( 141768 )  2024/02/22 00:32:44  
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写真はイメージです(gettyimages) 

 

 スーパーやコンビニへの導入が進むセルフレジ。歓迎する人がいる一方で 店ごとに微妙に違うルールに戸惑ったり、客が労働を提供するにもかかわらず、有人レジと値段が同じことを疑問視する人も。あなたはどう考えますか? AERA 2024年2月26日号より。 

 

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「並ばずに支払いが早くできて便利。導入はうれしいですね」 

 

 愛知県に住む女性(60)がいつも買い物をするスーパーでは3カ月前、客が商品バーコードの読み取りから支払いまで自ら行う「セルフレジ」が導入された。 

 

「レジが6列あって、二つがお金のやりとりも店員さんとする有人レジ。残りが支払いだけは客がやる『セミセルフレジ』。その傍らにセルフレジが六つ新設されました。私は必ずセルフレジを選びます」 

 

 なぜか。女性には「早くて便利」以外にも理由がある。 

 

「レジには近所の知り合いがパートで入っていることも多い。買った商品を見られたくない気持ちもあるので、セルフレジはありがたいです」 

 

■取り残される悲しさ 

 

 人手不足の解消や業務の省力化を目的に導入が進むセルフレジ。2023年のスーパーマーケット年次統計調査によると、回答があった283社のうち、セルフレジを設置している店舗があると回答した企業は31.1%。年々増加傾向にある。 

 

 またコンサルティング会社「MS&Consulting」が20代から50代を対象に昨年行った調査では、スーパーでふだん使うレジの形式について「セルフレジ」と答えた人が6割を超えた。 

 

 作家で生活史研究家の阿古真理(あこまり)さん(55)も広がりを実感している一人だ。セルフレジが併設されているスーパーでは使うことも多いという。 

 

「たしかに便利です。ただ、東京23区内の某大手スーパーの店舗が『セルフレジのみ』だったのには驚きました。高齢者も多い土地柄。困っている人も多いのではと心配になりました」 

 

 東京都内で一人暮らしをする88歳の女性は最近、近所のスーパーに買い物に行くのが憂鬱(ゆううつ)になってきたという。 

 

 

「セルフレジが導入されたんです。セミセルフレジにもなかなか慣れずただでさえ自信がなくなっているのに、社会から取り残されていく悲しさを感じます」 

 

 お年寄りも時間がたてば慣れるはず。そんな声もある。しかし、先述のコンサル会社の調査では、セルフレジに「若干抵抗がある」と答えた人は年代を問わず一定数存在し、年齢が上がるほど増えている。阿古さんは言う。 

 

「常にその時点での初心者やITが苦手な人は存在します。ITの進化があまりに速く、想定外のところでつまずく人たちに対するシステム開発側や導入する企業側の想像力が、追いついていないのではないか。誰もが対応できる前提で『お年寄りが困ろうが、お構いなし』で進むセルフレジ導入を見ていると、そんなことも気になります」 

 

 別の面から、セルフレジ導入に疑問を持つ人もいる。熊本県の司法書士、松山洋さん(74)は「客が自分でレジの作業をしながら、代金は有人レジと同じなのはおかしい」と指摘する。 

 

「ガソリンスタンドでも、セルフで給油すれば1リットルあたり数円安くなりますよね。客が労働を提供するのであれば、価格に反映されるべき。でなければ客は店の労働力の一部にただ利用されていることになる」 

 

■「店側の態度が不遜」 

 

 松山さんはセミセルフレジの支払い方、つまり「お金を機械に対して支払う」ことにはまったく異存がないのだと言う。 

 

「請求金額が確定してしまえば、支払いは買い主側の義務になりますから支払う先が人間でも機械でも関係ありません。自らバーコードを読み取るという形で『自分で請求し、自分で支払総額を確定させる』というその行為が、不合理なんです。そんなことを客に求める店側の態度は不遜だと、私は思います」 

 

 この声を、店で働く人はどうとらえるのか。大手100円ショップなどで約10年のレジ打ち経験があり、漫画『チェッカー鳥海さん、レジまでお願いします』の著書もある狸谷(たぬきや)さん(40代)は、昨年秋に勤務先の店舗でセルフレジが導入され、「ありがたかった」と言う。 

 

 

「私が勤める店舗は従業員4人でまわしていましたが、有人だとレジに3人とられるんです。忙しすぎて品出しが追いつかず、倉庫に品物はあるのに棚がスカスカでお客さまにお叱りを受けることもありました」 

 

 導入後は、そのアテンド担当が1人で、サブアテンドが1人。かなり余裕ができたという。 

 

「お客さまの買いたいものが売り場にない、という状況がなくなりました。たしかにお客さまにレジ行為を負担していただいている形ですが、その分、お買い物の環境をきちんと整えられた。そことの『引き換え』になっているのかなと思います」 

 

 とはいえ店員には、導入したからこその「苦労」もある。 

 

「60代くらいの男性がセルフレジに曲がった硬貨をたくさん入れてシステムにエラーが出てしまい、回復作業に戸惑っていたら『もっと勉強しとけ!』と怒鳴られたこともあります」 

 

 狸谷さんの店舗は大手スーパー内にあり、スーパー専用の電子マネーを使いたい客も少なくないため、それ専用の有人レジを一つだけ残してある。ある日、50代くらいの女性が「電子マネーで払いたい」というので有人レジに誘導すると、実は現金での支払いだったという。 

 

「指摘すると、『セルフレジだとわかってたら来なかった!』とキレられました。どうやらセルフレジが嫌だったみたいで(笑)。うそをついてまで有人レジに並ぶ人、多いです。バーコードの読み取りがうまくいかず時間がかかり、イライラをぶつけてくるお客さんもよくいました」 

 

(編集部・小長光哲郎) 

 

※AERA 2024年2月26日号より抜粋 

 

小長光哲郎 

 

 

 
 

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