( 140483 ) 2024/02/18 13:56:25 0 00 金融政策決定会合後の記者会見で話す日銀の植田和男総裁=東京都中央区で2024年1月23日、宮武祐希撮影
日銀がマイナス金利解除に「GOサイン」を出しました。しかし、今後、金融政策正常化が進む中でも現在の円安傾向は当面続きそうです。三井住友銀行チーフ・為替ストラテジストの鈴木浩史さんの分析です。【毎日新聞経済プレミア】
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ついに、日銀は一歩踏み出した。「(物価安定の目標にむけて)先行きの不確実性はなお高いものの、こうした見通しが実現する確度は、引き続き、少しずつ高まっている」との文言が1月の展望リポートに書き加えられた。以前から植田和男総裁が記者会見で使用していた表現ではあるため目新しくはない情報だが、それが声明文に近しい展望リポートに記されれば話は別だ。中銀(中央銀行)ウオッチャーとしては、これは「GOサイン」である。
また1月31日に発表された「金融政策決定会合における主な意見」において、金融政策運営に関する15の意見のうち、13の意見が前向きな姿勢あるいはマイナス金利の解除を前提としたようなものとなっている。誰が発言したかは不明だが「千載一遇の状況」との表現も見られた。一歩踏み出す、という表現よりも、明確に市場とのコミュニケーションを打ち出してきた、と言ってもいいかもしれない。
となれば、問題はマイナス金利解除のタイミングが「3月か」「4月か」ではない。ポイントは、<1>何があれば4月までに利上げができないか<2>マイナス金利解除後の継続的な利上げが見込まれるか――だ。
◇二つのポイント
1点目について思い起こされるのは、昨年のシリコンバレー銀行の破綻である。すなわち外的なショックが生じれば、日銀の利上げ観測は後退する。過去20年近く、引き締め方向へのかじ取りをしたことがない中央銀行にとって、その初動は慎重なものにならざるをえない。その意味で注意すべきは、国内外の政治、世界経済・金融情勢であろう。
国内外の政治についてはイベントに事欠かない。国内での解散総選挙の可能性がくすぶるとともに、米大統領選の予備選挙や党員集会が集中する3月のスーパーチューズデーが視野に入っている。
2点目については、会見での次のような植田総裁の発言が波紋を呼んでいる。発言を引用すれば次の通りだ。「深刻なあるいは大きな不連続性が発生するような政策運営は、現在みている経済の姿からすると、避けられるのではないか」「仮に物価見通しの達成が視野に入って、マイナス金利を解除するということになったとしても、きわめて緩和的な金融環境が当面続く」
◇植田発言の二つの解釈
この発言については次のような二つの解釈が可能だ。
一つ目の解釈としては、「緩和的な金融環境が続く」というのは、目先に目指す政策金利が想定される中立金利よりも低いということを意味している、というものだ。この場合、プラス2%の物価目標が達成された先にある中立金利がプラス1%前後であることは、非現実的というわけではあるまい。
つまり四半期ごとの利上げや半年ごとの利上げなどペースは明らかではないが、断続的な利上げの可能性はあるということだ。これは引き締め方向の話である。
二つ目の解釈としては、「大きな不連続性」がないというところで、急激な利上げを避けるということに力点が置かれている、というものだ。四半期後や半年後について外的ショックが生じる可能性が残る中、決め打ちはせず緩和的なスタンスを維持する、ということになる。
いずれの解釈も間違いではないだろう。また、金融政策正常化を巡る「二つのポイント」の1点目と2点目は地続きだ。3月のスーパーチューズデーが目先の利上げにとって懸念であるならば、9月の自民党総裁の任期満了や11月の米大統領選も当然不確実性の源泉だ。短期や中期にかかわらず、日銀としては慎重な政策運営を心掛けている、ということ以上はない。
◇当面は円安バイアスが続く
この場合、為替ドル円は、どちらの解釈に重きを置くべきか。緩和的とはいえ、今後も継続的な利上げが見込まれるならば、それは円高要因だ。一方、状況次第で追加利上げは撤回される、ということが強調されれば、それは円安要因である。日銀としては、後者に重きが置かれているように見える。一方、今後発表されるインフレ指標など経済状況次第で、金融市場は急激に前者を織り込むことが見込まれる。
すなわち、ドル円の見方にとって、日本の金融政策は当面は円安バイアスが強いと見られるところだ。筆者はドル円の見通しを考える上では米国の金融政策に重きを置いているが、日本の金融政策について考えると円安バイアスはしばらくの間続くというのが基本的な見方となる。同時に、連続利上げへの姿勢が見えた際には円高に振れる局面も想定され、注意が必要だといえよう。
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