( 141388 )  2024/02/20 23:53:32  
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賃上げ動向 年度推移 

 

 2024年度に賃上げ予定の企業は85.6%で、定期的な調査を開始した2016年度以降の最高を更新した。ただ、規模別の実施率では、大企業(93.1%)と中小企業(84.9%)で8.2ポイントの差がつき、賃上げを捻出する体力や収益力の差で二極化が拡大している。 

 連合(日本労働組合総連合会)が2024年春闘の方針として掲げる「5%以上」の賃上げは、賃上げ実施企業のうち、達成見込みが25.9%にとどまり、前年度から10ポイント以上の大幅な低下となった。賃上げ率の中央値は3%で、政府が要請する「前年を上回る賃上げ」も、中央値ではすべての規模・産業で未達成だった。 

 物価上昇が続くなかで、賃上げの金額と広がりが景気回復の足腰の強さを左右することになりそうだ。 

 

 賃上げに必要なことでは、約7割(67.0%)の企業が「製品・サービス単価の値上げ」に言及した。同時に、2024年度に賃上げを実施しない企業のうち、過半数(53.8%)が「価格転嫁できていない」ことを理由に挙げた。収益の源の価格転嫁の実現可否が賃上げにも影響している。 

  

 賃上げの内容は、「ベースアップ」との回答が62.5%にのぼり、前年度(2023年8月調査)から6.1ポイント上昇した。厚生労働省が2月6日に発表した毎月勤労統計調査(2023年分速報値)では、実質賃金指数は前年を2.5%下回った。実質賃金の目減りが続き、ベースアップで賃金底上げを図る企業が増えている。 

  

 一方、身の丈を超えた無理な賃上げは、企業の業績悪化に拍車をかけかねない。2023年は「人件費高騰」による倒産が過去最多の59件発生した。また、賃上げの予定がない企業のうち16.0%が「2023年度の賃上げが負担となっている」を理由に挙げた。物価高や円安、人手不足に加え、マイナス金利解除の可能性など、企業を取り巻く環境は複雑化している。今後、過去最高の賃上げが実施されたとしても、企業業績に与える影響を注視していくことが必要だ。 

 

※本調査は2024年2月1日~8日にインターネットによるアンケート調査を実施。有効回答4,527社を集計、分析した。 

※賃上げの実態を把握するため、「定期昇給」、「ベースアップ」、「賞与(一時金)」、「新卒者の初任給の増額」、「再雇用者の賃金の増額」を賃上げと定義した。 

※資本金1億円以上を「大企業」、1億円未満(個人企業等を含む)を「中小企業」と定義した。 

 

 

「実施する」が過去最高の85.6% 

 

◇「実施する」が過去最高の85.6% 

 2024年度に賃上げを「実施する」と回答した企業は85.6%(4,239社中、3,631社)だった。2023年度に賃上げを「実施した」企業の84.8%を0.8ポイント上回り、定期的な調査を開始した2016年度以降の最高を更新した。 

 規模別では、大企業の「実施する」が93.1%(366社中、341社)と9割を超えたのに対し、中小企業は84.9%(3,873社中、3,290社)にとどまり、8.2ポイントの差がついた。 

 前年度の大企業(89.9%)と中小企業(84.2%)の実施率の差は5.7ポイントで、規模による差が拡大した。 

 

産業別 賃上げ動向 

 

 Q1の結果を産業別・規模別で集計した。 

 産業別では、「実施する」と回答した企業の割合が最も高いのは製造業の88.6%(1,281社中、1,135社)だった。以下、運輸業の87.9%(158社中、139社)、建設業の87.8%(609社中、535社)、卸売業の87.2%(948社中、827社)、金融・保険業の85.1%(27社中、23社)、農・林・漁・鉱業の84.0%(25社中、21社)、サービス業他の81.0%(661社中、536社)、小売業の80.5%(195社中、157社)と続く。 

 10産業中、不動産業76.0%(100社中、76社)と情報通信業77.4%(235社中、182社)を除く8産業で「実施する」が8割を超えた。 

 2023年度(2023年8月調査)との比較では、不動産業が11.6ポイント(前年度64.4%)、金融・保険業が6.4ポイント(同78.7%)、運輸業が5.6ポイント(同82.3%)と、それぞれ5ポイント以上の大幅な上昇だった。 

 物価上昇に伴う賃上げ機運の高まりで、前年度が低水準だった不動産業や金融・保険業でも賃上げ実施率が上昇したほか、人手不足が課題となっている運輸業でも、人手確保の必要性などを背景に賃上げが進んでいる。 

 

 

 規模による実施率の差が最大は不動産業で、大企業の「実施する」が100.0%(11社中、11社)に対し、中小企業は73.0%(89社中、65社)で27.0ポイントの差がついた。 

 以下、運輸業が大企業100.0%(13社中、13社)に対して中小企業86.8%(145社中、126社)で13.2ポイント差、建設業が大企業100.0%(31社中、31社)に対して中小企業87.1%(578社中、504社)で12.9ポイント差と続く。人手不足の産業では、人材確保のための賃上げも多いが、原資を確保できない中小企業などでは、賃上げを断念せざるを得なくなっている可能性もある。 

 規模による実施率の差が10ポイントを下回ったのは、製造業とサービス業他の2産業のみ。 

 

「ベースアップ」実施が6割 

 

◇「ベースアップ」実施が6割 

 Q1で「実施する」と回答した企業に賃上げ内容について聞いた。3,475社から回答を得た。 

 最多は、「定期昇給」の81.5%(2,833社)だった。以下、「ベースアップ」の62.5%(2,172社)、「賞与(一時金)の増額」の43.3%(1,507社)と続く。「ベースアップ」実施企業は、2023年度(2023年8月調査)の56.4%を6.1ポイント上回り、6割台に乗せた。 

 規模別では、「定期昇給」が大企業の85.1%(329社中、280社)に対して中小企業は81.1%(3,146社中、2,553社)で4.0ポイント、「ベースアップ」が大企業の67.4%(222社)に対して中小企業は61.9%(1,950社)で5.5ポイント、それぞれ大企業が上回った。 

 一方、「賞与(一時金)の増額」は大企業が38.6%(127社)に対して中小企業が43.8%(1,380社)で、中小企業が5.2ポイント上回った。 

 基本給に関わる賃金の底上げは長期の負担となるため、中小企業では賞与(一時金)の増額で賃上げに対応する傾向が続いている。 

 また、「新卒者の初任給の増額」は大企業の実施率が40.4%(133社)なのに対し、中小企業は24.7%(779社)にとどまり、15.7ポイントと最大の差がついた。人手不足や少子化が深刻化するなか、初任給の差の拡大は中小企業の新卒採用にも影響を与えかねない。 

 産業別では、運輸業の「ベースアップ」実施率が74.8%(135社中、101社)で、唯一7割を超えた。 

 

 

賃上げ率(前年度比) 

 

◇「5%以上」は25.9%にとどまる 

 Q1で「実施する」と回答した企業に賃上げ率を聞いた。1,782社から回答を得た。 

 レンジ別の最多は「3%以上4%未満」の32.7%(583社)だった。以下、「5%以上6%未満」が19.6%(350社)、「2%以上3%未満」が19.4%(347社)の順。 

 賃上げ率の中央値は、すべての規模で3%だった。 

 連合が2024年の春闘方針として掲げる「5%以上」の賃上げを回答した企業は25.9%にとどまり、前年度の36.3%から10.4ポイントの大幅低下となった。物価上昇が継続する一方で、対応する賃上げを持続できている企業は少数にとどまることが浮き彫りとなっている。 

 

賃上げ率 産業別 中央値(全企業) 

 

 賃上げ率を前年度と比較した。 

 2023年度の賃上げ率の中央値(2023年8月調査)は、全企業と中小企業が3.5%、大企業が3.1%だった。2024年度はすべての規模で3%にとどまり、前年度を下回った。 

 産業別では、10産業中、8産業で賃上げ率の中央値が前年度を下回った。運輸業とサービス業他はそれぞれ3%で前年度と同水準だったが、前年度を上回る賃上げ率の産業はなかった。 

 政府は物価高に対応するため、前年を上回る賃上げを要請している。しかし、物価高や円安など、コストアップが続くなか、前年度以上の賃上げが現実的ではない企業も多いとみられる。 

 

産業別 賃上げ率 

 

 産業別では、賃上げ率「5%以上」の回答の割合が最も高かったのは、卸売業の33.5%(408社中、137社)だった。 

 以下、サービス業他の33.2%(259社中、86社)、不動産業の31.5%(38社中、12社)、金融・保険業の27.2%(11社中、3社)と続く。2024年度の賃上げ率が「5%以上」となる企業の割合が3割を超えたのは、10産業中、3産業にとどまった。 

 また、賃上げ率「5%以上」の割合が最も低かった製造業は17.4%(549社中、96社)で、最高だった卸売業とは16.1ポイントの差がついた。 

 人手不足の深刻さやアフターコロナでの業績回復度合いなども背景に、産業による二極化が目立った。 

 

 

 
 

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