( 142863 ) 2024/02/25 14:00:00 0 00 京葉線(画像:写真AC)
先日、筆者(北村幸太郎、鉄道ジャーナリスト)が当媒体に「京葉線「ダイヤ改悪」はなぜ防げなかったのか? JR・行政の間に横たわる“構造的問題”を考える」(2024年1月28日配信)という記事を寄稿したところ、大きな反響があった。
【画像】えっ…! これが60年前の「蘇我駅」です(計14枚)
JRの対応の
「ずさんさ」
はこの記事で明らかになったと考えている。
このほか、東洋経済オンラインにも「通勤快速廃止で炎上、京葉線ダイヤ「3つの疑問」 快速の各駅停車化で「混雑の偏り」は解消する?」(2024年2月3日配信)を書き、問題点をすべて洗い出したつもりだったが、それは甘かった。
なんと、京葉線通勤快速の廃止で東京~蘇我(千葉県千葉市)間の所要時間が20分増と、各社が報道したが、これが前回のダイヤ改正と合わせ
「実質24分増(1.2倍)」
であることが発覚したのだ。
筆者は朝の蘇我駅から、騒動の渦中にある京葉線通勤快速に乗ってみた。2016年に千葉市内の実家から通勤していた時期があったが、蘇我から通勤快速に乗ったのは一度だけで、そのときは速かった。
当時は速度制限がない限りほぼ時速90km台を維持する走りで、朝は蘇我~東京39分、夕方も東京~蘇我33分だった。ところが2024年、改めて乗ってみると、明らかに速度が落ちていることにすぐに気がついた。
衛星利用測位システム(GPS)アプリで計測したところ、千葉市内の大部分を時速70km台で走り、海浜幕張駅は60kmほどで通過。南船橋も40kmで通過するという鈍足ぶりだ。なお、南船橋を8時13分頃に通過する列車に乗っていたのだが、前後の列車との間隔は4分ずつ開いており、南船橋までは詰まるようなダイヤではない。にもかかわらず遅かったのだ。
反対に夕方の通勤快速も、海浜幕張で各駅停車を追い抜いた後は70kmか60km台で走っていた。今の時刻表で調べてみると、朝は蘇我~東京39分が42分に、夕方の東京~蘇我33分が37分へと、4分遅くなっていたのだ。
ちなみに、朝は葛西臨海公園(東京都江戸川区)で各駅停車の追い抜きが行われず、舞浜からゆっくり走っているが、これは10年以上前からで、葛西臨海公園で追い抜きをするかしないかで時間が延びるわけではない。また、2022年の改正では各駅停車が2本減っているが、これはむしろ速くしやすい条件だったことを付け加えておきたい。
蘇我駅の位置(画像:OpenStreetMap)
問題は、「いつから」遅くなったのかである。
過去の時刻表から、少なくとも2022年春改正のダイヤでは、朝は蘇我~東京39分、夕方の東京~蘇我33分のダイヤだった。変わったのは今回の騒動の2024年春改正の1年前、2023年春改正だったのだ。
もし通勤快速がもともとの速いダイヤのまま廃止となるなら、報道各社は東京~蘇我間約25分、往復50分増と報道することになったはずだ。また、インターネット上では
「総武快速線経由に切り替えれば時間差は少ない」
という投稿も散見されたが、総武快速線経由だと朝の蘇我~東京は50分、東京~蘇我は47分と、どちらも速かった頃の京葉線通勤快速と比べると朝は10分越え、夕方は15分近くの差であった。2023年ダイヤ改正で鈍足化した京葉線通勤快速との比較だと、どちらもその差はきれいに10分以内に収まっているのだ。そうすれば
「ほら。総武快速と10分も差がないんだから通勤快速なくしても許容範囲でしょ」
といえる。つまり、現在の京葉線通勤快速のダイヤは、通勤快速廃止の影響を小さく見せる“世論誘導”のための
「牛歩戦術ダイヤ」
だと思われても仕方がない。これについてJR千葉支社に問うと
「弊社内関係部署に確認いたしましたが、そのような目的で2023年春のダイヤ改正を行った事実はございません」
とのことだった。だが、減速の目的が何であれ、通勤快速の廃止によって、2023年春のダイヤ改正の減速分が考慮された場合、実質片道24分、往復で47分も運行が遅くなることに変わりはない。読者の皆さんはどう思われるだろうか。
ちなみに、廃止直前に乗った東海道線の通勤快速は、品川~川崎間の普通列車より30kmほど遅く走っていたことを付け加えておきたい。
千葉市長がいうように、そんなにゆっくり走るのなら、海浜幕張にも通勤快速を止めて、各駅停車の接続をやってもいいのではないか。そうなると、通勤快速が混雑するのではないかと心配する人もいるかもしれないが、その心配はなさそうだ。
京葉線は1両あたり約160人が定員だ。座席定員は54人である。この数字から察するに通勤快速の乗車率は80%程度である一方、海浜幕張発車後の各駅停車も平均70%程度だ。各駅停車に乗っている人のうち、座っている人は残ると仮定して計算すると、海浜幕張で各駅停車から乗り換えてくる乗客を足しても、通勤快速の乗車率は120%程度で収まるだろう。各駅停車と通勤快速両方とも7分30秒おきで1対1の本数比率にするのが望ましいが、この水準なら各駅停車からの乗り換え客2本分受けても収まるレベルだろう。反対に各駅停車は乗車率が減り、需要が旺盛な新浦安からの乗客を受ける余裕が増える。
だが残念ながら他誌で既報の通り、次のダイヤ改正では通勤快速1本が実質特急化により、これまで蘇我7時44分発、東京8時26分着の通勤快速がなくなる代わりに、蘇我7時39分発、東京8時25分着とほぼ同じ時間枠で特急が設定される。
「25分の早起きか、特急への課金か」
の選択を露骨に迫るJR東日本。しかも特急化によって蘇我~東京間は無停車にもかかわらず所要時間が42分から46分と、さらに4分遅くなるではないか。そうするともう累積で7分遅くなることになるが、一体これのどこが
「沿線価値の向上」
につながるというのだろうか。おそらく葛西臨海公園の追い抜きをしないだけでなく、新浦安での追い抜きもやめて時間が延びるのではないかと予想される。
武蔵野線列車で混雑が増した複線の京葉線、特急でも所要時間が増えて海浜幕張にも新木場にも止める気がないなら、ラッシュ時の特急は複々線の総武快速線経由にすべきではないか。通勤快速や朝夕の快速を各駅停車の運転間隔是正のためになくすなら、京葉線の途中駅で乗降できない特急もなくすか走らせる線路を変えるのがスジだろう。
一般的に総武快速線のような15両編成の中距離列車は3分間隔、1時間最大20本までは走らせられる。最も本数の多い津田沼~東京間でも1時間最大18本とまだ余裕があり、特急「さざなみ」や「わかしお」が入り込める余地はある。
また、京葉線はもともと15両まではホームも車庫も伸ばせる設計となっており、通勤快速にグリーン車を連結して特急を置き換えれば、通勤輸送の邪魔をせずに着席サービスを提供できる。
奥沢駅(画像:写真AC)
一方で、私鉄では沿線価値向上のための取り組みとして、京葉線とは逆に追い抜きを増やすことに積極的だ。
東急では東横線と目黒線の都心側の駅で追い越し設備を増やしており、東横線では中目黒駅手前の祐天寺駅で幅が広かったホームを削って追い越し設備を新設。目黒線では大岡山駅手前の奥沢駅で、車庫用地を削って追い越し設備を新設し、通勤特急や急行の所要時間を3分短縮した。たった3分のためにここまでの努力をしているのだ。
しかも東急の場合、急行系と各駅停車の本数の比率を1対1にして交互に運転させる「パターンダイヤ」により、JRがダイヤ改正理由とする
「運転間隔の適正化」
も両立している。追い越し設備を持ちながら追い抜きをせず、鈍足化に熱心な京葉線とは対照的だ。
追い抜きのオペレーションを減らしたいのは武蔵野線からの合流や指令業務の煩雑性があるからだろうが、相鉄本線、いずみ野線から途中駅での分岐合流がある東急の方がはるかに難しいはずだ。それでもやり切っているのだ。
京葉線のような極端な変更に対して、私たちが影響を与える方法はないのか。鉄道事業法には、
●第23条 事業改善の命令 国土交通大臣は、鉄道事業者の事業について輸送の安全、利用者の利便その他公共の利益を阻害している事実があると認めるときは、鉄道事業者に対し、次に掲げる事項を命ずることができる。
という規定があり、その改善命令が出せる項目のなかには
「二 列車の運行計画を変更すること」
というものもある。
今回の京葉線問題では列車ダイヤの業務改善命令を出せる可能性はあるのか。国土交通省鉄道局都市鉄道政策課鉄道サービス政策室に確認したところ、業務改善命令の対象になるか回答できないとしつつ、一般論として、
・ダイヤは届け出制である ・先日の大宮付近の新幹線架線事故でさえ警告書を出すにとどめており、業務改善命令はよほどのことがない限り出さないくらいの重いものである。 ・ただ沿線自治体には理解を得られるようコミュニケーションを取りながらやってほしいとは兼ねてからお伝えしている。
との回答だった。
JR東労組千葉地方本部のウェブサイト(画像:JR東労組千葉地方本部)
鉄道事業法23条の適用が難しくとも、沿線自治体の力が徐々に実りをもたらしている。JRは1月15日に早朝の快速2本の継続を表明。その後、毎年3月のダイヤ改正のタイミング以外の見直しの可能性にも言及した。
また当初は、特急列車についても10両編成の運転を取りやめ、5両への減車をするとしていたが、JR東労組千葉地方本部のウェブサイトによると、この特急減車もいったん撤回となり、6月28日まで朝の上りわかしお2号を10両編成とするほか、その他ラッシュ時に運転されるさざなみ号1往復と、わかしお上り5本、下り6本を9両編成とするとの説明が会社側からあったという。
有料の特急とはいえ、取りあえずは通勤快速利用者の受け皿は確保されるようだ。だが通勤快速利用者の半数が降車する新木場駅は通過だ。新木場駅への臨時停車についても検討すべきである。
かつて「進化する毎日 京葉線」というキャッチフレーズがあった京葉線だが、近年は明らかに「退化する毎日」である。今後もダイヤ談義が盛り上がるよう、筆者はわずかな変化も率先してキャッチしていきたい。
北村幸太郎(鉄道ジャーナリスト)
|
![]() |