに、その対応が注視された。 

 

 問題の発言は1月28日、麻生氏の地元、福岡の講演会で飛び出した。麻生氏は、「このカミムラヨウコは大したもんだぜ」と発言し、「少なくともそんなに美しい方とは言わんけども」「オレたちから見てても、ほ~このおばさんやるねえと思った」と続けた。 

 

 その後、「堂々と話をして、英語できちんと話をし、外交官の手を借りずに自分でどんどん会うべき人に予約を取っちゃう」と話していることから、全体を見れば、上川氏の実力を評価しているのはわかる。だが、なぜ評価する時に容姿や年齢に言及する必要があるのか。 

 

■ルッキズムの象徴「ミス○○」は時代遅れに 

 

 今回の麻生発言は、多くの人から「ルッキズム」ではないかと指摘された。ルッキズムとは外見至上主義とも訳され、外見で人を判断したり、容姿を理由に差別したりすることを指すが、女性のほうがより晒されやすい。麻生氏は男性大臣や議員を評価する時に外見に言及するだろうか。 

 

 ルッキズムの問題点は外見への評価が入り込むことで、その人の持つ能力や業績が正当に評価されず、就職や昇進、社会的な立場で不利益を被ることだ。深刻な差別の要因にもなりかねないのに、外見と差別に問題がクローズアップされ始めたのは、日本では残念ながらこの数年だ。だがその影響で、当たり前のように大学や自治体で開かれてきた「ミス○○コンテスト」を見直す動きも広まっている。 

 

 麻生氏は当然こうしたルッキズムの概念も社会の変化も知らず、そもそも差別したという意識すらないのだろう。 

 

 

■女性を蔑視する麻生発言は初めてではない 

 

 麻生氏はこれまでにもさまざまな人権を軽んじるような発言で批判されてきた。ナチスやヒトラーの賞賛とも取れるトンデモ発言もあったが、特に今回は女性蔑視につながる発言を挙げる。 

 

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「いかにも年寄りが悪いという変なのがいっぱいいるけど、間違っていますよ。子どもを産まなかった方が問題なんだから」(副総理兼財務省時代、2019年2月福岡県芦屋町内の講演で) 

「(女性記者は)ネタをもらえるかもって、それでついて行ったんだろう? 触られてもいないんじゃないの?」「次官の番(番記者)をみんな男にすれば解決する話なんだよ」「セクハラ罪という罪はない」(副総理兼財務省時代、2018年4月、5月、当時の財務事務次官のセクハラ問題に関連しての発言) 

「そりゃ金がねえなら結婚しない方がいい。うかつにそんなことはしない方がいい」(首相時代、2009年8月、学生との対話集会で。若者に結婚資金がないことが少子化に繋がっているのではないかと指摘されて) 

「私は43で結婚してちゃんと子どもが2人いましたから、一応最低限の義務は果たしたことになるのかもしれない」(首相時代、2009年5月衆院予算委員会で) 

「東京で美濃部革新都政が誕生したのは婦人が美濃部スマイルに投票したのであって、婦人に参政権を与えたのが最大の失敗だった」(1983年高知県議選の応援演説で) 

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■なぜキングメーカーとして君臨しているのか 

 

 発言の根底にあるのは、強烈な家父長制に基づく性別役割分業意識、女は子どもを産み家事育児に専念すべきだという意識だ。2009年の学生との対話集会では、男子学生に対しては、「稼ぎが全然なくて尊敬の対象になるかというと、なかなか難しいんじゃないか」とも語っている。 

 

 こうした発言をするたびに野党やメディアから批判され、発言を撤回し謝罪するということを麻生氏は繰り返してきたが、一向に変わらない。今回も発言から5日後の2月2日に「容姿に言及したことなど表現に不適切な点があったことは否めず、発言を撤回させていただきたい」とのコメントを発表したものの、おそらく何が悪かったのか本質的な過ちを理解しようともしていないし、反省もしていないのだろう。だから、同じような差別発言を繰り返してきた。こういう人に意識変革を求めても、もう無理だし無駄だろう。 

 

 問題はこうした人物をいまだに政界の「キングメーカー」として存続させていることだ。これらの発言は決して飲み屋の放談ではない。いずれも講演会やメディアの取材という公の場でのもので、中には首相時代のものもある。公の場でこうした差別発言を繰り返す人物を政界の最大実力者として君臨させているのは、自民党や麻生氏の支持者、メディアにあるのではないか。 

 

 

■女性の容姿や年齢をネタに笑う人たち 

 

 今回の上川氏に対する発言では、「そんなに美しい方とは言わんけど」の後に聴衆から笑い声が起きている。女性の容姿や年齢は、麻生氏から見れば話のつかみで「ウケる話」の一つ、ぐらいの認識だったのだろう。ウケを狙うために女性をネタにし、貶める。そしてそれを笑う周囲。 

 

 今どの地方自治体も人口減少が深刻だが、その背景には特に若い女性たちの東京圏への流出という問題が存在する。なぜ若い女性たちが地元に残らないのか。自治体としていち早くジェンダーギャップ解消宣言をし、この問題に取り組んできた兵庫県豊岡市では、女性たちの流出の背景には、地域のジェンダー不平等、つまり男尊女卑的な職場環境や風土、慣行があると気づき、改善に取り組んできた。 

 

 この麻生発言と笑う聴衆の様子を見た地元の女性たち、特に若い女性たちはどう思ったのだろうか。 

 

■「麻生節」として許してきたメディアの責任 

 

 そしてもう1つ、麻生氏の発言を長年「麻生節」として許してきた政治メディアの責任も大きいと思う。麻生番をしていた記者から聞いたオフレコ懇談の場での発言の中には海外の首脳に関するものもあったが、漏れたら外交問題になるのでは、というほどの内容だった。だが内容以上にその発言を聞いたときの記者たちの反応が気になった。笑って受け流したのか。誰か1人でもやんわりとでも釘を刺した人はいたのだろうか。 

 

 岸田政権では2023年2月、首相秘書官だった荒井勝喜氏が性的少数者や同性婚を巡って差別的な発言をしたことで更迭された。オフレコの場での発言だったが、毎日新聞が「政権の中枢で政策立案に関わる首相秘書官がこうした人権意識を持っていることは重大な問題だ」(毎日新聞より)と判断し、あえて実名で報じた。 

 

 書いた記者は「オフレコ破り」だという非難も受けたが、私はこの記者と毎日新聞の判断は当然だと思う。内輪の話だったとしても、政権中枢にいる人物の人権感覚は、政策に大きな影響を与える。麻生氏に対してももっと早くからしつこく、オフレコ発言も含めてメディアが追求していたら、彼はこの地位にいただろうか。 

 

 仮に同様の発言を企業のトップがしたらどうだろう。今の時代、メディアだけでなく投資家、社内からも厳しく指摘され、場合によっては進退にまで発展するだろう。それだけ政界はメディアも含めて人権意識が低いと思う。そしてこのことが、女性たちが政治の世界を目指そうとしない一つの理由にもなっているのではないか。 

 

 

■「大したもんだぜ」から滲み出る優位性 

 

 麻生氏は容姿や年齢に言及しただけでなく、そもそも上川氏の指名を「カミムラヨウコ」と間違えている。それどころか、過去に川口順子氏、田中真紀子氏と2人の女性外務大臣がいたにもかかわらず、これまで女性の外相はいなかったと事実誤認の発言までしている。 

 

 故意ではないとは思うが、こうした発言は自覚なき差別、マイクロアグレッションの表れだと感じる。マイクロアグレッションとは日本では最近になって広まった概念だが、意図的かどうかにかかわらず、政治的文化的に阻害された集団に対する日常の言動に現れる偏見や差別に基づく見下しや侮蔑、否定的な態度のことを指す。 

 

 麻生氏が上川氏のことを褒めているつもりでも、名前を間違えたり、女性の外相が過去にいないという事実誤認は、意識の中に「女性には外交は任せられない、外相は務まらない」という仕事における性別による無意識の偏見があるのではないか。それが「大したもんだぜ」「やるねえ」という表現に繋がっている。 

 

 何より「上から目線」度に辟易とした人も多いのではないか。褒めながら、上川氏に対して、圧倒的な自分の優位性を誇示している。時々、男性の上司や経営層の中からも聞く、「女性の割にはよくやっている」という言葉や、女性の抜擢を自分の手柄のように「あいつは俺が引き上げてやった」という言葉と同じニュアンスを感じるのだ。 

 

■上川氏は「ありがたく受け止める」と発言 

 

 この麻生氏の発言に対して、1月30日の記者会見で問われた上川氏は、「さまざまな意見や声があることは承知しているが、どのような声もありがたく受け止めている」と発言した。 

 

 質問をした記者は女性だったが、日本のジェンダーギャップ指数が先進国では最下位、世界的に見ても後進国だということにも言及し、問題意識を持って問うていた。それだけ踏み込んでの質問だったにもかかわらず、上川氏はその問題意識に真正面から答えることなく、「ありがたく受け止める」と応じた。 

 

 さらに2月2日の参院本会議で立憲民主党の田島麻衣子氏から「年齢や容姿を揶揄するような発言になぜ抗議しないのか」と問われると、「世の中にはさまざまな意見や考え方があることは承知をしている」「使命感を持って一意専心、緒方貞子さんのように脇目も振らず、着実に努力を重ねていく考えだ」と答弁。質問に真正面から答えなかったどころか、再答弁は拒んだ。それほど上川氏にとって、「答えにくい」質問だったのだろう。 

 

 

 
 

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