( 140888 )  2024/02/19 14:50:38  
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2期連続の大赤字を見込む住友ファーマ。市場関係者の間では「このままでは親会社と共倒れになる」と懸念する声も上がる(写真:住友ファーマ) 

 

 「本当に大丈夫ですか」「金融機関の態度は変わっていないのか」 

 

 1月31日にオンラインで開かれた住友ファーマの決算説明会。アナリストからは、今後の資金繰りすら危ぶむような厳しい質問が相次いだ。 

 

【図表で見る】この1年でキャッシュは急減し、借金が一気に膨らんでいる 

 

 創業125年超の老舗製薬会社で、住友化学の主要子会社の1つである住友ファーマが、2期連続赤字というかつてない厳しい局面を迎えている。 

 

 同社は1月31日、2024年3月期第3四半期決算の発表と合わせて、通期業績予想の大幅な下方修正を行った。 

 

 売上高は3170億円(前期比42.9%減)、営業損益は1560億円の赤字(前期は769億円の赤字)、最終損益は1410億円の赤字(同745億円の赤字)となる見込みだ。会社側は期末までに減損損失を計上する可能性をほのめかしており、赤字は一段と膨らむ恐れがある。 

 

■抗精神病薬の売り上げの97%が吹っ飛ぶ 

 

 なぜここまで業績が悪化したのか。最大の理由は、大黒柱だった抗精神病薬「ラツーダ」が2023年2月、主戦場のアメリカで特許切れになったことにある。 

 

 ラツーダはアメリカだけで年間2000億円もの売り上げがあり、特許が切れるまでの数年間、住友ファーマの売上高の4割弱を稼ぎ出していた。 

 

 医薬品は特許が切れると、またたく間に安いジェネリック薬に侵食される。ラツーダは売り上げの大きな製品だったため、ジェネリック薬を発売するメーカーも多く、会社の想定以上のスピードで売り上げが落ち込んだ。 

 

 2023年4月~12月末のラツーダのアメリカでの売り上げは、わずか51億円(前年同期実績は1793億円)。特許切れから1年も経たずに、売り上げの97%が消えてしまったのだ。 

 

 住友ファーマの自社開発品であるラツーダは、利益貢献も大きかった。他社から導入した薬のようにライセンス料などを支払う必要がないうえ、製造コストの低い低分子薬だったからだ。粗利益率は9割に近い水準だったとみられる。 

 

 稼ぎ頭の特許切れを前に、住友ファーマも手をこまねいていたわけではない。 

 

 2012年にはがん領域への参入を目指し、アメリカのボストン・バイオメディカル社を買収した。この会社の開発品の中で、大型薬になると期待したのが、「ナパブカシン」という抗がん薬の候補だった。 

 

 

 ところが目算は大きく狂った。複数のがん種で順調に進んでいたナパブカシンの開発が、2021年までにすべて中止となる事態となった。胃がん、膵がん、結腸直腸がん向けでは、臨床試験(治験)の最終段階である第3相試験で結果がふるわなかった。開発中止に伴い、2021年3月期には269億円の減損損失を計上している。 

 

■3200億円投じて手にした基幹薬も不振 

 

 ナパブカシンの雲行きが怪しくなっていた2019年、住友ファーマはさらなる賭けに出た。同社史上最大の3200億円を投じ、スイスとイギリスに本社を置く創薬ベンチャー、ロイバント社の子会社であるマイオバント社などを買収。複数の開発品を一挙に取得したのだ。 

 

 住友ファーマの野村博社長は当時、取得した前立腺がん薬「オルゴビクス」と過活動膀胱薬の「ジェムテサ」について「(年間売上高が)1000億円に届くポテンシャルを持っている」と語っていた。同じ会社から獲得した子宮筋腫薬「マイフェンブリー」を合わせて「基幹3製品」と呼び、ラツーダの特許切れ後の主要な成長製品と位置づけた。 

 

 しかしこれらも、会社の見立てとは大きなズレが生じている。 

 

 オルゴビクスの2024年3月期の売り上げ計画は515億円だったが、第3四半期累計実績は309億円と、進捗率は6割どまりだ。ジェムテサは470億円の計画に対し5割、249億円を見込んでいたマイフェンブリーに至っては3割弱の進捗にとどまる。 

 

 こうした状況を踏まえ、住友ファーマは第3四半期決算時に3製品の通期売り上げ計画をすべて引き下げた。野村社長は決算会見で、「予想の中に(3製品の)ポテンシャルに対する期待度が過分に入っていた」と反省の弁を述べた。 

 

 当初想定したスピードでの成長が見込めなくなったこれら基幹薬などについて、住友ファーマは第4四半期に減損テストを実施する方針だ。具体的な規模には言及していないが、2023年3月末時点の同社の貸借対照表には、基幹3製品関連の無形資産が3030億円計上されている。 

 

 

 SMBC日興証券の橋本宗治シニアクレジットアナリストは「(基幹3製品で)減損が発生する蓋然性は高まっており、とくにマイフェンブリーは減損計上が不可避と考える」と分析。最大で700億~1000億円規模の減損を計上する可能性があるとみる。 

 

 とくにラツーダの特許切れ以降、住友ファーマの財務は悪化しており、2023年12月末時点の自己資本比率は32.4%と、50%以上あった2年前から大きく低下。自己資本自体、3435億円にまで減少している。 

 

 基幹薬の資産価値切り下げによってさらに財務が悪化すれば、金融機関との取引にも影響がでかねない。 

 

■短期借入金がこの1年で急増 

 

 この1年、売り上げが大幅に落ち込み、キャッシュの流出も続く中で、住友ファーマは借入金を急激に増やしてきた。 

 

 2022年12月末に2657億円あった現預金は、2023年12月末には364億円にまで減少。一方、有利子負債は同期間で2497億円から4118億円に急増した。中でも短期借入金は、56億円から2275億円にまで増加している。 

 

 短期借入金のうち、900億円はこの3月で借換期限を迎える予定だ。これは2023年3月にマイオバント社の株式を追加取得して完全子会社化した際に借り入れたもので、「メインバンク(三井住友銀行)と、返済方法について協議している」(野村社長)という。ある証券アナリストは「これが銀行や親会社のサポート姿勢の試金石となる」と分析する。 

 

 そのほかの借入金については、ロイバント社の保有株売却などで資金を捻出するという。 

 

 仮に目の前の借金の返済を先延ばしできたとしても、当面、基幹3製品の売り上げが大きく伸びる可能性は乏しく、キャッシュの流出はこの先も続くと見込まれる。会社側は短期的な止血策として、研究開発費をはじめ販管費の大幅な削減を急ぐと強調する。 

 

 野村社長は赤字の北米事業を優先して見直すとするが、すでにアメリカでは2023年に大規模な構造改革で人員削減などを行っており、追加のコスト削減余地がどこまであるかは不透明だ。 

 

 

■このままでは住友化学と共倒れ 

 

 焦点となるのは、親会社である住友化学の支援だろう。 

 

 ただ、その住友化学も今期、サウジアラビアの石油事業や住友ファーマの苦戦が響き、過去最大となる2450億円の最終赤字を計上する見通しだ。 

 

 同社の岩田圭一社長は2月2日の決算会見で、「創業以来の危機的状況」とし、来期に向けて「抜本的構造改革」を行うと言及。上場子会社が足を引っ張っている状況について問われると、「今後、抜本的改革の中で資本の持ち方をどう考えるか、体制をどうするか、については聖域なく議論していきたい」と答えた。 

 

 ある市場関係者は、「このままでは住友化学と共倒れ。最終的な救済策として(医薬品事業も展開する)住友商事に頼る手もあるが、赤字の会社を買うような行為はグループの信頼性を問われることになる。まずは売れる資産を売り、コストのかかるがん領域の研究開発を手放すなどして、最低でも赤字を脱することが必要だ」とみる。 

 

 思い切ったコスト削減により、自力で黒字化を果たせるのか。この1年が正念場だ。 

 

兵頭 輝夏 :東洋経済 記者 

 

 

 
 

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