( 141883 )  2024/02/22 14:07:05  
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ここ最近、増えている昆虫食レストラン。写真はANTCICADA(アントシカダ)。時計回りにコオロギビール、コオロギラーメン、ハムシのデザート、ナマズの蒸し物(写真:共同通信社) 

 

 食用コオロギの養殖・加工を手掛けるクリケットファームが2024年1月に破産した。 

 

【閲覧注意】ハムシの幼虫のデザート(写真) 

 

 国際連合食料産業機関(FAO)は2013年に、今後、世界の人口が増加していくにあたり、人類は深刻な食糧難に直面すると発表した。FAOは報告書の中で、食糧難、特にタンパク質不足の解決策の一つとして昆虫食を推奨。これを機に、昆虫食ビジネス業界には、ベンチャー企業が次々と参入した。 

 

 クリケットファームも、その波に乗って2021年にコオロギ養殖ビジネスを開始したが、参入からわずか3年で破綻した。クリケットファームの破綻を受け「昆虫食ビジネスは時期尚早」「そもそも昆虫を食べること自体に無理があった」との意見もある。果たして、本当にそうなのか。消費者の心理的な抵抗感を減らした昆虫食品の研究開発を行うFUTURNAUT株式会社 代表取締役CEOの櫻井蓮氏に話を聞いた。(聞き手:関瑶子、ライター&ビデオクリエイター) 

 

 ──クリケットファームの破綻について、「SDGsというきれいごとだけではビジネスできない部分と、ベンチャー投資ブームが終わったという2つが重なった事例」と分析する経済ジャーナリストもいます。櫻井さんは、クリケットファームの破綻の要因はどのようなところにあると思いますか。 

 

 櫻井蓮氏(以下、櫻井):まず、私はクリケットファームのようなチャレンジングな会社があったということは非常に良いことだと思っています。昆虫養殖という事業で、投資を集められる見せ方ができたということは評価すべき点です。 

 

 クリケットファームに対しては、設備投資先行型で、生産側にフォーカスを当てたビジネスモデルを描いている会社という印象を持っていました。生産能力を備えてはいたものの、生産したものをどのように売るか、誰に買ってもらうか、という出口が見い出せず、設備投資分を回収できなかった、ないしは資金がショートしてしまったのかもしれません。 

 

 ──櫻井さんご自身も、昆虫食を手掛けるFUTURENAUT(フューチャーノート)という会社を2019年に設立しています。現時点で、日本国内で昆虫食を手掛ける企業はどの程度あるのでしょうか。 

 

 櫻井:「昆虫食の企業」をどのように定義するかによります。「昆虫を安定的に養殖し、それを食用に利用している会社」とすると、2024年2月時点で、私の知る限りでは20社程度です。 

 

 ──昆虫食ビジネスを手掛ける会社のホームページをいくつか確認したのですが、多くの会社がコオロギを用いていました。昆虫食ビジネス業界では、なぜコオロギが人気なのでしょうか。 

 

 櫻井:まず、コオロギは養殖しやすい昆虫です。イナゴのように自然採集型の昆虫を扱ってしまうと、突発的に需要が高まったときに、供給が追い付きません。生産量のコントロールができないのです。 

 

 また、需要が増えたときに、乱獲により生態系にダメージを及ぼしかねません。昆虫食ビジネスでは、使用する昆虫は自然界とは切り離して養殖できるものが好ましいと思います。 

 

 さらに言うと、コオロギは集密飼育ができる昆虫です。カブトムシを飼ったことがある方は多いと思いますが、幼虫をさなぎにするときには、一つずつ容器を分けなければなりません。1匹1匹のサイズは大きいですが、集密飼育ができないので、生産性が悪い。 

 

 次に、コオロギは餌の入手が容易です。養鶏用飼料、養殖魚用の飼料など身近なもので飼育できます。 

 

 最後は、やはり味です。昆虫の中では、コオロギは比較的風味が良く、食べてみて、親しみがない味はしません。 

 

 養殖のしやすさ、餌、味。この3つの条件をクリアしていて現時点で優位性があるのがコオロギです。今後、生産量を安定的に増やしていける可能性が高い昆虫、ということで、多くの企業がコオロギの食用化を試みている状態です。 

 

 ──「風味が良い」とのことですが、コオロギはどんな味なのですか。 

 

 

■ コオロギは与えるエサで味が変わる 

 

 櫻井:エビのような風味だとよく言われます。私自身は、エビというよりも、もっと植物に近いナッツのような味だと感じています。 

 

 コオロギも、餌を変えたりすると味が変わります。弊社(FUTURENAUT)のコオロギは、穀物系の餌を多く与えているので香ばしい。先ほど申し上げたような、ナッツのような風味です。 

 

 ──コオロギ以外で、食用として注目されている昆虫はいるのでしょうか。 

 

 櫻井:エリー株式会社は食用蚕の普及を掲げていますし、群馬県にラボを置くフライハイはハエの一種であるイエバエの養殖と商品化を手掛けています。ほかにも、TAKEO株式会社ではトノサマバッタ、Buzcycleはミルワームなど、さまざまな昆虫が食用として注目されています。 

 

 ミルワームは、飼育動物の餌として飼育されるゴミムシダマシ科の甲虫の幼虫の総称です。ミミズのような見た目をしていて、かなりパンチがあります。 

 

 ──倒産してしまったクリケットファームと、櫻井さんの会社(FUTURENAUT)では、どこに違いがあるのでしょうか。 

 

 櫻井:クリケットファームさんの全容を知っているわけではないので、違いについてはっきりと申し上げることはできません。 

 

 ただ、私たちは昆虫食に理解を示してくれる人を増やして市場を大きくしていき、それに伴って生産量を増やしていこうというアプローチです。 

 

 一方で、お金を集めて、とりあえず工場をつくり、生産キャパシティを確保して、用途はつくってからという考え方は、日本の商習慣としてあるようです。私たちは、現時点では多くの商品を提供できるようなキャパシティはありません。 

 

 現在、私たちは食品メーカーさんとトライアルで商品開発をしたり、実際に商品を販売してみてお客様の反応を見たり、イベントをしたり。そういう小さなチャレンジを積み上げて「昆虫を食べる」ということを正しく理解してもらおうと考えています。 

 

 なので、今は必要な投資を受けながら足元を固めているという状況です。食べてくれる人を増やしていき、そういう人が食べたくなるような付加価値をつけていくための研究開発に重きを置いています。 

 

 ──食べてくれる人を増やすためには、どのような工夫が必要なのでしょうか。 

 

 

■ 昆虫食普及の一番のハードル 

 

 櫻井:なぜそれを食べるのか、食べるメリットは何なのかということをわかりやすく説明することです。もちろん、食べる理由は人それぞれでかまいません。おいしいから食べる、身体にいいから食べる、みんなが食べているから自分も食べてみよう、何でもいいと思います。 

 

 ただ「おいしいから食べる」「身体にいいから食べる」というところは、私たちの食事にとっても非常に大事なところです。これまで、なぜコオロギを食べるのか、なぜ昆虫を食べるのかという問いを幾度も投げかけられました。 

 

 私たちがすべきことは、昆虫でしか出せない食感や味、おいしさを追求していくことです。また、今はいくつかの大学と連携してコオロギを食べることによって身体にどのようないい影響があるのか、という研究もしています。 

 

 どうやら、コオロギを食べることによって、身体のある部分に非常にいい効果があるというデータが出ています。これについてはまだまだエビデンス不足ですが、今後も研究を続けて、将来的には機能性の部分を推し出すことができればいいなと思っています。 

 

 ──昆虫食を普及させるにあたって、一番のハードルはどのようなところにありますか。 

 

 櫻井:昆虫食というより、昆虫そのものに対する嫌悪感だと感じています。 

 

 昆虫はしばしば「害虫」と表現されます。「害虫」という言葉によって、昆虫が汚いものであるだとか、衛生的に良くないものだという印象を受ける人も多いと思います。虫に触ることすら躊躇する人は、虫を食べようとはしないでしょう。 

 

 ただ、これはあくまでもマジョリティのハードルだと私は考えています。実際に今食べてくださっているお客様も含め、マイノリティかもしれませんが食用昆虫の消費者はちゃんと存在しています。 

 

 そういった方たちに気軽に食べていただけるようにコストを下げていったり、商品のバリエーションを増やしていったりする必要があります。そこも一種のハードルなのかもしれません。 

 

 ──今後の目標について教えてください。 

 

 

■ 「昆虫食が無視される時代になればいい」 

 

 櫻井:もともと会社を立ち上げたときは、昆虫食文化が普及して、たくさん原料を使っていい商品が作れればいいと考えていました。今は、その一歩手前のところを目標としています。昆虫食について、正しく理解してもらうことです。 

 

 2023年2月に、徳島県の県立小松島西高校でコオロギエキスを使った給食が出されたこと(※)が、大炎上しました。その際、さまざまな情報が拡散されました。その中には、昆虫食に対する不安や懸念のような正論もあれば、明らかに間違っているものもありました。 

 

 昆虫食を強制したというような書き込みもありましたが、小松島西高校も含め、私たち昆虫食業者も昆虫食を無理強いはしていません。潜在的な顧客も含め、食べたいと言ってくれる人がいるから、そういった人たちがちゃんと食べられるように商品を提供しているだけです。その考え方は、他の食品メーカーと何ら変わりません。 

 

 ※小松島西高校の食物科で、食用コオロギの粉末を使った集団給食を出したところ、ネットなどで炎上。クレームが殺到する事態となった。学校給食ではなく、専門科目での集団給食であり、試食は希望者のみ、アレルギーなどについても説明していた。 

 

 今回、クリケットファームという会社が倒産しました。これが、昆虫食の会社ではなく、普通の街のお菓子屋さんだったら、マスコミも何も言わなかったでしょう。 

 

 同業のお菓子屋さんに、「お隣のお菓子屋さんが倒産しましたけれども、なぜあそこは潰れたんでしょうか」なんてインタビューはしませんよね。昆虫食の会社だから騒がれたということが多分にあると思います。昆虫食の会社は、まだまだ社会的には珍しく、特別扱いをされていると感じました。 

 

 私としては、最終的に昆虫食が当たり前になって、無視されるようになればいいと思っています。昆虫食の新しい会社ができようが潰れようが、大きく取り上げられることはない。スーパーやコンビニに昆虫食の商品が普通に並んでいて、食べたい人はそれを買って食べる。食べたくない人は無視すればいい。 

 

 目標というところでは、第1段階では、昆虫食について正しく理解してもらうこと。次に、さまざまな活用方法を模索し、商品を上市する中でお客さんを増やしていくこと。そして最終段階として、昆虫を食べたくない人、嫌いな人に関しては、昆虫食商品を無視するような世の中になっていけばいいなと思っています。 

 

 関 瑶子(せき・ようこ) 

早稲田大学大学院創造理工学研究科修士課程修了。素材メーカーの研究開発部門・営業企画部門、市場調査会社、外資系コンサルティング会社を経て独立。You Tubeチャンネル「著者が語る」の運営に参画中。 

 

関 瑶子 

 

 

 
 

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