( 140956 )  2024/02/19 22:40:48  
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和歌山県を結ぶ八郎山トンネルで大規模な施工不良が発覚した。

施工不良のため、ほぼ全面的な工事のやり直しが行われ、開通予定が2年も延期された。

トンネル内のコンクリート壁や支保工などに問題があり、検討委員会はほぼ全面的な工事を提案。

事業者は虚偽報告が明らかになり、懲戒処分を受けた。

県の監督体制にも問題があり、施工途中の確認が不十分だったことが明らかになった。

補修工事は現在進行中で、2年間かかる見通し。

(要約)

( 140958 )  2024/02/19 22:40:48  
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大規模な施工不良が判明した八郎山トンネル(和歌山県提供) 

 

和歌山県串本町と同県那智勝浦町を結ぶ八郎山トンネル(全長約710メートル)の県発注工事で、異例の事態が発生した。大規模な施工不良が判明し、県が設置した「八郎山トンネル技術検討委員会」の意見は「掘削以外の工事を全面的にやり直す」。全国的にも「前例がない」(県)というほぼ全面的な工事のやり直しが現在、行われており、開通予定は2年も延期された。なぜ前代未聞の施工不良は起こったのか。 

 

【写真】施工不良を確認するため、コンクリート壁をはがされた八郎山トンネル 

 

■「まるで昭和30年代の工法」 

 

「照明器具の設置のために穴を開けたら、コンクリート壁を貫通し、空洞が見つかった」。施工不良の発覚は令和4年12月、照明工事を担当した事業者からの県への報告が始まりだった。 

 

同トンネルは、南海トラフ巨大地震などの災害時に通行を確保する目的で県が発注。5年12月の開通を目指し、県内建設大手の浅川組(和歌山市)や堀組(和歌山県田辺市)の共同企業体が約20億3800万円で受注。2年9月に工事が始まり、トンネル本体は4年9月に完成していた。 

 

県がトンネル天井部分(幅8メートル)のコンクリート壁をレーダー調査したところ、規定では30センチの厚みが必要だが、調査範囲の約7割で基準を満たさず、最も薄いところの厚みは10分の1(約3センチ)。50カ所以上で壁面に空洞もみつかった。事業者側が工事完成時に県へ提出した書類では、規定通りの厚さを確保したと虚偽の報告がされていた。県は5年7月、浅川組と堀組を6カ月の入札参加資格停止とした。 

 

その後の調査で、トンネル内部を支えるために一定間隔で取り付けられるアーチ状の鋼材「支保工」(約700カ所)のほとんどが設計位置とずれていることも判明。さらにトンネル空間の中心線は、通常は設計図からプラスマイナス5センチの誤差に収まるはずが、最大約14センチずれていた。 

 

「レーザースキャナーや写真測量などの最新機器が十分に活用されておらず、まるで昭和30年代の工法のようだ」。現地調査を行った検討委委員長の大西有三・京都大名誉教授は驚きの声をあげた。 

 

■権限集中の現場所長「叱責される」 

 

 

検討委は、測量段階でずれが生じていたほか、コンクリート壁の厚みの管理不足、支保工の設置位置の不良などがあったと指摘。「測量機械などの使用方法を理解していない技術力不足があり、コンクリートを設計通りの厚さにしていないなど倫理観の欠如がある」(大西名誉教授)とした。 

 

検討委が示した補修方針は「内部のコンクリートを剝がし、新しい支保工を所定の位置に正確に設置し直す」と、ほぼ全面的な工事のやり直しだった。 

 

事業者側は全面的に非を認めた。浅川組は今年1月に会見し、社内調査の結果、工事当初から施工不良と虚偽報告が重ねられていた事実を確認したと報告。報道陣から「(壁面崩落など)開通後の利用者の安全に対する意識はなかったのか」と問われると、同社社長らは「おっしゃる通りです」とうなだれた。 

 

なぜ防げなかったのか。社内調査によると、現場所長には、県内のトンネル工事17件を手掛けた実績があり、権限が集中。掘削後に厳密な計測を行わず、現場所長の目視だけで工事を進めた。コンクリートの厚み不足などを現場所長は認識していたが、報告書には虚偽の記載を続けた。同社幹部らは「今後は〝お山の大将〟をつくらない」と自嘲ぎみに語った。 

 

現場所長は施工不良を重ねた理由を「叱責される」「工期が遅れる」「赤字にしたくない」「お前がなんとかしろといわれる」などと釈明。施工不良を知る現場の社員らは「内部通報制度があることを知らなかった」「現場所長の判断が絶対である」「現場所長を超えて通報できない」と述べたという。同社幹部は「内部通報制度がほこりを被っていた」と反省の言葉を口にした。 

 

同社は昨年8月、西口伸社長と池内茂雄会長を役員報酬20%減額(3カ月)、現場所長の降格など計8人を懲戒処分とした。補修工事の費用約20億円は同社が負担する。 

 

■施行中の行政確認もほとんどなく 

 

一方、県の監督にも問題があった。県の「土木工事共通仕様書」ではトンネル工事の際、コンクリートの厚みを検査すると規定。同トンネルでは68カ所で計136回の検査が必要だったが、県は「要請がなかった」として、6回しか検査していなかった。 

 

 

県の担当者は要請がなかったことを「(業者側が)コンクリートの厚み不足を隠すためだった」としながら、「要請がないことに気付いていなかった。施行途中の確認が行われていれば、このような事態に至らなかった。責任を重く受け止める」と謝罪。昨年の12月議会で、岸本周平知事は「大変遺憾。施工途中の確認が不十分であったというので、再発防止策の検討を指示している」と述べた。 

 

現在進行中の補修工事の工期は2年間。「全国的にも異例」(県)という施工不良のトンネルは、ずさん工事と虚偽報告のうえ、行政による監督不十分という不祥事も重なった末の構造物だった。(永山裕司) 

 

 

 
 

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