( 142868 ) 2024/02/25 14:12:38 0 00 報道陣に公開されたリニア中央新幹線の改良型試験車。2023年3月2日午後撮影。山梨県都留市(画像:時事)
リニア中央新幹線は2027年の開業を目指して工事が進められている。しかし、静岡県が「水問題」を理由に県内を貫通する南アルプストンネル(仮称)の静岡工区の着工を認めないことから、2027年の開業は現実的ではなくなり、JR東海は開業予定を2027年以降に改めることになった。
【画像】「えっ…!」 これがJR東海の「年収」です(16枚)
リニア中央新幹線をめぐる諸問題については、これまでにも数多くの記事があるが、本稿ではリニアに対する賛否両論の全体像を整理してみたい。
山梨県立リニア見学センター(画像:写真AC)
リニア中央新幹線は、2027年以降の品川~名古屋間の先行開業を目指し、JR東海が建設中だ。リニアとは超電導磁気浮上式リニアモーターカーを使用した磁気浮上式鉄道を指し、最高設計速度は時速505km。品川~名古屋間を
「最速40分」
で結ぶ予定だ。最終的には新大阪駅までの建設が計画されており、開業予定は最短で2037年。品川~新大阪間は最短67分で結ばれる。
JR東海はリニア中央新幹線の建設意義について、東京~名古屋~大阪の三大都市圏を短時間で直結することでひと続きの巨大都市圏を誕生させ、日本の国際競争力を大きく向上させるための好機をもたらすこと。さらに、東海道新幹線の経年劣化が進んでいることや、大規模災害に対する抜本的な備えとして、リニア中央新幹線の早期実現を図ることで三大都市圏を結ぶ大動脈路線を2重系化しバックアップ路線とすることと説明している。
さらに、リニア中央新幹線が実現すれば、東海道新幹線の「のぞみ」に該当する列車は、リニア中央新幹線に移ることになり、停車駅の多い「ひかり」「こだま」の運行が主体となることから、
「これまでのぞみの通過していた駅に停車する新幹線が増え、そうした駅での利用機会の向上や東海道新幹線の沿線の活性化に寄与できる」
というものである。
なお、のぞみについては、東京~新大阪間の停車駅は、品川、新横浜、名古屋、京都に絞られており、この間にある
・静岡県(熱海、三島、新富士、静岡、掛川、浜松) ・岐阜県(岐阜羽島) ・滋賀県(米原)
の駅には停車していない。
なお、品川~名古屋間のリニア中央新幹線の総事業費は、2021年4月に当初の計画の5.5兆円から1.5兆円増え
「7兆円」
になることが発表されている。このとき公開された資料によれば、JR東海の2027年以降の長期債務残高は約6兆円に達し、そうした状況が数年間続くということになる。しかし、JR東海は、過去の長期債務の返済実績から
「6兆円程度であれば会社として十分に耐えられる」
という考えを示している。
JR東海が運行する東海道新幹線は国鉄分割民営化によりJR東海は発足した1987(昭和62)年当時は新幹線保有機構の所有でJR東海はこれを借り受けて運行していた。しかし、JR東海は1991(平成3)年に東海道新幹線に関わる鉄道施設を約5兆円で買い取った。これにより約5.4兆円の長期債務を抱えることになったが、東海道新幹線のもたらす旅客収入で年間約1400億円ずつ返済を続け2015年度には長期債務残高は2兆円を切った。
さらに、東海道新幹線を買い取った1991年度の営業利益(単体)は2876億円だったのに対して、コロナ前の2018年度は6677億円に増加。こうしたことから、JR東海は、
「東海道新幹線を買い取った当時よりも会社の経営体力が強くなっている」
ことから6兆円程度の長期債務には十分に耐えられるという考えを持っている。
のぞみ(画像:写真AC)
これに対してリニア中央新幹線には根強い反対意見もある。
最も建設に影響を及ぼしているものが、静岡県の主張で、静岡工区は南アルプスの大井川の源流域に長大トンネルを掘ることから、その源流域から染み出したトンネル湧水が山梨現側に流出してしまい、大井川の渇水が心配されるというものだ。静岡県では「大井川下流域の利水に支障があり県民の生死に関わるとし、大井川水系「62万人の『命の水』を守らなければならない」とし、静岡工区の着工をなかなか認めようとしない。
このほかには、主な主張として、
・名古屋まで40分という時間優位性は、空港並みに厳しい保安検査にかかる時間で吹き飛んでしまう ・JR東海の需要予測は過大であり、リニアの採算は取れない ・リニアの投資額は介護保険の総費用に匹敵するので、計画には賛成できない
というものもある。
リニア乗車時の方法については、具体的にどのようなものになるのかはまだ正式には発表されていないが、リニア新幹線には乗車時に飛行機並みのボディチェックと手荷物検査が必要になるという致命的な欠陥を抱えているというものだ。品川~名古屋間はほとんどがトンネルで列車は中央制御による自動運転。定員約1000人の列車には3人の車掌が乗り込むだけで、暗黒のトンネル内を時速500kmで走る列車内に爆発物や凶器が持ち込まれたらどうなるのか。
そうしたことを防止するためには乗車前には空港並みのセキュリティーチェックが必要で、そのためにはそのためには遅くても乗車の30分前には駅検査場に到着していなければならない。加えて、各駅は大深度地下に設置されることから地下ホームに降りるまでの時間が10~20分程度余計にかかり、これらの時間を加味すると40分というリニアの時間優勢が失われるというものだ。
JR東海の需要予測は過大であり、リニアの採算は取れないについては、リニア中央新幹線が開業しても、それまで東海道新幹線を利用していた乗客が、リニア中央新幹線と東海道新幹線で分割されるだけなので、JR東海の売り上げは増えない。売り上げを増やそうと値上げをすると乗客は減るので、結局JR東海はリニア中央新幹線の投資を賄うことができない。さらにJR東海は、2037年の新大阪開業までに東海道新幹線とリニア中央新幹線を合わせて26%の乗客が増えると予測をしているが人口減少社会において過大であるというもの。
さらに、日本の介護保険総費用が9.7兆円であり、これはリニア中央新幹線の投資額に匹敵する金額なので賛成できないとう主張もある。介護保険総費用とリニア中央新幹線の建設費用はコストと投資で比較はできないが、これほどの巨額の費用をかけ、ひたすらトンネルの闇のなかを時速500kmで走る
「旅情などどこを探してもない」
リニアを作る意味があるのか。南アルプスがモグラの巣のように穴だらけになって引き返せなくなる前に、国民の意思でリニア建設にストップをかけようではないか、というものだ。
取材に応じる静岡県の川勝平太知事。2020年6月26日撮影(画像:時事)
静岡県では「大井川の水問題」ばかりが注目されがちで、リニア中央新幹線建設のメリットが報道されることは少ないが、実は静岡県に10年間で
「約1600億円」
の経済効果をもたらすという。
リニア中央新幹線が開業すると、東京・名古屋・大阪間の輸送需要が東海道新幹線からリニア中央新幹線にシフトし、東海道新幹線の輸送力に余力が生まれる。
そこで国土交通省は、この余力を活用して静岡県内の東海道新幹線の停車駅を現在の1.5倍程度に増やした場合、利便性の向上や県外からの観光客の増加などにより、リニア中央新幹線の停車駅がない静岡県の経済効果は、新大阪で開業する2046年までの10年間で1679億円に上り、延べ
「約1万5000人」
の雇用も創出すると試算している。みなさんはリニア建設についてどう思うだろうか。
櫛田泉(経済ジャーナリスト)
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